異世界2日目の朝(4)『ただのお遊び』
肩から上、頭の部分のみ土に打ち付けられ泥だらけ。
口の中にも、土が入りさっきから唾を利用して土を少しずつ外に吐き出す。
賢者に抱えられ、草原を進む。
背後にはメイド服を着た金髪の少女と銀髪の少女。
少女の姿こそしているが、中身は精霊であり性別というのは、
その身体の物理的な部分のみを指す。
「賢者さま、お願いですから下ろしてくださいよ。
2日連続で抱えられてると、
男とのしてのプライドが音を立てて崩れていく気がするから」
「男としてのプライドォ?
身体は男でも中身は男としては落第もいいとこでしょぉ」
「・・・」
さっきの件、相当根に持ってるな…
なんとか賢者のご機嫌をとらないと今日1日かなりやばいかも。
「ねぇ、昨日の夜別れた時より、
朝の方がひどく状態なんだけど何かあったのぉ?」
「んっ?
おまえいったいいつからいたの?」
エルフの賢者のすぐとなりを小人の賢者が歩き、なんだかとてもあわれんだ表情で見られている。
「ずっといたんだけどねぇ
全然気づいてもらえないから、話かけちゃった。
テヘッ」
「いや、おまえを気づけないとかありえないから、
どうせ認識阻害の魔法とか使って隠れてたんじゃないのかよ」
「あの状態で、僕が隠れる必要あったと思うの?
みんな風の大精霊様に集中しちゃってたから、
少し離れたところでずっと見てたよぉ。
だいたい君が逆さになって、地面に叩きつけれてもへっちゃらなのは、
僕が魔法で地面を柔らかくしてあげたんだからね。
少しは僕に感謝したらぁ」
「ふぅん。やっぱりあなたが地面をさわってたんだぁ」
小人の賢者の話にエルフの賢者が割って入り、片足で小人の賢者を蹴ろうとする。
小人の賢者はその足をハードルを飛び越えるかのように避けて、足の届かない距離まで下がった。
「もう、すぐに暴力ふるうんだからぁ。暴力反対」
「今まで口で言ってぇ直った事ってあるかしらぁ」
・・・
小人の賢者はバチが悪そうに顔を下げ賢者から距離を少しとる。
エルフの賢者はすぐに魔法らしき物で、小人の賢者が立っている部分の地面に大きな穴をあけ、小人の賢者を飲み込もうとする。
小人の賢者はすぐにそれに気づき、大きく前に前転して避けた。
「ちょっと、ここは戦闘禁止」
小人の賢者は、エルフの賢者の攻撃を避けながら叫ぶがエルフの賢者はそんなの知ったことかと、今度は地面を大きく起伏させ、小人の賢者の逃げ道を奪う。
「うわっ、はっ、ほいっ」
ドワーフである小人の賢者はその体格をいかした俊敏な動きで起伏した大地や穴を避けていくが、徐々に逃げ道を奪われ遠くに追いやられていく。
「こぉのぉ!!!」
小人の賢者が叫び声をあげて、大地を殴りつけると、大地は「ドォーン」と音を立てて揺れ、小人の賢者とエルフの賢者の間に大きな土の壁を作り出す。
エルフの賢者はすぐにその壁に向かって何かの魔法を放ち壁に大きな穴を開ける。
エルフの賢者と小人の賢者がその後を通して一直線に睨みあうとすぐにエルフの賢者が手を上にあげ、小人の賢者を指差した。
「鳥の餌にでもなってなさい」
エルフの賢者が笑みを浮かべて話すと、青い空を埋めつくほどの沢山の鳥が小人の賢者めがけて飛んでいく。
・・・
「これでしばらくは静かになるかなぁ」
「・・・ちょっ、あんなことして大丈夫なのかよ?」
「あれぐらいではぁ
あいつは大丈夫よぉ
鳥との鬼ごっこを楽しんでるんじゃないかなぁ」
「・・・って、普通に考えたら、そんなことないだろ。
だいたい、ここは戦闘とか禁止なんだろ?
