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異世界2日目エルフの街(5)『エルフの街の少子化対策』

「お待たせしました。

 ラボの方が賢者様に連絡してくれるそうですので、

 あそこの店に入ってまちましょう。

 今日は、ここだと男は目立ってしまいますし」


ノヴァは、笑顔で通りの向かいのお店の方向に手の平を差し向ける。

うわっ。この人マジ紳士だ。さすがは騎士様。


ノヴァの案内で、ミエと3人で店に入る。

店に入る時のドアも、ノヴァが開けてくれて、ミエに続いて自分が入る。


お店に入ると、不思議な事にスタッフは全員男だ。

なかなかおしゃれなお店なのに、ホールスタッフは全員男。

客席を見ると、外と同じように女性と子供だけだ。


お店のスタッフに案内されて、椅子につく。

椅子に座る時も、ミエにはスタッフがついて椅子を引いている。


ミエは椅子に座るとすぐにメニューを開いて、

スタッフに注文をしている。

続いてノヴァも注文をしている。


自分も続けて注文をしょうと思いメニューを開いてはみたが、

メニューに書かれている文字がまったく読めない。読めない場合は、仕方がない。こういう時はいつもの魔法の言葉を使う。


「同じ物で」


スタッフに注文を済ませ、

まず最初に疑問に思った事をノヴァにぶつけてみた。


「なんですかこの異様なまでの女性びいきと、

 女性と子供しかいないこの街は?」


ノヴァは驚きの表情を一瞬見せるが、すぐに普通の顔に戻る。


「やっぱり賢者の弟子さんも、不思議に思いますか?」


ノヴァは、笑みを浮かべたまま目をつむる。


「大変恥ずかしい事なのですが、

 エルフは今、少子化問題を抱えており、

 その対策として、

 子供を産んだ女性に優遇措置をおこなっています。

 その一環として、結婚をした女性もまた優遇されています」


「優遇措置?」


「はい。つい200年ほど前まで、

 エルフ族は他の種族と違って男女平等だったのですが、

 女性が男性と同じように労働してしまった事により、

 晩婚化が進み、人口がかなり減ってしまったのです。


 今ではその対策として、

 女性が仕事をしなくてよいように見直しがおこなわれ、

 優遇措置が取られています」


ノヴァは、自分の質問に答えながら、テーブルに置かれている空のコップを人数分用意して水を入れ、ミエ、自分という順番に水の入ったコップを配る。


「女性が仕事をしなくてもよいって、どうやって?」


「女性が仕事をしないといけない理由をなくしたんですよ」


女性が仕事をしないといけない理由。

頭の中で考えるが、高校生の自分には大人の事情がわかるはずもない。


「すいません。まったく想像がつかないんですが、どんなことやってるんですか?」


ノヴァはメニューを自分に見えやすいように開いてくれる。


「今ここに載っている飲み物の金額は、

 結婚をしていない独身の方が支払う金額です。

 そして、その横に書いてある金額が結婚をしている方の支払う金額です」


指をさして説明してくれているのだけど、文字が読めないので金額がわからない。目を細めてみていると、


「独身の人は、2000ユーグル。

 結婚をしている人は、500ユーグルですね」


ミエが困っていた自分にきづいてくれて、読み上げてくれる。

すんません。


「独身の人は結婚してる人の4倍も払うの???」


「それは違います。


 結婚をすると、独身者の4分の1の価格で買えるようになるんです。


 そして、子供ができると、

 さらに物が安く購入できる仕組みになっています。

 子供が3人いる家庭だと、

 父と母と子供3人を足し5人となりますので、

 500ユーグルを5で割った金額の100ユーグル。


 子供が増えても出費は一切増えていきませんから、

 子供も作り安く、女性が働く必要がないのです。


 食料品などは、

 価格を同じにして家族の人数に合わせて数で優遇しています。


 この優遇措置で9割の女性がお金を稼ぐ必要がなくなり、

 仕事をやめましたからね。


 今ではその人手を機械人形で補ってます」


「独身者や若い人には厳しい街に思えますね」


「そう言われると返す言葉もありませんが、

 少子化が進めば、エルフ族の存亡が危うくなりますからね。

 種族が滅んでしまっては元も子もありませんので」


「どこの世界でも少子化ってのは問題なんですね」


自分たちの世界では、人間だけだもんな。

いろいろな種族で戦争とかやってると、

やっぱり少子化ってかなりの問題になるんだろう。


「エルフ族は長い間、女性に負担をかけすぎてきましたから」


ノヴァが悲しそうな表情に変わる。


女性に負担をかけすぎて・・・か。

自分たちの世界はどうなんだろう。

やっぱり、女の人たちは内心では仕事をするのは嫌なんだろうか。

働いた経験のない自分には、働いている人の気持ちはいまいちわからない。


「若くて独身の人なんか、もの凄く結婚相手を探してるんですよね?」


ミエが、悲しそうな表情のノヴァに質問をする。


「そうですね。

 結婚をすればすべてが安く買えるようになりますからね」


なるほどね。晩婚化対策に、

まずはいろいろな物を金額を安く買えるってメリットをつけている訳だ。

そして、子供が増えても出費が増えないように、人数割。

なんだかんで、よく考えられているのか。


「私もこの世界だったらすぐに彼氏と結婚してたと思いますよ。

 賢者の弟子さんもそうでしょ?」


ミエと視線があう。

なにこの子、もしかして元の世界ではリア充なの?

