異世界初日(9)
「ここからは一緒に歩いて行こっかぁ?」
「えっ?」
大陸まで、後少しという所で賢者からのいきなりの提案。
「意味分からないんだけど」
「街の近くは、
子供達が空を飛ぶのを練習出来るように、
風の精霊が守ってくれているのぉ」
賢者は笑みを浮かべて、
ゆっくりとお姫様抱っこから下ろしてくれる。
下ろしてくれている最中に、
賢者の手ではない、違うなにかに身体が支えられているのがわかる。
地面に立っているのとはまた違う。
足の裏で体重を支えているのとは全く違う感覚。
それでも、自分は空中を立っている。
「それじゃぁ、一緒に歩こっかぁ
頭の中で足を置く地面をイメージしてぇ」
賢者に左手を握ってもらい、ちょっと恐いが左足を一歩踏み出す。
地面はない、なにもない空間なのに足の裏が何かに接地した感触だ。
足は確かに自分のイメージ通りの場所で止まる。
右足を一歩踏み出しても同じように足が止まる。
いや、これはさすがに想像斜め上にいってる。
ないわ。マジで。
空を飛ぶんじゃなくて、歩くなんて。
やばい。なんか異世界にきたって実感がはんぱない。
「空の旅はいかがですかぁ?」
賢者がいたずらっぽく聞いてくる。
賢者の顔を見て、思わずため息がでる。
目をつむり天を見上げる。
「ったく、ここまで計算づくかよ」
賢者は、自分の手を離し10mほど先に1人で歩いて行く。
「ここの風の精霊はぁ
みんな優しい子たちばかりだからぁ
君でも1人で大丈夫だよぉ」
足を1歩踏み出す度に、感動する。
水の精霊といい、風の精霊といい。
自分を喜ばせるツボを押さえすぎだぜ。
笑顔を浮かべて待つ賢者。
一歩ずつ進み、賢者のとなりに立つ。
「ご堪能できましたかなぁ?」
「もういちいち聞かないでくれる」
空を歩く。
こんな日がくるなんて、本当に考えてなかった。
空を歩く、どこかの部屋の家具たちとは全く逆方向の感動だ。
大陸にむかって歩いていると、
空を飛ぶ練習をしている子供たちを見つけた。
「賢者様。こんにちわ」
子供達は、自分たちに向かって手を振っている。
子供はどこの世界に行っても可愛いものだ。
学校のすぐ隣にあった保育園を思い出す。
「あの子達は君よりずっと年上よぉ」
・・・えっ?
「マジっ?」
「ほんとぉ」
賢者を顔を横目でチラッとみるが、嘘をついているようには見えない。
・・・こっちの世界は成長が遅いのか?
賢者の顔を見ると眉間にしわが寄っている。
「どうかしたのか?」
「ちょっっとだけぇ、忘れてた事を思い出しただけよぉ」
賢者にしては珍しい返事だ。
何か問題発生?もしかして、街で今日は誰かと会う約束でもあったのか?
「もう、気にしなくていいからぁ」
・・・
気になるけど、気にしない。頭の中で考えない。
賢者といっても、ミスぐらいするんだろう。
大陸が近くになるに連れ、お母さんと子供といった親子が多くなる。
みんな子供の空を飛ぶ練習をしている感じだ。
賢者がいる事に気づくと、みんな挨拶をしてくれる。
ただ、賢者は眉間にしわを寄せたままで、
挨拶をしてくれる家族を無視している。
賢者の代わりに手を振り替えし、
自分が頭を下げて挨拶を返している状態だ。
「なあ、おまえいくらなんでもそれは失礼なんじゃない?」
挨拶をされたら挨拶で返す。
自分は警察官だった父からそう教わった。
だから、賢者のこの態度はちょっと腹が立つ。
「はぁ。
もういいわぁ。
これは私のミスだからぁ」
「挨拶の問題は、それとは別の問題だろ」
「君がわからないだけでぇ。
挨拶はちゃんと返してるわよぉ」
「えっ?・・・そうなの?」
「あたり前でしょぉ。
私は、このエルフの世界の賢者なのよぉ。
子供たちに挨拶を返さないなんてする訳ないわぁ」
「はぁ?・・・って、ちょっと待て、おまえってエルフなの?」
「そうよぉ。ここにいる子たちはみんなエルフよぉ」
「すまん。ちょっと待て、自分の想像していたエルフと・・・」
「だぁかぁらぁ。私のミスだって言ってるのぉ。
もっと早く説明しておくべきだったわぁ」
自分の頭の中でエルフを想像する。
エルフ=美人。まぁ、これはあってる。賢者は完全に美人だ。
しかし、みんな羽も生えてないし、賢者も含めて結構身長が低い。
自分の中にあるエルフといえば、身長が高く、スラッとしていて、耳が。
賢者の耳を流し目で確認する。
耳、普通だよな。
それに、ここに来るまでに見た、
女性も子供もごく普通の人間にしかみえなかった。
「それ以上、頭の中でいろいろ想像しないでねぇ」
背筋に悪寒がはしる。これ以上は考えるのは危険だ。
「今夜、この世界のエルフに関しては教えてあげるわよぉ」
「了解。」
2人無言で空を歩く。
この空気はちょっと辛い。なんとかして空気を変えたい。
だけど、なんて声をかけていいかがわからない。
空に浮かぶ大陸が近くなると、その大きさに唖然とする。
大陸にはうっすらと黄色の光に包まれている。
そんなに距離を歩いた訳ではないのに、
どんどん大陸が大きくなっていく。
「不思議でしょぉ」
何を話せばよいか悩んでいた所に
賢者の方から声をかけてもらえてちょっとほっとした。
「なんかもの凄く大きくなっていくんだけど」
「これは水の精霊がぁ
遠い所からはエルフの街が見えないようにしてくれてるのぉ
近くに行くと、もっと大きいよぉ」
「何?水の精霊がやってるんの?
水の精霊ってこんな事もできるんだな」
確か水は光を屈折するんだったよな。
学校の理科の時間で習ったような気がする。
しかし、巨大な浮遊大陸をそれで隠すって、水の精霊どんだけ凄いの。
「街の包んでいる黄色の光はぁ。
土の精霊の光だよぉ。
エルフの街は防犯の為に街全体が結界の中だからねぇ。
君が精霊を追いかけて迷子にならないか心配だよぉ」
賢者が横目でこちらを見てくる。
「なにその心配?俺はさすがに・・・」
賢者の視線が痛い。目から光線とか出してない?
「すまん。ちょい自信ない」
あの黄色の光は土の精霊の輝き。
結界の中でみた水の精霊を思い出す。
あれの黄色バージョンが目の前に広がっている。
心臓の高鳴りを感じる。
「早くいこうぜ」
賢者をおいて、かけ足で浮遊大陸を目指す。
異世界に来て初めての街。
それがまさかのエルフの浮遊大陸。
風の精霊、水の精霊、土の精霊。
魔法すごすぎだろ。




