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異世界初日(15)

係の人が、賢者の後を追ってやってくる。

係員の表情から察するに、賢者がまた何か困るような事を言ったのだろう。


「係員がぁ

 どうしてもあの測定器で1度計測してくださいってうるさいんのよねぇ

 だから、君測定器にさわってきてぇ」


「賢者様。大変申し訳ありませんが、一応決まりですので」


ああ、なるほど、そういう事でもめてたのね。


「了解。触ってくるだけでいいのか?」


「あんな安物、触るだけで十分よぉ」


「よろしくお願いします」


係の人が丁寧に頭を下げてくる。


こういった移民者を管理する施設ではルールは守って当然だ。

係の人が言っていることが正論で、賢者が間違っている。


3人で空の部屋の中央付近、台のある場所に歩いて行く。

賢者は不機嫌そうな表情を浮かべているので、

何かフォローをしなければと思うのだが、良い言葉が思い浮かばない。


台の上には真っ白な球体が置かれていて、最初の球体と同じで左右に5つの穴がある。


「それではここで魔力測定をおこないますので、

 こちらの白い球体の穴に指を1本ずつ差し込んでください」


白い球体の前に立ち、指を差し込んでいく。

後からきた男の子が、自分の手元を確認している。

この男の子は、背は低く幼顔、髪は自然な色で、なんとも愛くるしい。

足と腰に力を入れて球体を持ち上げる準備をする。


「持ち上げるんじゃないよ。

 それは触ってれば良いだけだから。」


男の子が教えてくれる。


触っていればいいだけって、なんにも反応しないんだけど。

これで本当にいいのか?


「何も反応ないんだけど」


「無理だってぇ。

 私言ったわよねぇ」


賢者は係の人を睨みつける。

係の人は賢者の視線に気づき、頭を何回も下げている。

男の子はそんな2人を笑顔で見ている。


なんか自分が悪い事をしたような気分になり、唇をグッと噛んだ。


「一応決まりなんだから仕方ないじゃん。

 決まりってのは守る為にあるんだし」


球体から指を抜き、賢者に向かって言う。

男の子が笑顔で拍手をしてくれる。


「まぁ、いいわぁ。もうじき測定器がくるからぁ」


賢者は係員への威圧をやめ、自分の方に歩みよってくる。


「いぃい。ちょっと変な奴がくるけど、君は私の物だからねぇ」


賢者が自分の服の左袖を掴む。賢者にしては珍しいこの態度。


「賢者様、測定器というのは?」


係の人がおそるおそる賢者に質問をしてくる。

賢者はため息をもらし、視線をそらす。


「ちっちゃいのを呼んだのよぉ」


ちっちゃいの?


球体から指を抜いて、賢者の横に立ち横目で賢者の顔を確認する。

賢者はこの空の部屋のあちこちに視線を送っている。

男の子が自分の右側にたち、右袖を掴んでくる。

係の人は、ちょっと嬉しそうな顔を浮かべている。


「それで、その測定器ってのはいつくるんだ?」


「多分もうじきくるかなぁ」


賢者はため息を繰り返す。


・・・


浮かない顔の賢者、さっきから落ち着きのない係の人。

測定器を持ってくるちっちゃいのは、後どれくらいでくるんだろう。


ちょっと眠たくなってくる。

この世界にきてから、どれくらいの時間がたっているのだろう。


目をつむり、息をゆっくり吸って、ゆっくり吐く。

息を吐ききると、自分の精神を心臓のあたりに持って行く。

心臓の鼓動は不思議な事にかなり落ち着いている。

服の袖を賢者に掴まれているのに。


服の左袖は賢者に掴まれて、右袖は男の子に掴まれている。

男の子と目があうと、男の子はにっこりと笑顔を見せる。

なんともかわいらしい笑顔だ。

係の人は相変わらず落ち着きがないようすだ。


あの係の人は、今日は厄日だろうな。

賢者に捕まって、やりたい放題されて。


「遅いわねぇ」


左にいる賢者が眉間にしわを寄せてつぶやく。


「そうなの?」


「あいつが、こんなに時間がかかる訳がないのよぉ」


「持ってきてくれる人だって、用事とか都合とかある訳だから、

 そんなにすぐ来れるって訳じゃないでしょ」


「君はわかってないわぁ」


「何が?」


「私が呼んだのは賢者の1人よぉ

 

 エルフの賢者である私が呼んだのよぉ


 賢者が賢者を呼び出したのよぉ」


「賢者の1人???」


「そうよぉ。ドワーフ族の長、小人の賢者よぉ」


「小人の賢者」


白雪姫に出てくる、7人の小人を頭の中で思い浮かべる。

カラフルな帽子に白い髭のおじいさん?おじさん?


「そんな奴じゃないわよぉ」


「違うの?」


「男の子供よぉ

 ちっちゃくてぇ、可愛くてぇ


 ただぁ、おいつは元々精霊だったからぁ

 姿を消すのがうまいのぉ」

 

「姿を消す?」


「実際に姿を消している訳ではないわぁ

 認識阻害に長けているのよぉ

 自分が見せない相手にしか自分の姿を見せない

 特定の人にしか自分を認識させないのよねぇ」


いらつく賢者を見てると、これもしかしてすごい厄介な奴じゃないか思える。


「なんか、変わった賢者だな。

 それで係の人がさっきから落ち着きがないのは、

 小人の賢者がくるってわかったからか?」


「そうねぇ

 あの子はこの街では人気がすごいからぁ」


「そうなの?」


「女性から見たらぁ

 愛玩動物みたいな存在だからねぇ

 年も取らずに大きくならない永遠の子供...みたいなぁ?」


「相変わらずひどい例えだな。同じ賢者を愛玩動物って」


「それでエルフ族とドワーフ族の戦争が過去にあったんだからぁ」


「はぁ?なにそれ?」


「エルフの街に遊びに来てたあの子を、

 エルフ族の女性が家に連れ帰っちゃってねぇ

 

 何日も返さなかったから、

 ドワーフ族の人達が族長を返せってぇ

 攻めてきたのぉ」


「悪い・・・そんな理由で戦争?


 まぁ、ドワーフ族からしてみたら、族長を誘拐したって事だから、

 戦争になっても仕方がないか」


「エルフ族の女性にもいろいろと問題があるんだけどぉ

 あの子にもかなり問題があるのよねぇ

 エルフとドワーフが仲が悪くなったのはぁ

 あの子が原因なんだからぁ」


賢者はほほを膨らませている。

過去にあった事を思い出して怒っているのだろう。

そして、自分は深いため息をつく。

なぜ男の子に気づいた時に誰にも聞かなかったのだろう。

完全に話すタイミングを失って、ここまで話を聞いてしまった。

男の子の顔を見ると、苦笑いを浮かべている。

もう、この賢者様も出るタイミングを失ってしまっているのだろう。


「ここまで聞いて、1つだけ賢者様に確認したい事があるんだけどいいか?」


賢者の顔をチラッと確認して、男の子の顔も確認する。

賢者は小人の賢者を探しているのか、視線をいろいろな所に向けている。

男の子は、下を向いて顔を見せようとはしない。


「なぁに?」


「いや、俺の右側にずっと男の子がいるんだけど、

 この子って小人の賢者様だったりする?」


・・・


・・・


次の瞬間、エルフの賢者の豪快なアッパーが男の腹部に突き刺さった。


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