異世界2日目の朝(1)
自分にとって、寝起きとは低血圧との戦いだった。
起き上がりたくても起き上がれない。
手足が遠く感じられ、自分の顔を手で触れる事すら時間がかかる。
瞼を開けたくても、なかなか瞼が開かない。
意識が起き身体を起こすまで数十分。
それが毎日で、自分にとっての当たり前になっていた。
しかし、それは先日までの話。
瞼を開ければ目に飛び込んでくるのは、淡い光を放つ不思議な天井。
見覚えのある部屋をぐるっと見渡すと、椅子やテーブル、タンスが置かれている。
「…なんか、寝起きが良いってのも慣れないもんだなぁ」
ベッドのすぐ脇に置かれているテーブルの上に置かれているポットとカップにむかって話す。
・・・
・・・
「返事なしかよ!おまえら無視とか冷たくない?」
昨日、あれだけ自分をおちょくってくれたポットがまったくの無反応。
「・・・なんだよぉ。いったい。もしかして、昨日の事で賢者に叱られでもしたのか?」
話しかけても反応しないポットに対して話かけ、ポットを手にとる。
口も鼻も目も何もついていない、見た目はごく普通のポット。
しかし、精霊が宿っているために、おしゃべりをしたり宙をまったりとやりたい放題だ。
ポットを手にとってみたいがまったく無反応。
「あのなぁ、俺は昨日のこと怒ってないし、
ホントそういうのやめてくれないか?
昨日あれだけ絡んできたのが、
次の日はまったく絡んでこないとか、
怖すぎるぜ。
カップやタンスだってそう思うよな」
カップとタンスに向かって話かけてみたが、カップもタンスもまったく無反応だ。
「・・・なんだよ。この空気、まるで家具に一人お話してる痛い人って感じになってんだけどぉ」
・・・なに、こいつら本当に無視かよ。
何をしゃべってもなんの反応もしてくれない家具たち。
音が出るようにため息をついて、ベッドから立ち上がる。
「いいですよぉ。おまえがそういうつもりなら、
俺は俺で勝手にやらせてもらいますからねぇ」
意識も身体も完全に覚醒し、軽く肩を振り回して体調を確認。
手足の関節も以上なし。
今までは絶対にできない行動とってみて、改めて病気ではないことを確認する。
時間を確認しようと思ったが、時計らしきものはなし。
ただ、窓から見える外は明るく、日中だということがわかる。
家具たちに完全に無視されたため、ドアのぶに手をかけ部屋を出る。
その理由はたったひとつ。
朝起きてから最初に行くべき所に行く為だ。
赤い絨毯の上に乗ったが、絨毯も一切反応なし。
人の気配も一切なく、誰かがいるような生活音も一切なく、静寂そのものだ。
いくらなんでも2日目でこの放置はおかしいだろ、と頭をかきむしる。
「この絨毯どうやったら、動くんだ。
それに・・・トイレどこやねん!」
少しずつやばくなってきてしまい、思わず関西弁で叫ぶ。
「おーし、反応なーし」
叫んだ声は屋敷内に響きわたったはずだが、何も反応なし。
無音の状態が続いている。
こうなったら、1つずつドアを開けてトイレの場所を探すしかない。
廊下を見ると、右も左も行き止まりが見える。
行き止まりまで、どちらも同じデザインのドアが10といった所だ。
だいたいこういう客人を住まわせるなら、トイレは近い場所にあるよなぁ。
そう考え一番近くのドアから順番にドアを開いていく。
1つ、2つ、3つ、どれも自分の部屋とまったく同じ家具。まったく同じ感じだ。
4つ目、5つ目、6つ目・・・
「いや、これ絶対おかしいだろ。
こんだけ部屋があって全部同じとか、
賢者のやつ、こんな同じ部屋ばっか用意して何考えてんだ」
6つ目の部屋に入り叫ぶ。
「ああ、もう早くトイレに行きてぇ」
部屋を出て、まだ開けてないドアの数を…右を向いても左を向いてもドアの数は10。
「こんな所で、おきまりの無限ループとか突っ込んでくんなよ!」
叫んでみても、一切反応はなし。人がいる気配も一切ない。
こうなったら、一気に行き止まりまで行ってこの通りじゃない部屋を探すしかないかぁ。
片手を股間に当て、行き止まりに向かって急ぎ足で歩く。
1つドアを超え、2つドアを超え、3つドアを超え・・・
しかし見えている行き止まりがまったく近づいてくる気配がない。
それどころか、ドアを3つ超えたにも関わらず、見えるドアの数は10。
振り返ってドアの数を数えてみても10。
「もう本当に勘弁してくれ!俺はトイレに行きたいんだ!」
叫んだ瞬間、行き止まりを見ていたはずが、突如天井が見える状態になり、後頭部に衝撃が走った。
「いっつぅ。。。」
後頭部を両手で抱えながら、周りを見ると絨毯が動き壁やドアがものすごい勢いで流れて行く。
「やったぁ。これでなんとかトイレにたどり着けるぜ」
何度か絨毯の上で転げながら、なんとか四つん這いの状態にまで態勢を整える。
・・・そういえば、昨日・・・
「ちょっ、これどうやって止めんだよ」
昨日、絨毯が止まった衝撃に耐えられずにジャックナイフ状態になって吹っ飛んだことを思い出し、なんとかそれを防げる状態を考える。
やばい、この状態はやばい。漏れそうだし、吹っ飛びそうだし、本当に誰でもいいから助けてほしい。
「助けてくれぇ!!!」
叫んだのと、ほぼ同時に自分の身体ふわっと空中に浮かんだのがわかった。
そして全身に衝撃を感じる。
痛みはない、ただものすごい衝撃で身体の全て感覚が遮断された。
ひどい耳鳴り。視界もほとんど黒く塗りつぶされ、赤い絨毯がほんの少しみえるだけ。
腕も足も一切うごかない。
瞼を必死に開けて、身体を確認しようと頭を振ろうとしても頭はもちろん地面についている顎の位置すらずらすことができない。
視界が徐々に暗くなる。赤い絨毯も何も見えなくなり、何も考えることができなくなる。
何も動かせない。何も考えられない。ただ暗闇を見つめるだけの時間が訪れた。




