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夢見る物語   作者: 照橋桃花
第一章 羽の無い妖精
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第4話 一寸先は…

 

 愛莉がストックの花に触れた瞬間、突然地面が無くなった。そう、愛莉は穴に落ちていたのだ。穴は深く深く、どこまでも続いている。初めて、本気で死んじゃうかも…と、感痛した。否、愛莉の口から叫び声が出ることはない。本当に恐怖を感じているときは言葉が出ないものだ。愛莉はただただ、終わらない垂直ジェットコースターに、体を丸めて耐えていた。


 ふと周りを見ると、なんと、つぶつぶとした水滴がぐんぐん上に上がっていったのだ。それは最近愛莉が見た、願えば空を晴れに出来る女の子の映画のワンシーンに似ていて、とても綺麗だったのだが、見ているうちに、愛莉が落ちているから水滴が上がっているように見えることに気がついた。つまり、水滴は浮いていたのだ。驚く暇もなく、愛莉はどんどん、スピードを増しながら落ちていく。そして、愛莉の周りの水滴も、ぶくぶくと、大きさと数を増していった。徐々に寄り集まり、ふわっと、だんだんと大きな水の塊になっていく。そしてそして、それらが完全に一つになった時、愛莉は完全に包まれ、息が出来なくなった。


「うっ、、う…」

 

 もはや入り口も出口も無く、本当に終わりかと思った時、なんと、奥から光が漏れてきた。そのまま超特急で落ちていき、あっという間に、スポーン!!と、穴を抜けた。


「ぜぇー、う、けほっ、けほっ」


 愛莉は思わず咳き込む。しかし、困ったことに、愛莉に限ってピンチは次々とやってくる。愛莉は、空の高い、本当に高いところから真っ逆さまに落ちていたのだ。一難去ってまた一難、愛莉はつい昨日塾で習ったことわざを、なんでか思い出した。ぐんぐんと風を切って落ちる様子はまるでスーパーマンの様だと思ったが、なんだか、ヘリコプターから飛び降りるスパイの方が近い気がする。つかの間の快感の様な物を覚え、とうとう、愛莉は地面に激突した…と構えたら、なんと、地面からわずか5センチほどの所で止まり、宙に浮いていた。混乱とともに、大きな安堵を感じほっとため息をついた瞬間、魔法が解けたようにすとーん!!と地面に打ち付けられ、鼻を打った。


「いったぁ…」


 何が起こっているのか愛莉にはさっぱりだ。


「こ、ここどこぉ…?」


 人っ子一人見当たらない、見渡す限りの草原。その中の小さな丘に、愛莉は尻もちをついていたのだった。


「ヒヒヒヒヒヒヒーン」


 上からの声に思わず顔を上げる。


「え? 鳥?」


 翼がついた「それ」は空を悠々と飛び去っていった。


「ん? なんだったんだろ。それより、町を探さないと。これじゃ、まるで砂漠だよ。」


 町にはお店があるし、少なくとも森には食べられる葉っぱや木の実がある。草原にあるのは、草だけだ。つまり、ここにいては食べるものが何もなく、死活問題なのだ!


「とりあえず、森にいくべきだよね」


 愛莉は遠くに見える森らしき木の集まりに向かって歩き出す。おやつの時間で少し空腹を感じるが、そんなことは言ってられない。

 十五分くらいか、三十分くらいか。とにかくたくさん歩いて、はぁはぁと息を切らしながら目的地の森に入っていく。


 地面は柔らかく、気持ち良い風が吹いていて、愛莉が去年行った北海道の、森のコテージよりも空気が澄んでいた。森の中は原っぱよりずっと賑やかで、虫や鳥、そして小動物達の声が鳴り響いている。そして、実際に動物達は、愛莉が触れるくらい近くに佇んで、じーっと彼女を見つめているのだ。それもそのはず、この森には整備された道などなく、愛莉はこの前習った『自然林』という言葉を思い出す。ぼこぼこと歩きにくく、土はじっとりと湿っていて、カブトムシの幼虫でも出てきそうだ。


「やっ!」

 

 木の根につまずき、思わず尻もちをつく。幸い怪我という怪我はなかったが、強く打ったお尻をさする。ふと前を見ると、何か大きな動物がかけてくるのが目に入った。


「ひゃ、え? いやーー!」


 恐る恐る前を見ると、馬の群れが恐ろしい速度で愛莉に向かってかけてくる。それは、愛莉の知る世界にはいてはならないものだった。


「——ッ、ペガサス!?」


 立派な白い翼を逆立て、充血した目で愛莉を睨んでくるそれらは、彼女が想像していたメルヘンでかわいく、人懐っこいものではなかった。

 

 愛莉は幻覚を見ているのかと目をこする。しかし、いくらこすってもそれらは消えない。

(あぁ、私もうダメなのか…こうなったら覚悟を決めよう…短かったけど、良い人生だったな)


