続 13
ある朝、朝食を運んでいる下働きの人たちに混じって、一人のメイド服……いや侍女服かな? を着た女性が私の前に跪いた。
「エルネシア王女殿下、御前を失礼いたします」
私はじーっとその頭頂部を眺める。
声をかけるべきなんだろうなぁ、でもやだなぁ、なんて思ってるけど、表情にはだしません。キリッ!
我慢比べに負けたのは、私だった。
いや、無理だよ、この沈黙。
他の下働きの人たちも、ササッと配膳して帰りたいんじゃないの。
「一応聞くけれど、無断で来たわけではないのよね」
「はい。陛下よりご許可を頂戴しました」
それじゃなきゃ困るよ。この塔に無断で入ったら、それこそ罪人になっちゃうんだから。
「そう。なら、帰りなさい」
「殿下!」
ようやく侍女が顔を上げた。
うーん、エルネシアの記憶を探ると、エルネシア付きの侍女の一人みたい。名前は……まあ、いいや。
「私は一人で大丈夫です。あなたたちの助けは不要です」
「しかし――」
「私はここで、三か月近く、一人で暮らしています。着替えも入浴も、すべて一人で対処してきました」
「くっ……」
おっ、“くっ殺”か――いや、騎士じゃないし。
あー、緊張感を漂わせないでー。耐えられずに、ボケたくなるよ。
「貴女の意図はわかりませんが、忠義からの行動でもあるのでしょう」
「殿下、私は……私たちは……」
えー、とうとう泣いちゃったよ。
困るよね、泣かれちゃうと。こっちが責めている感じになるじゃない。
いや、確かに責める気持ちも少しはあるんだけどさ。
「あなたに出入りを許可してしまうと、なし崩しに何人も、会いたくない人たちまで、この塔に押し寄せてくるでしょう。私は、まだ、ここで一人で考えたいし、私にとってこの場所が一番安全なのです」
「殿下……私たちでは、お力に、なれないのでしょうか」
「私が――エルネシアが王宮に戻ることになったとき、また皆の忠勤を望みます。それまで研鑽に励みなさい」
「はい。王女殿下の仰せのままに」
深く頭を下げ、ようやく帰ってくれたよ。
ふぅ、疲れた。
下働きの人たちが配膳を済ませる。
私は「ありがとう」と告げ、さあ、食事……と思ったのに、珍しく声をかけられた。
「王女殿下、お伝えしたい儀がございます」
ていねいに跪き、頭を下げる所作は、下働きのものではない。
そうかと思ってたけど、「やっぱり」ってため息が出そうだ。
「許します」
「感謝いたします」
頭を下げたままの姿勢で、言葉が続く。
「私たちは、王妃陛下や王太后陛下に仕えていた侍女でございます。すでに引退した身ではありますが、王妃陛下のお召しにより、王女殿下の見守り役に任じられました」
「そうでしたか。この塔を上り下りするのは大変だったでしょう」
「いえ、問題ございません。王城での職を辞したとはいえ、まだ動ける者、王家に忠誠を誓う者が任に就いております」
うーん、そういうものかな。罪人(冤罪だけどね!)とはいえ王族の側までくる役割を平民には任せられないとは思うよ。
でもさ、お仕着せは明らかに質素なものでしょ。
プライドが高い人には無理じゃない?
そういえば、以前は食事を持ってくるのが男性だったから、看守かなと思ってたけど、元侍従なんだろうな。
「そう。面倒な仕事を押しつけて、ごめんなさいね」
「とんでもございません。王妃陛下も心を痛めておりましたが、貴族派の手前、表立った援助ができず、申し訳ありませんでした」
はあ、貴族派とかか。国内も一枚岩じゃないのね。まあ権能持ちだったとはいえ、他国の外交官(あのストーカー!)が国内で容易く動くには、それなりの協力者がいたんだろうけどさ。
「ご要望があれば、いつでもお申し付けください」
「わかったわ。忠誠に感謝します」
下働きのお仕着せをした人たちが、部屋を出ていく。
あー、王女らしくするって、大変だよ。
お腹空いてきちゃった。
以前より、豪勢になった食事だけど、もう少し温かければいいのにね。
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
もし気に入っていただければ、下の☆☆☆☆☆に評価をいただければ励みになります。
これからもお付き合いいただければ、嬉しいです。