そんなリア充なのに、異世界きちゃってるの?

文字が読める事といい、なにこの格差転移。


「自分は、その、なんていうか相手が・・・ね」


相手もいないし、それ以前に年齢的に結婚無理。


「ごめんなさい。変な事をきいちゃいました?」


ミエと目があってしまい、

ノヴァさんの存在で忘れていた緊張が、舞い戻る。


「あっ いや、気にしないでください。

 自分は、その、病気で、、、」


「病気?」


名前以外の事は話して大丈夫・・・なんだよな・・・


「その、なんていうか、病気を治してもらう事を条件に」


ミエは、椅子に深く腰掛けて頷いている。


「病気を治してもらう事を条件にしたんですね」


ああ、、、もう、、、ありがとう、、、優秀な人って助かるわ、


「はい。ありがとうございます」


自分の返答を聞いて、ミエはクスクスと笑っている。

ノヴァも笑みをこぼしている。

つか、俺はなぜお礼を言ってる。


これ絶対に、俺が女性が苦手ってバレてるよな。


「いや、本当に、病気で、あんまり人と接した事がなくて」


自分なりの必死のフォローもむなしく空振りに終わる。

もう話せば話すほど、ボロがでる。


「わかりますよ。私だって、かなり緊張してますから」


それ、同情してフォローしてくれてますよね。

絶対緊張とかしてないですよね。すんません。


男性のスタッフが持ってきた飲み物を一口飲む。

これはノヴァが注文した物と同じ物だ。

アイスティーみたいなもののようで、ほっとする。

一呼吸置き、気持ちを切り替える。


「どうかしましたか?」


「あっ、いや、ちょっと気持ちを落ち着かせていて

 女性になれてない僕には女性ばかりの街って精神的につらくて」


「今は結婚している女性のタイムサービスの時間帯だからね」


・・・なにそれ?そんな物まであるの?


ノヴァがいきなり立ち上がり入り口の方をむく。

そのノヴァの動きを見て、ミエも立ち上がる。


店内がいきなりざわつき始める。


回りの女性はお店の入り口の方を向いている。


・・・ああ、もうだいたい想像ができる。


というか、回りの女性の目をみると、あのちっちゃいのが来たのは間違いない。


何、このタイミング?話途中だよ。

このタイミングで来ちゃうの?

漫画とアニメとかだったら、だいたい区切りの良いところで出てくるじゃん。


女性優遇のこの世界、男は入り口に背を向けて座っている。

自分は今もっとも危険な位置に座っている。

背後から、ただならぬ気配を感じる。

この気配は、間違いなく奴だろう。


合流できる事は嬉しいんだけど、このお店の中で集まった視線は拷問だ。

もう少し、登場するタイミングってのも考えてほしい。


「これでもぉ、ちゃんと考えたわよぉ

 君の心の声は離れててもちゃんと聞こえてるものぉ」


「お待ちしておりましたよ。賢者様」


後ろを振り向かず、ちょっと嫌みを込めて言ってみる。


「ノヴァちゃんにはうちの子が迷惑をかけちゃったわねぇ」


えっ、騎士様をちゃん付け?