「ま、まだ死なないで!」


 振り返ると、そこには一人の男の子が…空中に佇んでいた。死ぬ前には幻覚を見る、と何処かで聞いたことがあるが、いささか嘘でも無いのかもしれない。

 男の子はさっと愛莉の手を掴み、空中に引き上げる。ふわっと、引き寄せられる感覚が、愛莉の中に流れる。


「大丈夫!? 怪我はない?」


 身長は愛莉より少し高く、海のような青い目に、くりんとうねるふわふわの茶褐色の髪の毛が印象的で、袖の膨らんだシャツとズボンに革のベストはなんといっても異国の近代風だ。馴染みすぎて、コスプレに見えないところがすごい。


「私、死んだの?」


「生きてる。僕は君の幻覚じゃないよ。僕も、生きてる。」


「え?」


「それより、早く王都に行こう!」


「え、うん…?」

(幻覚、じゃない?どういうことだろう。それに王都って...)


「説明は行きながらするよ…つかまって!」


 男の子は手をさしのべ、愛莉はそれをぎゅっと掴んだ。また、ゆっくりと体が浮かんでいく。

 緊張感、そして、何かが始まるような、そんな予感が、向かい風に乗って流れてきた。

  *

 空の散歩は心地よく、風がゆっくりと流れていく。


「あ、ありがとうございます! えっと…助けていただいて、お…お名前は?」


 そう言うと、男の子は困ったように微笑んだ。


「僕は妖精の、エレクサンドラ・タンジーです」


「えぇっ、妖精さん!? こんにちは!紅 愛莉です」


「…あいり…アイリス?」


「えっ、アイリス、でもいいよ! なんか、外国風のあだ名だね。かっこいい!!」


 愛莉はきらんと目を輝かせる。相手がエレクサンドラなのだから、アイリスの方がフィットしていい。


「それより、私不思議な力が発動してここに来ちゃったんだけど…ここはどこなの?」


 エレクサンドラが空を飛んでいることからして、魔法の国みたいなところに来てしまったことは間違いないだろう。そもそも、ストックの花に触っただけで、落ちて、気づいたら原っぱにいるなんて、やっぱり魔法の国だとしか考えられないのだ。


「ここは、ルべリア。地下の国とも呼ばれてるらしいけど… 僕たちは今、王都フリチラリアに向かってるんだ。」


「ル、え、ルべリア!?」


 それは転校生、飛馬真宏の出身地ではないか。なぜ、この魔法の国ルべリアの人があっちの世界に? というか、魔法の国の人とあんなに気さくに話していたなんて、ちょっとうれしいような、恥ずかしいような、複雑な気持ちになる。


 そして、目の前の男の子も。


「エレクサンドラくん、か…。ねぇ、エルとエレク、どっちがいい?」


 満点の笑みで聞いてきた愛莉に、エレクサンドラは少しとぎまぎする。


「えっ…」


「あだ名だよ! エレクサンドラって長いから、あだ名があった方が絶対いいと思うの!」


 家庭的なこともあって、エレクサンドラがあだ名で呼ばれたことは滅多にない。幼いときに呼ばれたことがあったきりである。


「じゃあ、エルでお願いしようかな」


「オッケー! じゃあ、エルね! よろしく、エル」


 愛莉なエレクサンドラに手を差し出す。


「うん、よろしく、アイリス」


 頬をほんの少し赤らめたエレクサンドラは、にっと笑って握手した。


「ねぇ、さっきも言ったけど私、不思議な力のせいでここに来ちゃったんだよ! ひとたび穴に落ちたら、一寸先は夢の世界、なんてね。びっくりでしょ」


 エレクサンドラにあってからずっと機嫌が良い愛莉は弾むような声で聴いた。


「う、うんびっくり…あ、えーとそうでもないかな…。それより、アイリスはこっちに来てよく平気でいられるね」


 エレクサンドラは頭をかきながら、困ったような声で笑った。が、彼の深い海の色の目は愛莉の表情をうかがっている。


「あぁ、なんだろう。なんか似たような世界が私の頭の中にあったような気がするんだよね。ちょっとびっくりしたけど、もしかしたらここだったのかも。」


「そっか。やっぱり…」


 エレクサンドラは確信したように頷く。


「え、何?」


「いや、やっぱこっち出身だとそういうこともあるんだなーと思って。」


 たっぷり、一、二、三秒。愛莉はただただ、口をあんぐりと開けていた。


「…え?」


 それをみて感づいたエレクサンドラは、慌てて自分の口をふさぐ。


「それってどういう…」


「そうだよね、僕もちゃんと言わなきゃ。せっかくアイリスに会えたんだから…じゃあ、言うよ。」


 エレクサンドラは逸る気持ちをなんとか落ち着ける。愛莉はごくんと息をのみ、エレクサンドラはもう一度深く深呼吸した。


「アイリス、君はこの国のお姫様だよ」

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