異世界初日(10)
浮遊大陸に近くなれば近くなるほど、でかくなる。
浮遊大陸の一部には、ものすごく高い壁が見える。
あの高い壁は、高さにしてどれくらいあるのだろうか?
「風の精霊の力を借りて、あの壁のてっぺんに登るのってできるの?」
「逆に風の精霊にたたき落とされるわよぉ
なんの為の壁だと思ってるのぉ」
聞いた自分がバカでした。ごもっともな返答だ。
そうだよねぇ。そうじゃないと、この高い壁は意味ないもんね。
ポットの言葉を思い出す。
『世界の平和の為には...』
これだけ高い壁があるって事は、それだけ大きな戦争があった証拠だろうし、もしかしたら今もまだ戦争がおこなわれているんだろう。
自分たちの世界だけではなく、異世界でも戦争とかあった事。
そして、魔法を使った戦争がどれだけ悲惨な戦争なのかを考える。
漫画やアニメ、ラノベ...
「今はもう平和だからぁ。
その先は考えなくていいわぁ。
この壁も今では観光名所の1つよぉ」
・・・観光名所...
うん、自分たちの世界にも今では観光名所になったもの凄い長い壁がある。
ってか、心配損かよっ。
「それじゃ、もうそろそろ降りるわよぉ」
「了解」
なんか、上も下も空で地上がないから、空の上を普通に歩いてる事、完全に忘れてた。
「それで、これどうやって降りるの?・・・あっ」
この質問は、賢者に対して失敗である。
賢者の目が一瞬輝き、笑みに変わる。
その笑みを見た瞬間、もうこの先の未来が見える。
目をつむり、急降下に備える。
・・・
ん?右手に暖かい感触。
目を開けると自分の右手を握ってくれている賢者。
「どしたの?」
「1人で降りるの無理でしょぉ?」
えっ、ここで優しくしてくれるの?
予想してなかった賢者の行動に息をのむ。
顔はもちろん耳まで赤くなっているだろう。
賢者に手をつないでもらって空を降りる。
こめかみに脈を感じる。
賢者にこの鼓動は伝わっているだろうか。
気づけば空に浮かぶ小さな小島に降り立つ。久しぶりの地面だ。
足の裏に自分の体重を感じる。
賢者の顔が近づく、
「君が困った時はぁ。
私が必ず手を引っ張ってあげるわぁ」
間近でみる賢者の笑顔。動いていた時が止まる。
呼吸をするのを忘れてしまう。
「いざぁ。エルフの街へぇ」
賢者は背を向け、壁の前の建物を指さす。
「あれぇ?ちがったかなぁ?」
気持ちを落ち着かれる為に、息を一旦吐ききる。
ダメだ。完全に魔女の術中にはまってる。
もう片足どころか身体全部もってかれてる。
「ったく、それいったい何を参考にしたの?」
「えぇ。もの凄く有名だって聞いたよぉ」
振り返って、イタズラっぽく笑う賢者。
「まったく分かりません」
賢者のほほが膨らむ。
「後でぇ
これを教えてくれた人のところに行くわよぉ」
振り返って、建物に向かって歩を進める賢者。
つくづく思うけど、女性ってああいう技、
自然と覚えるの?それとも何も考えずにやれるの?
自分が知っている女性といえば、
母親と病院の看護婦さん達だけ。
・・・うん、全然わかんない。
賢者の後ろをついて歩き、他の女性と賢者を比べる。
身長はそれほど高くなく、後ろ姿だけ見るとかわゆらしさも持っている。
自分たちの世界の人間と比べると、全体的に小ぶりなのだが頭のサイズも小さいので、バランスがいい。そして、白く綺麗な肌に、つやのある綺麗な黒髪。
綺麗系でもあり、可愛い系とも言える。
賢者、あんたいろんな事がレベルが違いすぎるよ。
賢者が指をかざすと、浮かんでいた島が動き、自分たちが立っている島とつながり、その上を歩いて渡る。動くパネルならぬ動く小島だ。
小さな小島を渡って歩き、大きな壁のある大陸へ渡る。
賢者の屋敷を出る時に、賢者は2分ぐらいと言っていたが、
空を散歩したりしてるうちに、なんだかんだで30分くらいかかってしまった。
原因は完全に自分が空の散歩を楽しんでしまった為だ。
大陸に渡ると、水の精霊による効果がなくなり、壁がものすごく近くにある事がわかった。
壁は空から見ていた時よりずっと高く、近くいると頂上が見えないほどだ。
「あそこが街の入り口よぉ」
賢者がそう言って指差した場所には、なんともみすぼらしい小さな木造の建物が見えた。
「このでっかい壁の中に入る為の場所が、あんなちっさい小屋ってスケール感がおかしいんだけど」
壁に対して、小さすぎる。
「衛兵らしい人もいないし、もしものことがあったらあんなのすぐ壊されちまうだろ?」
街の入り口にしてはあまりにも無防備。あんなの本当にすぐに壊されてしまうだろう。
「すぐに壊れるからいいのよぉ
あれを壊したら、壁の中に入る方法がなくなるようにねぇ
まぁ、あなたたちの世界の技術では逆立ちしたって壊せないしぃ
ああみえて、私でも壊そうと思うと結構骨が折れるわよぉ」
「入れなくなる?ってか、
あんなのがそんな強度持ってんの?」
遠目では木造に見えていたが、近くでみると木と違う材質のようだ。
壁の大きさと比べると、自分たちの世界の巨人と人間の話を思い出す。
もしかして、この世界って巨人いたりするんだろうか?