そんな無礼はエルフの賢者に対してノヴァは紳士的に一礼をする。

そのノヴァの動きをみて、ミエも真似して一礼をする。


この場合は、自分も立ち上がって、一礼とかした方が良いのだろうか。

どうしたらいいんだろう。

ノヴァに視線を送るが、ノヴァの目とは視線があわない。


「座ったままでいいよぉ」


ああ、そうでした。

自分の考えてる事は、この賢者様にはわかっているんですよね。


賢者の弟子はため息をつき、立ちあがり空いている椅子を賢者様が座れるように用意する。


「どうぞぉ、エルフの賢者様」


そこに座るのは、小人の賢者。


なっ、おいおい、おまえの為に用意したんじゃねえよ。


椅子に座った小人の賢者を持ち上げて、エルフの賢者が座るのを待つ。

エルフの賢者は、笑みをこぼして椅子に腰を下ろす。


「みんなもぉ、座っていいよぉ」


賢者の言葉を聞き、ノヴァがミエに座るように手で合図を送る。

ミエが座るのを見届けると、自分にも座るように手で合図をくれる。


この小人の賢者、どうしよう。


下を見ると、小人の賢者は、こちらをずっと見ている。

椅子の数が足らない。

立場的に考えたら、自分が賢者に席を譲るのがベストなんだろう。


「こいつは、君の膝の上にのせておけばいいよぉ」


「いいの?」


「この場だけだけどねっ!」


エルフの賢者は小人の賢者を眉間にしわを寄せてにらみつける。

本意ではないけど、この場では仕方がないという事なのだろう。


「了解」


椅子に腰を下ろして、小人の賢者を膝の上にのせる。

小人の賢者は、机の上に置かれている水の入ったコップを手に取って水を飲む。


・・・それ、俺のなんだけど・・・


ノヴァも椅子に腰掛け、空のコップを2つ用意する。


「エルフの賢者様は、もう『エルフの賢者の物』さんとはご契約を?」


ノヴァは、コップに水をくみながら、エルフの賢者に質問をする。


「最初にねぇ」


「そうでしたか」


ノヴァは驚きの表情を浮かべて、自分の方を見てくる。


えっ、なに?俺なんかおかしいの?


「ノヴァちゃんはまだ契約は結んでないのかなぁ?」


「はい。まだ契約までは済ませていません」


ーー契約って、病気を治す代わりに本を翻訳する約束の事だよな。


「そうだよぉ」


頭の中で、エルフの賢者からすぐに返事がくる。


「私はまだ、この女性には他にむいている仕事があるのでは迷っていまして」


ノヴァは、賢者に迷いがある事を真剣なおもむきで告げる。

ミエをチラッと見ると、ミエの視線は自分が膝の上にのせている小人の賢者に一直線だ。小人の賢者に手を振ったり、顔芸を披露したりとか、もう小人の賢者の虜になっている。

小人の賢者は、男の敵で確定だなっ。


「私はノヴァちゃんの考えを尊重するよぉ」


エルフの賢者はいつも自分に見せる笑顔と同じ物をノヴァに向かって返す。


ノヴァの表情が少し緩むのがわかる。


「それより君たちはなんの話をしていたのかなぁ?」


エルフの賢者は、ノヴァに視線を一度送った後で、横目でこちらをじっと見てくる。


「いや、外は女性ばっかりだから、どうしてなのか教えてもらっていただけだよ」


「今の時間帯はぁ、女の子たちのだけの憩いの時間ねぇ」


タイムサービスの時間帯・・・

街全体をそんな時間帯にするなんて、半端ないな。


「それで俺が女性から変な目で見られてた訳か」


「そうだね。今この時間帯はほとんどの男性は仕事中のはずだからね」


ノヴァさんは、、、改めて洋服を見ると、制服っぽい服装だ。

もしかして、その服が制服で仕事中って事なのか・・・


「子供ができた女性っていうのは、

 縄張り意識が強くなるのよぉ。


 だから、自分の縄張りに見知らぬ男がきたら、

 どうしても気になってしまう物よぉ」


それで自分はバリバリ不審者扱い・・・


なんとなく理解ができて、思わずため息がでた。


ただはぐれただけなのに・・・


「今のこの街はいいでしょぉ?

 どこに行っても、女性の笑顔が見られるわぁ。


 前の王やその前の王は、

 自分たちの近くにいる意識レベルの高い女の意見を聞きすぎていたのよぉ。


 だから、普通の女の子たちはやりたくもない仕事を強いられて、

 少子化なんて馬鹿な問題が発生したのよぉ」


「だね。子供が沢山産まれれば、

 人手が足りなくなる事だってなくなるのにね」


小人の賢者がエルフの賢者に同意する。


「いや、その分男が大変な思いをしてるんじゃないの?」


「家に帰ったら奥さんが笑顔で迎えてくれるのよぉ?」


「結婚したことがないからわからないよ」


この野郎、わかるはずないだろうと思いを込めてエルフの賢者をじっと睨む。

エルフの賢者は、そんな自分の顔を見てにっこりと微笑みで帰す。


「『賢者の弟子』さんの意見も貴重な意見として、王に話をしておきますよ」


「今この時間帯は、どこに行っても結婚している女性ばかりなんですよね」


ミエが外を眺めながめて言っている。


「そうよぉ。みんな良い顔してるでしょぉ」


その言葉に、エルフの賢者が答える。


自分も、店の外を見る。外は女性と子供ばかりだ。

この店の中でも、子供を連れた女性は非常に多い。

子供は子供同士で、そして女性は女性同士で話をしているようだ。


結婚して、子供を持った女性への徹底した優遇措置により、

働く必要がなくなった女性。


今まで働いていた時間を自由に使い、

子供と一緒に街にでて、買い物をしたり、

こうやっておしゃべりをして、時間をつぶす訳か。


自分たちの世界では考えられない光景。


やっぱ、ここは異世界だ。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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