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異世界2日目エルフの街(4)『騎士と同郷者』

気持ちを落ち着かせる為に、通りの隅のベンチに腰を落とす。


右を見ても左を見ても、どこを見ても女性と子供、男はいったいどこに行ったのだろう。そして、妙に肌触りのよいベンチ。見た目はやっぱり木材のようだけど、指で強く押すとゆっくりと凹み、指を離すと元に戻る。まるで形状を記憶をしているみたいだ。


「あのぉ」


ベンチで腰掛けて、ベンチの素材をチェックしたら、

眼鏡をかけた女の子が話しかけてきた。


・・・うむ。誰だろ。こっちの世界にきて知っているのは、

賢者様とちびっ子賢者と係の人と金髪と銀髪の少女ぐらいだ。


「賢者の弟子さんですよね?」


「・・・はい。そうですけど」


まぁ、さっきあれだけ派手に街の中を駆け回ったんだし、自分の名前はもうみんな知ってるか・・・


「昨日、魔力測定の所であった、ミエです」


・・・ミエ?・・・誰だっけ?えぇと・・・そういう事もあったような。

昨日、昨日・・・もしかして計測の時に待たせてた子か?

んっ?それなら、この子はエルフ族じゃないんじゃないか?

そう思ったら急に緊張してきた。


年齢は見た目では同世代ぐらいか、ちょっと上。

大学生ではないだろう。

髪の毛は黒で、後ろで縛っている。

長さはセミロングぐらい。

顔はクラスで3番目ぐらいに上げられるタイプだ。


「こんなところで、何をされてるんですか?」


「あっ、なんつぅか、うちの賢者様とはぐれちゃって・・・」


声に出して、はっと気づいた。

初めてきた異世界ではぐれたって、それってもしかして俺って絶賛迷子中?


「迷子って訳じゃないよ。ちょっと逸れて途方にくれてただけで・・・」


迷子ではないと必死にフォローしようと思ったが、なんか逆に自分は迷子ですと告白してしまった。


「もしよかったら、お話しませんか?

 多分、同じ世界から来たんですよね?」


「えっ、そなの?」


いきなり誘われて、思わず相手の顔を凝視してしまう。

同じ世界から来た?これからどうすればいいかまったく決まってないし、時間があるのかどうかもまったくわからない。


「もうじき騎士様も来ますから、賢者様に連絡してもらえると思いますよ」


ふむ、騎士様、かぁ・・・なんか響だけ聞くとうちの賢者と比べると幾分かまともな感じなのかな。でもあの賢者の街の騎士様だもなんなぁ。

でも、連絡をつけてもらえるなら、ありがたい。

正直、本当に会えるかどうかも不安だし。一応自分は命を狙われているはずだし。

賢者の屋敷に帰るあてがまったくない。そして自分の世界に帰るあてもない。

今の自分はどこにも帰れない。


「お願いします」


「お願い?・・・」


「あっ、いえちょっとあれこれ考えちゃって、どうもすいません」


何いきなりお願いしちゃってんの俺!

