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夢見る物語   作者: 照橋桃花
第一章 羽の無い妖精
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第5話 紅 愛莉と申します!!

「アイリス、君はこの国のお姫様だよ」


 その言葉に、愛莉も最初はポカンとしていたが、すぐにその顔に笑みを戻す。


「ありがと。フフッ、エルってとっても面白いんだね!」


「…へ?」


 愛莉が笑いをこらえている横で、エレクサンドラは青い目をぱちくりさせ、自分が冗談を言っていると思われていることに気づく。

(嘘じゃないのに…実の母親だし、やっぱり女王様から話してもらった方がいいのかもしれない。)

 そう考えると、エレクサンドラは視界の先にそびえ立つ城を確認した。


「ねぇ、お城が見えてきたよ!」


 遠くに見えてきたその城は、愛莉が想像していた通りの、おとぎ話のお城だった。そんなお城を見てしまってワクワクしないなんて、本当に、誰もできないだろう。


「うわぁー!」


 愛莉は小さな子供の様に目を輝かせた。こんなに夢見たいな世界があっていいのだろうか。キャラメルモカのような白茶の壁に、たくさんの塔の上に乗った三角錐形の屋根はまるでディズニーランドのシンデレラ城のよう。その華憐なお城をがっしりとした高い城壁が囲み、力ず良いイメージを与えていた。

 そして愛莉が一番驚いたことは、なんといっても、近づくたびにスケールを増していくことだ。愛莉は近づいていくたびに自分が小さく感じた。

「きれい」「美しい」「かっこいい」 そんな言葉では全く言い表せないほど広大で、夢のような景色だった。

 愛莉はこの言い表せない気持ちをどうにかエレクサンドラに伝えたくて彼の方を見たが、エレクサンドラはかなり緊張しているようだったので思わず言葉を飲み込む。まぁ、愛莉自身も何と言ったらいいのかわかっていなかったのだが。


「着陸するよ。大丈夫?」


 だんだんと高度を下げていき「ストン」と音がしたと思うと足がついていた。


「気を付けて」


 エレクサンドラは転びそうになった愛莉をあわあわと受け止め、また堅苦しい笑顔を見せる。


「ありがとう」


 エレクサンドラも王宮に行くからかやはり緊張しているようで、少し気まずい。つないだ手を離さなかったのも、おそらく緊張で何も考えられなくなっているからだろう。なにしろ、空から見ればメルヘンで優美なお城も、城の外から見るとかなりごつい。まるで、城を災難から守る兵隊みたいだ。


 鼻からゆっくりと息をすって、口からふぅっとはいたエレクサンドラは、目の前にそびえ立つ石造りの巨大な門を、「ドンドンドン」と叩いた。


「どなたでございますか?」


 中から女の人の声がして、門がぎしぎしとほんの少し開いた。ひらひらの長いスカートとエプロンが門から覗き、目を丸くしてみていると、花のように華憐なメイドさんが出てきてくれたのだ。


「エレクサンドラ様! よくいらっしゃいました。今回のご用件……あら、そちらの方は?」


 くるんとしたピンク色の瞳で見つめられ、愛莉は思わず目をそらす。そらした先のエレクサンドラも、やっぱり緊張していそうだ。ぬけるようなクリアなブロンドに、ピンクの瞳。ロングスカートとエプロンは全てモノトーンで、髪は下の方でお団子にしているし、やはり「メイド!」という感じがする。そして、微笑む彼女はなんといっても上品で、花のように可憐なのだ。


「こんにちは。突然の訪問すみません。あの、きょうは女王様に大切なお知らせがあるんです。」

 エレクサンドラの目線が愛莉に移る。


「彼女は…なんというか、『聖女』、です。」


「え、聖女ってどういう…」


「ほ、本当でございますか!? まぁ、そんな夢みたいな事があっていいのでしょうか! すぐに女王様にお伝えいたしますね! レナ、サナ、聖女様を応接室にご案内してください。」


「「はい!」」


 そのメイドは門の中にいる二人のメイドに呼びかけ、そしてもう一度だけ愛莉の方に振り返った。「(わたくし)、メイド長のモモと申します。何か困ったことがございましたら、何でもお気軽にお伝えください。」

その太陽に照らされた笑顔は、麗しすぎて少し眩しいくらいだった。


  *


 周りの会話についていけない愛莉にも、なんとなく分かることがある。それは、今、緊急事態だ、ということだ。あの麗しい笑顔を見てしまうと、やはりあのモモというメイドがわざと愛莉を無視するとは思えないし、メイドさん達のかなり慌てていたので、やはりなにか大変なことがあるのだろう。


 レナとサナというメイドについて入ったお城の中に入って最初に見えてきたのは、だだっ広いエントランスだった。大理石の敷き詰められたエントランスは上品で、思わずうっとりしてしまう。壁は白くさらさらとした手触りで、一見シンプルに見えるが、よく見ると所々に宝石が埋め込まれており、愛莉たちが歩くたびに光る角度を変える。とっても綺麗だ。シャンデリアに照らされて、愛莉は口をあんぐりと開けてしまったが、エレクサンドラを見ると何故かほっとしたように顔をほくほくさせている。


「それでは、エレクサンドラ様は待合室でお待ちください。すぐにそちらに別の使いをおくりますから」


「えっ、エルは一緒に行ってくれないの!?」


「ごめん、アイリス。僕にはまだ女王様に面会する権限は無いんだ。終わったらすぐ、会えると思うから。」


 エレクサンドラは、もう一度本当に申し訳なさそうに謝るとエントランスの隣の待合室に入っていった。がーん。


「それでは、行きましょうか、アイリス様」


「大丈夫ですよ、私達が迅速に、そして確実に応接室へとご案内いたしますから!」

(いや、安心感の問題なんだけどな……)


 ひとりぼっちでエントランスをぬけるとすぐに、長—い廊下と階段が伸びていた。それらを右に曲がったり左に曲がったり、のぼったり、時々下りたり(ややこしい!)して、辿り着いたその部屋には、確かに『応接室』と書いてあった。


「では、私達はこれで失礼します。どうか、楽しい時間を」


 一礼して去っていった二人のメイドを見送った後、ぐぐぐっと、重い扉を押し開ける。するとそこには、豪華な冠を付けた女王が待っていたのだ。ドアの音に気付いた女王がすっと立ち上がる。


「あぁ、あなたが……ほんとうに、アイリスなの?」


 女王は、今にも泣きそうな顔で一歩ずつ愛莉に近づいてくるが、愛莉は驚きであっけに取られていた。なんといっても、その人は見たこともないほど宏大な美貌を持っていたのだ。

 金色の暖かいまなざしに、すらっと高い鼻、桜色の薄いくちびる。赤毛と金髪が混ざったような、甘酸っぱい苺みたいなブロンドの髪は、色とりどりの花々で着飾ってあり、その上にのっている王冠はキラキラと輝く宝石をまとっている。

 そして、彼女が着ている瞳の色とおそろいの金色のふんわりとしたドレスがまた、彼女の美貌を際立たせていた。


「あ、あの、私紅愛莉と申しますっ!ええと…」


「ああ、アイリス!!」


 いきなりむぎゅっと体をだかれ、女王の温もりが体全体に伝わる。目をちかちかさせていた愛莉だが、やっと手を放してもらった時に、彼女の目から金色の涙が出ていることに気が付いた。


「お帰りなさい、アイリス・フリチラリア。私はセリーヌフリチラリアといいます。さぁ、少し座っってお話しましょう……」


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