第2話 学校にて
「じゃあ、お姉ちゃんいってらっしゃい。頭のネジ、これ以上落とさないようにね!」
「一本も落としてないってば! もう、んー、麗美もがんばって!」
麗美と別れると、愛莉は階段をのしのしと上がっていく。
『遅刻、遅刻、遅刻、遅刻』
階段を上がる、自称華憐なステップに、心の中で繰り返す単語のリズムを刻む。
『りん、りん、りん、りん』
どうやらランドセルに付いたアニメのキーホルダーに付いた鈴も共鳴してくれているようだ。
作詞作曲愛莉の一曲が終わると、ちょうど目的地の四階に着いた。最上階だ。
「おはよー!」
開一声。教室のドアが開けられると共に、愛莉の友達の何人かが振り向く。
「ふぅー、間に合った、カナ?」
「間に合って、ないない。もう朝の会の時間過ぎてるんだよ?今日はたまたま先生が遅いだけで」
「うん、早く席ついた方がいいよ!」
「おお、了解!」
そう言うと、愛莉はそそくさと席につき、ランドセルから教科書ノート類を取り出す。
ガラガラガラっと音がして、教室の扉が開いた。
「おはようございます」
先生が入ってくると、いつも通り数名が軽くあいさつを返した。
先生は校門のあいさつ担当の先生なので、愛莉が遅刻してきたときもお見通しで、いつもこういう日はちょっとしたお叱りがあったりするのだが、今日は、無かった。
そういえば、のび太君は遅刻して廊下に立たされてたっけ、とふと思い出す。廊下どころかお叱りも受けないなんて、愛莉は本当にラッキーだ。なんだかのび太君に申し訳ない。
「今日から、このクラスに新しい仲間が増えます。」
転校生。こんな卒業まであと少しの時期に、なぜだろう、と、教室が急にざわざわし始めた。
先生が手招きすると、ドアから一人の男の子が入ってきた。
男の子は、全く緊張もしない様子ですたすたと教壇の前まで歩いてくる。
「名前は、飛馬真宏君です。では、一言自己紹介をお願いします。」
「はい。飛馬真宏です。よろしくお願いします。」
少し垂れた目に、薄いくちびる。爽やかな水色の目から推測するに、きっとハーフかなにかだろう。黒いロゴ付きシャツに、袖の長いグレーのカーディガンを羽織って、(萌え袖だ)下は赤いズボンでまとめている。いわゆる、イケメンで、おしゃれだ。少なくとも、愛莉にとって。
そして、極めつけには…
「あの男の子、すごい鼻が高かった…」
二限目が終わり、休み時間に入った愛莉は、がっくしと肩を落としていた。
「確かに、真宏君…だっけ、はイケメンだよね。まあ、だいじょぶだいじょぶ。愛莉ちゃまもかわいいでちゅよ~はなぺちゃだけど」
真奈美は笑いながら愛莉の頬をむぎゅっとつかむ。
「もーう! そんにゃこと言われなくてもわかってまちゅから! て、もう真奈美かわいすぎ! 真奈美まで私の敵になるつもり!?」
「あははっ、天下の愛莉様には負けるわ」
そう話していると、チャイムが鳴り、先生が入ってきた。休み時間というものは本当に短い。
ふと、転校生――、真宏の方を見る。休み時間もとくに誰とも話している様子はなく、ずっと自分の机に座っていたようだ。
普段こういうミステリアスな男子がいると、愛莉は色々空想してしまう。本当はきつねで、人間に化けているとか、実は魔法使いだ、とか。
でも真宏だけは別である。もう、完全に目の敵!はなぺちゃの恨みは怖いのだ!恐ろしいのだ!