いてもおかしくないよな。
賢者が建物のドアの前に立つと、ドアが勝手に開く。
用意された部屋と同じように自動扉だ。
賢者に続いて、自分も建物の中に入っていく。
・・・
ーーああ、ここは魔法の世界だった。
建物の大きさと、建物の中の広さとがどう考えて一致しない。
外から見た建物の大きさは、大きく見積もってもコンビニサイズ。
でも、中に入ったら、かなり大きなショッピングモールのような大きさだ。
外からは1階建の建物に見えていたが、この吹き上げの入り口で上を見ると、少なくとも4階、いや5階はあるだろう。
そして、たくさんのお店が並んでおり、いろいろな人種?種族の人が買い物をしている。
どう考えても不自然な空間だ。
「なぁ、これおかしいだろ・・・」
「なにがぁ?、クスッ」
自分が驚くのをもうわかっていたんだろう。
性格の悪い賢者らしい。
「俺は外観との違いにびっくりだよ。
何これ?街への入り口とかなら、なんかこう検問?とか、
お役所みたいなところだろ」
「君、
だぁかぁらぁ、
見た目で判断するのはダメェってぇ、
何回も言ってるよねぇ」
・・・いやいや、見た目でってこんなん誰でもそう思うわ。
「なあ、これも魔法の力なのか?」
前を歩く賢者に質問する。
「これは君たちも知ってる科学だよぉ」
・・・はぁ?、なんか聞き間違えたか?
「今、科学とか言った?」
「そうだよぉ
これは精霊とか魔法とかじゃなくてぇ
ちゃんとした科学だよぉ」
「エルフが科学?」
前を歩く賢者が肩でため息をつく。
「君たちの世界にあってぇ
この世界にないっておかしいとは思わない?」
賢者が足を止め、こちらに振り返って質問をしてくる。
「確かに、それは思うけど、魔法があれば科学なんて必要ないんじゃない?」
「魔法にもぉ、できる事とぉ、できない事ぉ。
そういった物もあるしぃ
科学の方が楽な物もあるのぉ」
「そういうもんなのか?」
「それに君ぃ
もの凄く勘違いしちゃってる事があるよぉ」
「えっ?!勘違い?」
「君に1つ問題をだすねぇ。
2つの種族がいますねぇ。
1つの種族の寿命は100年、もう1つの種族の寿命は500年。
2つの種族が、同じ時期、同じ事に興味を持ち、研究を競いあいます。
そして、1万年の月日が立ちましたぁ
どちらの方が研究が進んでいるでしょう?」
賢者が人差し指を立てて、問題を出してくる。
「そんなのどう考えたって、寿命が500年の方が有利だろ。
勝負になる訳がない」
「そぉ。結果ははっきりしてるわぁ」
賢者は寂しそうな笑顔を浮かべている。
・・・賢者のこの寂しそうな笑顔で、問題の意味しているものがわかった。
自分のしている大きな勘違い。
エルフは魔法が使えて、自然を大切して、自然の中で暮らす。
それが自分の考えていたエルフのイメージ。
だけど、エルフにだって科学に興味を持つ物もいるだろう。
自分達人間は長寿な人でも100歳ちょっと。
もしその人が研究者だったとしても、
その寿命の中で研究ができたのは、長くても80年だろう。
エルフの寿命がどれくらいなのかはわからないが、
人間よりも相当長いはず、
研究者1人あたりの研究に費やせる時間が圧倒的に違う。
エルフ族は人間の何倍もの研究ができる。
「自分たちの世界の常識が、また1つ崩れ去ったよ」
「君は理解が早くて大変よろしぃ」
賢者は笑顔を見せて建物の中へ進んでいく。
魔法もできて、科学までできて、人間とエルフ族で差がありすぎだろ。
魔法はもう仕方がない。
しかし、科学までも人間の世界より進んでいる。
しかもその差は圧倒的。
人間が賢者に勝てないのは納得ができる。
人間があんなチート持ちの賢者に勝てる訳がない。
これは完全に種族で負けている。
魔法を持たない人間が持つ武器とも言える科学。
その分野でも、完全に負けている。
この世界に自分は本当に必要なのだろうか?




