続 17
私は一歩ずつ、大股にならないように気をつけながら歩き、ソファに並んで座る両陛下の前に立つ。
アドレーヌが所在なさそうにしていたので、声を掛けなきゃ。
「アドレーヌは扉の前で、扉を守ってください。この部屋にはあなたしか騎士はいないから、あなたが最後の砦になるけど、頑張ってね」
「騎士じゃないし、手ぶらじゃねえか」
そんな囁きが聞こえたけど、ムシムシ。
「立っていないで、座りなさい」
陛下の言葉があって、ようやく私は向かい合う位置のソファに腰を下ろした。
本番はこれからなのに、もう疲れたよ。
でも、決めたのは自分なんだから、最後まで気を抜かないようにしなくちゃ。
目の前に座る二人が、エルネシアの両親だ。エルネシアの記憶でも、両親との関係は悪くはなかった。
もちろんただの両親ではない、と分かっているつもり。
言葉遣いは付け焼き刃じゃどうにもならないだろうけど、上手く説得したいな。
「積もる話もあるし、聞きたいこともあるが、まずはエルネシアの要件を聞こう」
陛下の言葉に王妃様も頷く。
一息入れてから直球でいく。
迂遠な言い方なんてできないからね。
「一番お伺いしたいのは、毒杯のことです」
二人の顔色が変わったよ。やっぱりアレは国王案件だったんだね。
安堵よりも怒りが湧いてきそうだ。
「あれは、毒ではないのよ」
王妃様の叫ぶような声が響く。
「やはり、そうですよね。そうでないと私は今頃死んでいますから」
王妃様の口があんぐりと開いちゃった。
「其方、まさか……」
「はい、飲みました」
陛下も目を白黒させたけど、王妃様よりはまだ、少し、冷静さが残ってそうかな。
私はしっかり陛下を見つめる。……王女だからいいよね?
王妃様は私と陛下の間に視線を彷徨わせているけど、フォローはできないよ。
「それは聞いていないぞ、いや、其方、眠りについたのか」
「はい、エルネシアは深い眠りについています。私はエルネシア王女ではありません」
何を言われているのかわからなかったのだろう。
陛下は瞬きを繰り返し、王妃様の眉は下がっていく。
「あの日、毒杯を呷ったエルネシアの魂は、今もこの体の中で眠りについています。私は……『相良愛子』の記憶を持った異世界人です」
陛下が立ち上がるなり、私を指さし、口を開く。
「おま、おま、お前は、エルネシアを――」
「いいえ、私のせいではありません。エルネシアに冤罪をかけ、幽閉し、絶望させて、毒杯を飲むまで追い詰めたあなたたちのせいです」
王妃様は声にならない叫びをあげる。
「エルネシアは、自分の意志で毒杯を飲みました。死ぬ覚悟で。自らの境遇を嘆きながら」
陛下は、真っ赤になっていた顔を、途端に青白くさせ、力尽きて、どかりと座り込んだ。
「私は、エルネシアにこの体を返したい。エルネシアを起こして、もう大丈夫と教えたい。だから、是非、お二人に、エルネシアのお父さんとお母さんに、協力してほしいんです」
声が裏返っちゃった。泣きそう。
ドタドタって音がした。気づいたら、アドレーヌが近づいてきたのに、驚いて、こぼれそうな涙が止まったよ。
「い、いつからですか」
「えーっと、幽閉されて、数日だったかな」
「それなら、あの時、既に……」
アドレーヌが言いたかったことはすぐにわかった。
「そう。あの日、侵入者が来たときは、もう『相良愛子』だったよ」
「……」
それが何を意味するか理解できたのはあの場にいたアドレーヌと私だけだった。
「もし、あの時、まだエルネシアの魂が眠っていなければ、今頃、エルネシアは帝国に連れ去られていたかもしれないね」
砕けた言葉で、現実を目の前の二人に突き付ける。
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