異世界2日目エルフの街(2)『パレード』
恥ずかしい。
いや、恥ずかしいというレベルを越えている。
もし自分に魔力があったなら、顔から火がでてるはずだ。
この状況、どう考えたっておかしい。
常識では考えられない絵になっている。
女性の視線がもの凄く痛い。
そんな目で見ないでほしい。
お願いだからもう見ないでくれ。
「相変わらずぅ
君の心の中はうるさいねぇ」
目の前に見える賢者の横顔。
賢者はにっこりと微笑んでいる。
「おまえ、この状況でよく笑ってられるな!」
「なんでぇ?」
「いや、どう考えてもおかしいでしょ。
小人の賢者が一番下って一番おかしなポジだろ」
そう、現在エルフの街の商店街のような所の大通りを、
小人の賢者が片手で、エルフの賢者を持ち上げて、
エルフの賢者にお姫様抱っこで賢者の弟子が抱きかかえられている状態だ。
一番小さな男の子が、大人の2人を片手で持ち上げている。
そして、美人の女性にハンサムとはいえない男が抱っこされている。
「えぇ?」
賢者は首をかしげている。
「いや、あんな小さな子供が一番下って、それ全然おかしいから!
それに俺命狙われてるのに、一番目立ってるっておかすぎだろ」
「何を言ってるのぉ?目立ってるからあいつらも手が出せないじゃない」
「おまえ大の男と女が子供持ち上げられてる絵なんか実際には想像できるか?それ絶対おかしいだろ。こういうのは漫画でのみ許されるんだよ。このシーンは扉絵確定だよ」
「あの子はドワーフだよぉ」
「ドワーフだからって子供じゃん」
「ドワーフ族はぁ、7種族の中で1番の力持ちなんだよぉ」
「・・・7種族? いやでも見た目をもっと気にしようぜ。見た目がおかしい」
「きみぃ。
もしかしてぇ、見た目とか体裁とかを結構気にしちゃうタイプかなぁ?」
・・・ああ、気にする。ものすごく気にする。
「とりあえず、止まろうぜ。止まってちょっと話をしよう」
「そうは言ってもねぇ」
賢者は後ろを確認する。
その後、自分にも後ろが見れるように身体をひねる。
「この状況でぇ止まるのはおすすめしないかなぁ」
自分たちの後を追って、エルフの女性陣が駆けている。
銀髪の少女が必死に食い止めてくれてはいるが、危害を加えられない以上、その効果もかなり薄い。
しかもかなりの人数になっており、街の往来をふさいでしまっている状態だ。
これは、もう警備兵とか出てきてもおかしくレベルだ。
エルフの街を大混乱に陥れているといっていい。
「なんでこんな事になってるの?」
賢者はにっこり微笑む。
「君が街の入り口で地面とにらめっこしてたからかなぁ」
・・・すまん。俺が原因だ。
「これじゃぁ、もうあの子も認識阻害も使えないからねぇ。
お城まで駆け抜けちゃうしかないかなぁ」
いやいや、ちょっと待て。
それだけはやめてくれ。
それって、ようは街の入り口からお城まで賢者にお姫様抱っこで駆け抜けるって事だろ。
今日、異世界の初めての街だよ。
そんなデビューの仕方は本当にやめて。
「どっか隠れる所ないのかよ。
だいたい、なんでこんな目立つ逃げ方してんだよ」
「君が私の物だってぇ。街のみんなに知ってもらう為かなぁ」
・・・おまえ、本当の目的はそれか!この確信犯が!!!
そうだった。この賢者はそういう奴だった。
小人の賢者のせいで、忘れてたよ。
なぜエルフの女性陣から逃げ切れないのか?
小人の賢者は、7種族の中で一番の力を持つドワーフ族の長。
大人2人を片手で持ち上げるなど、朝飯前なのだ。
ただし、ドワーフの彼は力があっても速度がない。
身長が低く、足も短いドワーフ族は走るのが苦手なのだ。
もちろん、これが森の中であれば、その身長を生かして木々の間をすり抜け、
どの種族よりも早いだろう。
だが、ここはエルフの街の大通り。エルフの女性陣の障害となる物は何もない。
そんな環境で小人の賢者の足で逃げているのだ、追いつかれて当然。
ただ単に小人の賢者がエルフの女性陣を引き連れて、凱旋パレードしているだけなのだ。
よくよく賢者を見ていると、市民に笑顔を振りまいている。
まるで、結婚パレードのように小人の賢者を馬車に使い、街を蹂躙している。
そう、すべてはエルフの賢者の計算の通りなのだ。
「もう何か1つ言うこと聞くから、お願い止まって」
お姫様抱っこされた状態では、もうお願いするしかない。
賢者の顔にほほを寄せて頼みこむ。
「なぁら。今夜一緒にお風呂に入ろっかぁ?」
「*+◇※▲∴÷;¥!”#$%」
いかん。完全に賢者の裸を想像してしまった。
顔も耳も一気に赤くなる。
この想像が賢者に読まれている事を考えると、顔の赤みが増していく。
「あれぇ?顔がどんどん赤くなっていくねぇ」
こういう時の賢者の攻撃は半端ない。
顔に息を吹きかけられ、そのくすぐったい感触に過敏に反応してしまう。
「うわっ、そういうのマジでやめて。俺そういうの全く未知の領域だから」
身体を反らして、賢者の息が当たらない所まで頭を移動する。
「肩をマッサージでいいよぉ」
お姫様抱っこされた状態で、肩に視線を送る。
肩に視線を送ると、そして谷間にも...
賢者の弟子は硬直する。頭の中は真っ白だ。
ここまで来る前に何度かお姫様抱っこをされていたが、今回ある事実に気づいてしまった。
もしかしたら、これはエルフ賢者が仕掛けたトラップなのかもしれない。
だが、今の賢者の弟子はそんな事を考える余裕もない。
賢者の弟子は見てしまったのである。
肩に目をやり、そのまま視線をおとして胸の谷間に。
そして、自分の脇腹が賢者の胸にずっと押し当てられていた事に。
女性に対する耐性をほとんど持っていない賢者の弟子にとって、この事実は知ってはいけない領域の物だった。
知らなければ、気づかなければ幸せな事。
「最初の時からぁ。
ずっと当たってたんだけどねぇ」
エルフの賢者は弟子に向かって笑顔をこぼす。
エルフの賢者にとっては、胸を触られる事より、この男が自分の物である事を証明する事の方が重要だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




