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運良く、一撃で気を失ってくれた。
もちろん私にとってだ。
私はすぐに手近に畳んで置いていた部屋着で、倒れた男の両手を後ろ手に縛る。
男が持ってきた大きめの灯りが大活躍だ。
腰からベルトを外し、それで足首を縛る。
少し焦って、ちょっと揺らしちゃったけど、大丈夫、まだ男は目覚めない。
触るのは嫌だったけど、男のズボンを太ももくらいまで下げる。
ついでにポケットの中も探すと、小型の刃物が出てきた。
それに慌てて、上着のポケットも探す。
こっちにも刃物が入っていた。他に笛? 仲間がいるのかな。
まあ、いい。
他にも何かないかと、静かに服や体に触れる。
一瞬だけ、右手が熱くなった、気がする。
「……ん?」
でも今はそんなことを気にしている場合じゃない。
男が呻き声を出し始めたので、急いでシーツをはがす。それを男の頭にかぶせ、頭にぐるぐる回し雑に縛る。
――やばい、意識が戻ったみたい。
上着の襟首を乱暴に持ち、肩を抜くようにして、襟を背中に持っていく。
ピチピチの上着じゃなくて良かったわ。
鉄格子のカギが床に落ちているのは確認していたので、カギと灯りを持って、駆け出した。
鉄格子の扉を抜けて、カギをカギ穴に差し込む。
ガチャっと音がなる――閉まった!
大きく息を吐いた。
あー、怖かった。
ホントだよ、怖かったんだからね。
回し蹴りは条件反射みたいな感じで、体が勝手に動いたってやつ。
あとは前世で習ったんだよね……父親に。
何教えてんのー、と思ったよ、その時は。
「お前は相手を一撃で倒せるんだから、その後、相手の動きを抑える方法も覚えておきなさい」だって。
うん、ありがとう、役立ったよ、お父さん。
階段を焦らず、でも急いで降りていく。
暗いよー。
何度か階段を踏み外しそうになったけど、うん、こけなかった。
体幹はちゃんと鍛えられてるよ。
一階だと思うが、入り口の側に男性が一人倒れていた。
近くの部屋から灯りが漏れている。
一瞬、死んでる? と思ったけど、どうやら気を失っていただけみたい。
生きてると分かったとたん、なんか怒りが込み上げてきた。
胸倉をつかんで「起きてー」と何度も揺らしたが、呻き声を上げるだけだった。
この時はもの凄く頭に来て、私ができる最大限の水――顔の大きさくらい――を頭から、バシャンとかけちゃったよ。
おかげで私も濡れちゃったじゃない。
ようやく意識を取りもどした男性に向かって、状況を説明し、すぐに警備兵を集めるように指示した。
この人も警備の一人なんだろうけどね。
私の話に戸惑う気持ちもわかるけど、さっさと行ってこーい。
私は王女モードで、ちょー偉そうに、命令したら、慌てて飛び出していったよ。
扉が閉まり、一人になって、私は考えた。
このまま逃げられるんじゃない?
もし、部屋に侵入した男が、本当に私の味方だったら、これは最悪ではないだろうか。
考えても、答えがわからない。
私は、結局、どこへも行けなかった。
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