異世界初日(7)
賢者の後について玄関を出る。
異世界にきて、初めての屋外。心臓が高鳴る。
青い空、太陽の光が心地いい。
この世界でも太陽でいいんだろうか?
身体が覚醒していく。
腕を横におもいっきり開いて、異世界の外の空気を思いっきり吸う。
空気が軽い。呼吸がしやすい。
不思議な感覚だ。
目の前には綺麗な庭園と森、
いかにもお金持ちの庭園という感じだ。
そして遠くに大きな山が見える。
左を向いても山が見える。
右を向いても山が見える。
どこを見ても山!山!山!
ーーうん。異世界って言ったら、自然豊ってお決まりだ。
それで、賢者のお屋敷は街からちょっと離れた場所にあるってのが、
異世界物のお約束だ。
どうやら、そのお約束は該当していたらしい。
「なあ、街までどれくらいの距離があるんだ?」
「空を飛んでいけばぁ。2分くらいでつけるかなぁ」
「それってどれくらいなの?」
「街はまた別の世界だからねぇ。
距離で聞かれても答えられないかなぁ」
「えっ、別世界なの?」
「そうよぉ。
ここは、私のためだけにある世界。
みんなが暮らしてるところは、
また違う世界にあるわぁ」
「おいおい、みんなは別世界って・・・」
世界でたった一人で暮らしてるって事、寂しくないのか?
ってか世界を独り占めって、どんな感じなんだ。
「世界でたった一人。かぁ」
賢者は空を見上げてつぶやく。
「それより、これからは私のためにがんばってもらうわよぉ。
翻訳の仕事は協力者が少ないからねぇ」
賢者は若干口元を緩め、こちらを流し目で見ながら話す。
ーー協力者が少ない。取られる。かぁ。
協力者が少ないという単語を聞き、ポッドが話していた事を思い出す。
少ないのではなく、優秀だったから、他の世界に取られた。
優秀な人材は賢女の元で翻訳の仕事を続けられない。
「それじゃぁ。出発しよっかぁ」
賢者が右手を差し出してくる。
ーーこれは手をつないで飛んでいくという漫画やアニメでよくあるパターンか。
この場合は、左手でその手を掴めばいいんだよな。
「賢者様ぁ
すいませぇん。
彼にサポーターつけるの忘れてましたぁ」
背後から、聞き慣れた男の子の声がする。
振り返ると、ポットが黒の布地をふたの上にのせて浮かんでいる。
「ありがとぉ。
まぁ。なくてもこの子なら大丈夫だとぉ
思うけどぉ」
賢者はポットに笑みで答えて、黒の布地を手に取る。
「君、これつけてあげるねぇ」
賢者は、自分の背後に回ると黒の布地を両肩にかけられる。
これはなんだ?マフラー?でもサポーターって言ってたよな。
「これで大丈夫よぉ」
「えっ?
こんなかけただけでいいの?」
「うん。大丈夫よぉ」
賢者は笑顔で答えてくれるが、本当に大丈夫なのか?
ポットをちらっと見るが、顔がない。
表情がまったくわからん。
顔がない奴ってマジで不便だ。
「それじゃぁ。行ってくるわねぇ」
賢者がポットに対して声をかける。
「いってらっしゃぁい」
賢者が差しでした右手を左手で掴む。
「それじゃぁ。いくよぉ。」
やばい。空を飛ぶなんてちょっと感動だ。
飛行機にも乗った事がない自分が、まさか異世界で空を飛ぶなんて。
これが自分にとっての人生初飛行だ。
「はっ」
・・・
・・・
・・・
「いてぇーーーーーーーー!!!!」
賢者が空に飛び上がり、持ち上げられた衝撃で左肩が脱臼。
脱臼した事で身体は完全にぶらぶらの状態だ。
腕がちぎれそうになるが、
さっき、肩に巻かれた黒い布地が左腕と身体に巻き付き、
なんとかちぎれないようにしてくれている。
ーー痛いっ。もう少しゆっくり飛び出せよ!!!
賢者に声を出して、止まってくれと頼みたいが、
速度が上がって、空気の壁が凄い。
前を向いて声を出すなんて無理!
左肩は無茶苦茶痛いし、前を向けば、もの凄い勢いで空気が襲ってきて、呼吸すらできない。
目を開ける事すら困難だ。
そして、だんだん風が、空気が冷たくなってきて、空気が刺さる。
なにこれ?空を飛ぶってこんなのなの?
冷たい空気が身体に刺さる。
呼吸ができない。
身体をまっすぐに保つなんて完全に無理。
もう賢者にひっかかってる鯉のぼりだ。
このままだと、死ぬ。
マジで死ぬ。
「ぶっ、ひゃぁぁぁぁ」




