続 15
「ねえ、アドレーヌは国王陛下と対面したことある?」
休憩しながら、アドレーヌに声をかける。二人きりの時は、もう淑女言葉は使わず、平易な言葉で話すようにしている。そのくらい私はこの男を信用している。
「とんでもない。一介の兵士が陛下と対面どころか、お側に近づくのも恐れ多いですよ」
「でも、王女とはこうして仲良くしてるじゃない」
私は可笑しくなるが、アドレーヌは何か言いたそうに口をもごもごさせる。
平民にとって、王城の兵士になれるだけで恵まれているらしい。
王族は近衛が守り、王宮などの建物の中は騎士が守る。騎士のほとんどは貴族の子弟みたい。平民の騎士もいるが、それは国軍として紛争や、国境の警備、国内外の大使が国内を移動中の護衛になるらしい。
王城の庭や敷地、門や外壁周辺など外回りは兵士が担当するとのこと。
身分制度のある国のこういう話を聞くと、へぇーって思うよ。
「あのさ、私が王宮に戻ったら、私の近衛になってくれない?」
「冗談はお止めください。そんなの無理に決まっているではありませんか」
「えー、そうかなあ」
「いやいや、私は平民ですよ。今、こうしているのですら、本来分不相応なんですから」
真面目だなー。
でも、今の私が王族の人たちと暮らすのは勘弁してほしいので、許してあげよう。
でも、是非付き合ってほしいことがある。
先に心の中で謝っておくよ。ごめんね。
「あのさあ、また手紙をお願いしたいんだけど」
「畏まりました、手紙はすでにお持ちでしょうか」
「あっ、これから書くから、そうだな、明後日くらいかな」
「了解しました」
口にしてしまった。覚悟を決めなきゃ。
「ところでさ、私の手紙って、どういう感じで向こうに届くの?」
「私がお預かりしたお手紙は、まず上司に渡ります。その後騎士団経由と言うのが普通だと思われますが、王女殿下のお手紙については、私の上司から王宮筆頭侍女殿にお渡しすることを厳守するよう申し渡されております」
あー、正規の手順ではなく、裏からってことか。その方が速いっていうのもあるかな。
でも速さなら、あの元侍女さんに渡せば、王妃様に直かもしれない。
うーん、少し悩むな。
でも、王宮筆頭侍女を経由した方が、その後の段取りがスムーズにいくかもしれない。
まあ、段取るのは向こうだから、こっちが心配することではないだろうけどね。
休憩の後は、軽く体を動かし、解散。私は一人、塔を上る。
部屋に戻ったら、念のため部屋の中をぐるぐる徘徊し、何もないのを確認して、カギを閉める。
入浴して汗と汚れを流す。
お風呂が気持ちいいと感じるのは、やはり日本人だからだろうか。
お湯が出るってサイコー!
夕食まであと一時間くらいかな。
何度目かわからないけど、「時計が欲しい」と思ってしまう。
スマホは、うん、もういいや、慣れた。
あー、でもカメラはあってもいいかな。
では、手紙の下書きでも始めようか。
宛先は両陛下。
内容は、内密の話があるので、両陛下と人払いをして、できるかぎり他人に(おっと兄妹もだ)知られることなく、話せる場を作ってほしい。時間と場所はそちらに任せます、っと。
それとこちらは信頼できる兵士のアドレーヌ・リンシェルを同行させます。平民だから、無礼があるかもしれないけど、目くじら立てないでね。
あと何を書けばいいだろう……。
……あっ、アドレーヌを連れていくと、変な誤解されるかな。
王女が若い兵士を連れて両陛下に会いに行くんだもん。
エルネシアが誤解されるのも嫌だし、アドレーヌに迷惑がかかるのも困る。
彼を同行させるのって、ただの保険なんだよね。
私の要望をどこまで聞いてくるのかってことと、その後の私の計画通りに進んだとき、やっぱり信用できる人に側にいてほしいなんて、私のわがまま。
私自身の覚悟が揺らがないための、お守りにもなってほしいな。
でも、それ自体がアドレーヌには迷惑かも。ごめん。
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