続 23
お茶会当日。晴れて良かった。
雨だったらどうしたんだろうと思うよ。
普通のお茶会なら室内に変更だろうけど、今回のは特別だから、そう簡単に場所は変更できないよね。そうなると延期だったのかな。
私はドレスを着て、先にガゼボに着いた。
馬車だよ、馬車!
歩ける距離なのにさ、塔でドレスに着替えたから、歩くのはダメだって言われちゃった。
このガゼボは、休憩とか逢引とかじゃなくて、密談用に配置されていて小さめの馬車なら通れる道もあるから、せっかくの草花を踏み潰すこともなくていいんだけど。
王女様というか貴族って運動不足になるんじゃない。
私は先に着いて、お客様を待っている状態。
景色を眺めている振りをして、どこに何人警備がいるか探っていたので、あまり待った気はしなかったけど、一台の馬車がガゼボの側に止まった。
降りてきたのは予定通り、ファティセイロさんとヴァルネさんの二人。
もしかすると元婚約者が同伴するかと危惧していたけど、そんなことはなかった。
まあ、私自身には関係ない男だけど、それでもエルネシアのことを思うとムカつくからね。
ヴァルネさんは見た目ちっちゃくて可愛い感じの女の子。
ちょっとオドオドしていて、申し訳なくなっちゃう。
「ティセラ・ヴァルネ子爵令嬢。本日はお越しくださり、ありがとう。ファティセイロも忙しいのに付き合わせて、ごめんなさいね」
「とんでもございません、エルネシア王女殿下。本日はお招きいただき、ありがとうございます」
「お招きいただき、感謝申し上げます、エルネシア王女殿下」
ファティセイロさんの挨拶に続いて、ヴァルネさんが礼を返す。
私は席を勧めてから侍女に目線を送る。侍女姿のエイリンさんとロクセーさんの仕草は元じゃなくて現役じゃん!
まず、私が一口紅茶を飲み、サーブされたお菓子をつまむ。
その後、招待された客が飲み物などを口にするのがマナーらしいんだけど、もう面倒だよ。
いや、エルネシアの立場だと、ちゃんとマナーを守って当然だから、私もしっかり学習したよ。でも、理解するのと実践するのは違うでしょ。
相変わらず塔に通って掃除やら給仕やらしてくれている元侍女の皆さんの中で、私がエルネシアではないことを知っているのは、今のところエイリンさんとロクセーさんの二人だけ。それだけ王妃陛下の信用が篤いらしい。
だから、この二人にマナーを教えてもらいました。でもね、エルネシアが身につけた作法は体が覚えているから、おかしくはないかもしれないけど、心理的な余裕はないよ。
ファティセイロさんが苦笑している気がする。
でも、ヴァルネさんは私以上に緊張しているから、私の動揺など気づきそうもないのが救いかな。
とりあえず、世間話。でも元婚約者の話には触れない!
そして、本題の権能の話。
「権能について興味があるのだけれど、よければヴァルネ様のお話を聞かせてくださる」
なーんて白々しいセリフを口にしたけど、前もって、今日の目的は事前に伝えてもらっていたんだよね。
ここからはファティセイロさんがヴァルネさんを誘導するように話を進めてくれる。私はほとんど聞き役です。たまに質問を挟むけど、私だと問い詰めた印象になっちゃうからね。
結論。ヴァルネさん自身があまりよくわかっていない。
事前にファティセイロさんに聞いていたから驚きはないけど、権能自体この世界では謎だから、普通はそんな感じ。
私みたいに、あれこれ条件を変えて試してみる方が珍しいんだと思う。下手に試して怪我したら洒落にならないしね。だから国が保護して、専門家と一緒に調べるんだろうな。
まあ『癒し』なんてケガ人や病人がいないと検証できそうにないじゃん。
本当は健康な人にも、何か作用があるかもしれないと私なら考えるけど、そんな発想を普通は持たないのかな。
話も出尽くしたみたいだから、もうお終いでいいよね。
「ヴァルネ様。よければ私を少し癒していただけないかしら」
「どこかお怪我でもされているのですか」
「そうではなくて、精神的な疲れがあまり取れないの」
ヴァルネさんは目を丸くした後、視線を逸らす。
負い目なんて感じなくていいよ。貴女は何も悪くないんだから。
「私は、その……精神への癒しは、まだよくわからないんです」
「別に気休めでもかまわないわ」
躊躇していたヴァルネさんにファティセイロさんが、結果は気にしないでいいと促す。
本当は嫌なんだろうなあ、とは思うけど、私の実験に協力してもらうよ。
彼女が立ち上がって私の傍まで来たので、両手を彼女の前に差し出す。
彼女は私の両手を包み込むように握り、目をきつく閉じ、そのままの姿勢で時間が過ぎる。
包まれた私の両手は、なんだかほんわか温かくなった……ような、気のせいのような……。
時間にすれば一分くらいかな。彼女にとっては長かっただろう。
こういうのって手を離すタイミングわからないよね。
「どうでしょうか」
不安を滲ませた声で尋ねてきた。
「少し、楽になったみたいだわ。わがままに付き合ってくれて、ありがとう」
「王女殿下のお役に少しでも立てたなら幸いでございます」
ホッとした表情は、同性でもこちらが守りたくなるような少女の素顔だった。
私は微笑みながら尋ねた。
「私の中に、何か見えたかしら」
キョトンとした顔は、たぶん嘘も付けない人かと思わせる。
こんな表情できる嘘つきがいたら、絶対騙されそう。
「いえ、どこにもケガとか病気らしきものも見当たりませんでした」
「そう、安心したわ。今日は本当に会えて楽しかったわ」
別れの挨拶をして、二人は馬車に乗り込み去っていく。
それを見送った後、私は黙って馬車に乗り込んだ。
知りたかったことが知れた安堵と、気疲れと、疑問が黒く染まった感じで、体が重くなった気分だった。
お読みいただき、ありがとうございます。
今月(9月)中は毎日更新し、完結させるつもりです。
できましたら、最後までお付き合いください。