なのに、なにやってんだよ」
思わずツッコミを入れてしまったが、賢者は涼しい顔をして小人の賢者を追う鳥たちを見て、あれでも?と言わんばかりに指をさす。
鳥たちは、集団で何かを追いかけるように飛び回り、一旦上空に飛んでは急下降してを繰り返している。集団となった鳥の群れは遠目ではまるで大蛇のように見える。おそらくはあの場所に小人の賢者がいるのだろう。
それぐらいは自分でも想像がついた。
「こんなのただのお遊びよぉ」
お遊び・・・地面に大きな穴を開けたり山を作ったりするのがただのお遊び?
これ完全に近いがもう別物になっちゃってるよな。
「賢者様、修復は後ほどでもよろしいでしょうか?」
銀髪の少女が賢者に向かって言うと、賢者はうなずきかえした。
・・・ああ、そういう事ね。どんだけ破壊しても、精霊の力でパパパッと直せちゃう訳ね。もう呆れて何も言えんわっ
「はぁ〜。なぁ、今日こそはエルフの街に行くんだよなぁ?」
ため息をつき、朝からずっと気になっていた今日の予定をエルフの賢者に確認する。
「もちろんそのつもりだけどぉ
ちょっと護衛の人数を増やそうかしらぁ」
朝から大精霊なんて大物に挨拶にこられるぐらいだし、護衛の数を増やすというは当たり前の事なのかもしれない。しかし、何人もの護衛をつけられて異世界の街を歩くと言うのも、ものすごく恥ずかしい気がする。
「そんな沢山護衛つけるぐらいだったら、街なんかいけなくても俺はいいんだけど」
賢者のご機嫌を損ねないように、チラチラと顔を確認しながら話す。
エルフの賢者は一瞬眉間にしわを寄せたが、すぐに何か思いついたように笑みを浮かべて、
「あなたが気にする事はないわぁ
私に任せておけば大丈夫よぉ」
賢者のこの笑みを見るともうため息すら出てこない。
それはまたどうしようもない事を思いついたとしか自分には思えない。
真っ青な空に飛ぶ鳥たち、自分もあの鳥のように自由に飛べたらどれだけ楽なんだろうか。
「そうねぇ
なら、今度は鳥の身体に君を入れてあげるわぁ」
「んはっ、ちょっ、このタイミングで人の心の中を覗き見るとか本当にやめて」
「このタイミングってぇ
ずっと、私は聞いてたわよぉ」
「・・・もうそういうの本当にやめて、恥ずかしくて仕方ないから!」
手で顔を隠そうしたが時すでに遅しといったところか。
泥まみれの顔や頭を両手でふれてしまったために、手のひらまで泥だらけにしてしまった。
その様子を賢者の後ろで見ていた金髪の少女は、ため息を1度つき賢者にむかって話す。
「ところで賢者様、
賢者様の物がずいぶん汚れてしまって、
本当の汚物になっておりますが、
いかがいたしましょう」
「ちょっと、おまえも本物の汚物とかもう少し言い方ってのをだなぁ」
金髪の少女の鋭い視線に怖気づき、語尾が弱くなっていく。
「そうねぇ
ちょっと綺麗にしておこうかしらぁ」
賢者は自分を肩に担ぎ、自分の頭の上に片手をあげると、手の平の上に黒い球体が出現した。そして自分の顔や手についた泥がその手の平の上の黒い球体に吸い込まれていく。
どういう魔法なのだろう。ブラックホール的な物なのだろうか。
汚れだけを全て吸い込むと、賢者は手で黒い球体を握りつぶす。
「なぁ、今のって俺でも使えるようになったりする?」
「残念だけどぉ
君には才能がないからぁ
今のは使えないわぁ」
魔法を見るたびに、心惹かれる。
でも、自分には魔法は使えない。
使おうと思っても才能がない。
たとえ覚えたとしても、それを実行する魔力がない。
異世界にきても、底辺の人間はやっぱり底辺なのだ。
「そんなに落ち込む必要はないわよぉ
今の魔法が使えるのはぁ
私だけなんだからぁ」
・・・
賢者のみが利用できる魔法かぁ。
やっぱ賢者ってのは特別なんだなぁ。
「特別なんかじゃないわよぉ」
「だから、人の心を勝手に聞くなって・・・」
「君がぁ無防備すぎるのがいけないのよぉ」
賢者が顔をぐっと近づけてくるが、自分には逃げ場がない。
賢者もその事をわかっていての行動だろう。




