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幽閉王女は考える。「うん、これから考えよう」  作者: 池田ん


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31/32

続 31


目が覚めると、お母さまはすでに着替えを終えられ、執務用の椅子に腰かけ、書類を読まれていた。

私も慌ててベッドから起き出した。


「おはようございます、お母さま」

「おはよう、エルネシア。着替えたら食事にしましょう」

侍女に着替えを手伝ってもらい、髪を梳かしてもらう。眠気はまだ抜けきらないが、お母さまの前なので、しゃんとしなくては。


朝食は家族で同じ食卓を囲むことはなく、それぞれの部屋で食べる方が一般的だ。

今日はお母さまと二人で朝食をいただくことになった。


白パン、豆類のスープ、キノコのオムレツと香味野菜。少し口にすると、自分が空腹だったことに気づき、はしたなくならない程度に食が進んでいく。お母さまが子どもを諭すように笑いながら「よく噛みなさい」と声を掛けてこられるまで、自分の振る舞いに気づけなかった。


昼餐にはお父さまも加わってこれまでのことを話しあうと伝えられた。そして、しばらくはお母さまの居室で共に過ごすことも。

今まで主のいなかった私の部屋は、掃除はされていても華やいだ気配はすでになく、なにより侍女を改めて決めなければならないと指摘された。


かつて務めていた侍女の顔が思い浮かぶ。すでに城を辞した者もいれば、他の部門に移籍した者も。そして――

「亡くなった侍女ですが、自死ではなかった可能性が高いそうです」

お母さまから告げられた内容に、私は驚くしかなかった。


そして、正式に担当侍女を決めるまで、私の身の回りの世話人を紹介された。お母さまの侍女をされていた方たちで、出産を機にお辞めになられたそうです。お二人ともお母さまがご実家に居られた頃から仕えてくれていた人たちで、名をエイリン、ロクセーというそうだ。私が塔にいた間も面倒を見てくれていたと聞いても、私には覚えのない方たちだった。


昼餐までお母さまは後宮で執務を行うとのことで、私はお邪魔にならないように二人と共にお母さまの寝室に籠ることにした。

ひとまず湯浴みをしようと、浴室の準備をお願いする。


お母さまのお部屋にある浴室は、私の部屋の物と変わりないため、魔道具を利用して、準備はすぐにできたらしい。

私はドレスを脱がせてもらい、裸になったが、ふと気になってお腹あたりに触れてみた。

少し硬くなってる? 太ったわけではなく、引き締まったように感じる。

見ると、二の腕のお肉も減っている気がしないでもない。


不思議に思いながら、湯船に浸かる。

ちょうどいい熱さに、思わず声が零れ落ちる。


「体もずいぶん健康的になりましたね」

声を掛けてきたのはロクセー。エイリンは微笑んでいる。


「これ、私の体かしら?」

意味のない言葉ではあったが、つい口にしてしまった。


「ずいぶん体を鍛えておられましたから」

「私が?」

「はい、間違いなく王女殿下でした。エルネシア様がご不在の時、代わりに体を動かされておりました」

もう一つの魂について詳しくは聞いていないが、私が目覚めるまで、他の魂がこの体にいたとは、正直信じられない。


「うつ伏せになって、腕だけで体を持ち上げたり、仰向けになって、半身を起こしたり、後は、何度もしゃがんでは立ち上がる動きを繰り返すなど、見ていても何をさせているのかわかりませんでした。恥ずかしながら、自室で私も試そうとしてみたのですが、それが一度もできなかったんです」

「どういうこと」

「はい。多分ですが、筋力が必要なんだと思います。私どものような年齢だと、もうそのような筋肉などありませんからね」

「騎士みたいになりたかったのかしら」

「そこまでではないようです。いざという時、体が素早く動かせたり、逃げるときにも体力が必要だとおっしゃっていましたから。それに基礎代謝があがり、太りにくくなるそうですよ」

太りにくいというのは良さそうだわ。お母さまにもお伝えしようかしら。


「そういえば、私、魔法で水が出せるみたいなの」

「エルネシア様は元々水と土の魔法の才があったと聞いております」

「ええ。でも私、何も練習などしてこなかったのよ」

「そうでしたか。塔にいるときの王女殿下は楽しそうに魔法の練習をしておりましたよ。走りながら、後ろから追いかける兵士に向かって魔法を出していました」

「攻撃魔法はないって聞いているけど」

「攻撃とは違うと思います。追いかけてくる者を走りの邪魔をする感じのように見受けられました。顔に水をぶつけたり、足元の土を盛り上げたりして、逃げ切るためにどうすればいいか工夫されていたようです」

「逃げるため……」

そんなことが必要なのだろうか。


「エルネシア様も折角ですから試してみますか」

「わたし? ここで……ああ、水の魔法なら、失敗してもいいのかしら」

予想外の言葉だったけれど、よく考えれば、今は良い機会かもしれない。

でもどうやれば、魔法が出せるのかしら?


「呪文など口にせずとも心の中で、水よ出ろ、などを考えればいいみたいですよ。確か、量とか大きさとか具体的に考えた方がいいと聞いた気がします」

「そう。なら試してみようかしら」


右手をまっすぐ前に伸ばし、心の中で『水よ出ろ』と念じてみた。

すると、掌あたりから、水がバシャって噴き出して、びっくりした。


「えっ、えっ――」

私は、床に落ちた水と右手を何度も見比べてしまった。


「ふっふっふっ」

二人が笑い出したら、私もつられて笑ってしまった。


「楽しい」

そのつぶやきに、またおかしくなる。


ひとしきり笑いあった後、ロクセーが口にした。

「エルネシア様も『筋トレ』してみますか。筋肉を鍛えることだそうですよ」

エイリンも微笑んで見つめてくる。

『きんとれ』? 初めて聞く響きだけど、不思議と胸に響く。

うん、やってみようかな、『きんとれ』


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


ユニークアクセス数がようやく1000を超えました。

ありがとうございました。


明日、完結させます。


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