第二章 デートの積み重ねと母の疑念
そんなデートが、何度か続く。
距離は近づく。
だが――決定的には踏み込まない。
手も、ほとんど触れない。
それを見ていた喜美子は、眉をひそめる。
(……おかしいね)
あの息子が。
あれだけ女に慣れている男が。
「手を出してない?」
あり得ない。ならばーー出せない理由がある?
疑念が芽を出す。
そして。
■母の提案(婚前旅行)
「ちょっといいかい」
ある日、喜美子が切り出す。
場所は自宅。
逃げ場はない。
「馴染みの旅館があってね」
さらりと言う。
「山奥の、古いとこだよ」
宗平が、嫌な予感を覚える。
「四泊五日。二人で行ってきな」
みさとの表情が固まる。
「……それは」
喜美子はにやりと笑う。
「向こうの融資の話、進めてやってもいい」
完全に条件。
逃げ場がない。
みさとの指が、膝の上で強く握られる。
(……詰んだ)
その時。
宗平が、何でもない顔で言う。
「いいですよ」
みさとがはっと見る。
宗平は続ける。
「行きましょう」
喜美子は満足そうに頷く。
「決まりだね」
その帰り道。
二人きり。
みさとが低く言う。
「……どうするつもりですか」
宗平は、軽く笑った。
「簡単ですよ」
「簡単じゃありません」
「いや、簡単です」
そして、少しだけ声を落とす。
「内緒で、一人呼べばいい」
みさとが止まる。
「……え?」
「友人でも、妹でも」
さらりと言う。
「二人きりじゃなければ、問題ないでしょう」
みさとは、しばらく黙る。
そして――
「……本気で言ってます?」
宗平は肩をすくめる。
「本気ですよ」
少しだけ、意地悪く笑う。
「それとも、二人きりの方がいいですか?」
みさとは一瞬だけ言葉を失い――
「……最低です」
とだけ言った。
だがその頬は、わずかに熱を帯びていた。
宗平は、それを見逃さなかった。
(……やっぱり、面白いな)
山奥の温泉。
閉じた空間。
逃げ場のない時間。
その中で、何が起きるか。
まだ、誰も知らない。