心の声が聞こえてる訳ないんだし、ちゃんと会話しないと。


自分のとなりに眼鏡の女の子は腰掛ける。

ベンチに異性と2人で腰掛けるなんて事は、今まで経験した事がない。


「賢者の弟子さんって、ここだけの話、どこから来られたんですか?」


「あっ いや、目本ですよ」


「やっぱりそうなんですね。私も目本からなんです」


笑顔になる眼鏡の女の子と完全にまっすぐ前を見て考える像になる賢者の弟子。


「目本のどこからですか?」


「えっ、そんな事まで話して大丈夫なんですか?」


「本名以外の情報は話しても構わないんですよ。

 それにこの世界で得た情報は、元の世界に戻ったら忘れてしまうそうで、

 元の世界でなにか問題が起きる心配もないんですよ」


「そなの?いや、何も聞いてなくて、いや、何も話してもらえなくて・・・」


どっちも同じだ。ダメ、もう完全にテンパってる。


「こちらで得た知識は元の世界に戻ると忘れてしまうんだそうですけど、

 元の世界の記憶は、こちらの世界に持ってこれるんだそうです」


元の世界に戻ったら忘れてしまう・・・か。

まぁ、この世界の記憶を元の世界に持ち帰ってもあんまいい事おこらないだろうし、きっと問題を起こしたバカがいたんだんだろうなぁ。


「ちなみに私は岐府からきました。ナガラ川とかってわかります?」


「えっ?!むっちゃわかります。僕も岐府なんで」


異世界でまさかの同郷者にびっくりしたのと、

同郷者だとわかり、少しだけ落ち着ける事ができた。


「今回こちらに来てるのって、

 岐府の人が多いって聞いてます。


 3ヶ月くらい前から、騎士様が来てくれて

 いろいろ話は聞いていたんですよ」


「3ヶ月?!?!そんな前から?」


「はい。文字が読めないと大変だろうからって、文字も教わりました」


この眼鏡の女の子は3ヶ月前からアポ取られて、

文字まで教えてもらってる。

自分はというと、防空壕で寝ていた所を拉致されて、そのまま異世界直行。

何なんだこの差は?担当者が違うから?


「って文字読めるんですか?」


「はい。簡単な文字だけですけど」


「すごいですねぇ。

 僕はまだ、まったく読めないです」


読めないもなにも、なにも教えてもらってない。

この世界に来て教わった事は何もないんじゃないかと思えるぐらいだ。


お互い昨日が初日のはずなのに、スタートラインに格差がある。

文字が読めると読めないのでは、かなりの差があると思うんだけど...


「ミエさん、お待たせしました」


男の声が聞こえて、ぱっと声のした方向に視線をむける。


「騎士様、お久しぶりです」


となりに座っていたミエはすぐに立ち上がって、男に挨拶をしている。

男は、金髪、色白、顔は目鼻立ちもよく美形だ。

服装も、白をベースとした組み合わせで、上着には、なかなかおしゃれ刺繍が入っている。


「この方は?」


自分だけ座っている事に気づいてすぐに立ち上がる。


「『エルフの賢者の物』さんです。

 昨日、魔力測定の時に知り合って、偶然ここであったんです」


・・・物。。。


眼鏡の女の子にすべて言われてしまった。


「『エルフの賢者の物』さんですか、私は『エルフの騎士』の『ノヴァ』です」


騎士は右手を差し出してきた。これは握手をしたいという意味だろう。

しかし、物と言われるのはやっぱり抵抗がある、ここは物ではなく弟子であることを強調しておこう。


「昨日から、『エルフの賢者の物』になった『賢者の弟子』です。よろしくお願いします」


頭を下げて、差し出された右手を握る。


となりで眼鏡の女の子がクスクスと笑っているけど、何が面白いのだろう。


「こちらこそ、よろしくお願いしますね。『エルフの賢者の物』さん」


騎士は、にっこり笑顔を返してくれる。

なんていうか、これまで見た中で、最もエルフっぽく、どうやらまともな人のようだ。相手が人間でないとわかると不思議な事にほっとする。

ただ、なんというか違和感がある。自分よりも身長が低いのだ。


「賢者の弟子さんですけど、

 エルフの賢者様とはぐれてしまったそうなんです。

 エルフの賢者様に連絡をする事って可能ですか?」


眼鏡の女の子、現在自分の置かれている状況を説明してくれる。

さすがはメガネっ娘、あくまでもこれは自分の思い込みだけど、眼鏡をかけている女の子はみんな優秀だ。


「それでは、賢者様のラボに連絡をしておきますね」


さすがは、騎士様って言われるだけのことある。

女性に対する受け答えもばっちりだ。

それに比べて自分は・・・


騎士は自分たちと距離を置き、何か話をしている。

携帯電話みたいな物はもってないし、どうやって話しているんだろう。


「さっき、ねるとんみたいだったので笑っちゃいました」


「ねるとん?」


眼鏡の女の子は口元に手を持ってきて、失敗したという表情をうかべている。


ねるとんか。今度自分の世界に帰ったら調べてみよう。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

次の更新は夜になります。

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