そんなことを考えている間も、授業は加速していく。愛莉は顔を上げ、慌てて黒板を書き写した。
*
「私は部活があるから、先に帰ってて! 車に気をつけてね。」
生徒であふれかえる階段を降り、いつも通り四年生のクラスにいる麗美を迎えに行く。が、これもまたいつも通りに、今日麗美は部活があることも忘れてしまっていた。
「あ、わかった! うん。部活がんばってね」
愛莉は少し赤面して、早口にそう言った。愛莉にとって、妹のクラスに姉が行く、というのは結構恥ずかしいものだ。麗美の友達がいるのかな、と教室をのぞいてみたりもするが、麗美の姉だとばれないように細心の注意を払いつつ、だ。
「じゃあね、お姉ちゃん」
「うん。またね」
妹に心配そうに見送られる姉…やっぱり秘密にしておいて良かった。愛莉はそそくさと階段を降り、校舎を出る。
「あ、雨だ」
外は小雨が降っていた。愛莉は折り畳み傘を持っていたが、小雨なのでいらないだろうと判断する。なにしろ、愛莉は結構雨が好きなのだ。台風の雨に、思いっきり打たれたい気持ち、分かるだろうか。
「ねえ、紅さん」
後ろから誰かに呼び止められ、振り向くと、たれ目の男の子が立っていた。
「傘ないなら、一緒に入ってく?」
そう、鼻が高い真宏くんだ。愛莉は自分がそうしたいから傘なしで帰ろうと思っていたのに、なんとなくかわいそうな目で見られてちょっと、むかついた。
愛莉は一瞬表情を曇らせたが、最高学年として怒らず、ちゃんと空気を読んでおく。(相手が愛莉の空気を読むほうが難しいのだが)
「私も傘持ってるけど、小雨だからいいや。じゃ、また明日ね」
さっと言い放って、軽く手を振りながら速足で門をくぐった。
「あ、いや、途中まで一緒に行こうよ」
鼻が高いイケメンが愛莉の肩をつかんだ。イケメンなのはいいが、鼻が高いのは癪に障る。しかし同じ道を無言で歩いていくのも気まずいので、仕方なくオーケーした。
「えーっと…真宏くんはどこ出身なの?」
無言で歩いていくのが気まずいと思っていたにもかかわらず、5分くらい沈黙を貫いてしまった愛莉はやっと一つ質問をした。
「…ルべリアだよ」
「え、外国!? やっぱり、ハーフだよね!!」
愛莉は目を輝かせた。高い鼻もハーフならば納得がいくというものだ。
「ちがうけど」
がーん。ハーフだから、鼻が高いのは当たり前だと自分に言い聞かせようとしていたというのに、あっけなく否定された。でも、その『ルべニア』という国の人ならなぜ日本語ペラペラで、日本の学校に」行っているのだろうか。まさか、罪をおかして日本に逃げてきたとか…。深い事情がありそうなので聞かないことにした。
「そういえば、家ってどこなの? 道が同じってことは、この近くかな?」
「ああ、うん。むこうの角曲がったとこ。紅さんはまっすぐでしょ?」
真宏がかすかに微笑み、相変わらずイケメンだなあ、なんて思う。
「そうそう…って、なんで私の家知ってるの!?」
真宏は、「あ、やっちゃった」という感じでとっさに目をそらす。
「そうだな…登校の時に君を見かけたんだよ」
「うそでしょ!だって今、「そうだな…」って考えてたし。それにもう、君って何!?」
「いや、本当だって!」
「本当~?」
愛莉は真宏をじろりと見る。にらみつけた先の宝石のような水色の目はやはり綺麗だったのだが、その下の高い鼻をみてしまい、はっと我に返る。
(なんで今日会ったばっかりの人をにらみつけてるの、私!?)
「ご、ごめんごめん。そうだよね、家が近いから見たん…だよね!! 信じる!」
真宏は安堵の息をもらし、笑顔で「ありがとう」と返した。笑い顔も、やっぱりイケメンである。
「あ、そろそろ曲がり角だね。じゃあね」
「うん、また……あ、そうだ」
真宏はいきなり立ち止まり、愛莉を見つめる。さっきのかわいそうに見る生暖かい目とは違う、陽だまりのような暖かい目で、だ。
「元気にやってた?」
僅かですが書き溜めがあるので、それがあるうちは出来るだけ毎日投稿できるよう頑張ります!




