第二章デート編(アクアリウム〜美術館)①
見合いから数日後。
「一度くらい、ちゃんと外で会いなさい」
喜美子の一言で、二人は“恋人らしい行動”を取ることになった。
選んだのは、街の片隅で開かれている小さなアクアリウム展。
アクアリウム展へ向かう道すがら、宗平がぽつりと言った。
「妹さん、その後どうしてるんですか」
みさとは少しだけ視線を宙に泳がせる。
「彼と暮らしているそうです。父が激怒しているので、
父のいない時を見計らって荷物を取りに来ているみたいで」
責めるでもなく、庇うでもない声だった。
少し間が空いて、みさとが横目で宗平を見る。
「……やっぱり、妹のほうが良かったですか?」
宗平は歩幅を変えずに答える。
「いえ。母が無理な縁談を持ち込んだんで、気になってただけです」
すぐに、みさとが返す。
「じゃあ、私なら気にならないんですか?」
宗平はわずかに笑う。
「運が悪かったと、諦めてください」
冗談めかして、でもどこか本気を含んでいる声。
そんなことを言い合いながら、二人は会場に着いた。
薄暗い展示室。
水槽の中で、光がゆらゆらと揺れている。
まるで、まだ名前のない感情のように。
二人で会場を見てまわる。
青、紫、金――色彩が水に溶けて、
現実の輪郭を曖昧にしていく。
宗平は、ほとんど言葉を発しなかった。
ただ、一つ一つの水槽の前で立ち止まり、じっと見つめている。
まるで、何かを“読み取ろう”としているように。
みさとは、その横顔をちらりと見る。
(……こんな顔、するんだ)
軽口を叩く男。
人を試す男。
そのどちらでもない、ただ、静かに何かを受け取っている人の顔。
クラゲの水槽の前で、宗平が小さく呟く。
「これ、ずっと見ていられますね」
声が、少しだけ柔らかい。
みさとは、ふっと笑った。
「珍しいですね。そんな風に言うの」
「美しいものは、見てるだけで得なんですよ」
さらりと言う。
みさとは水槽のガラスに映る自分を見た。そしてふと、
この人は今まで、どんなものを美しいと思ってきたのだろうと思った。
なぜかそれを、聞けなかった。
自分も、その中に入るのか。
そんな考えが、ふと浮かんで消える。
小さい会場を気づけば、あっという間に一周していた。
出口の前で、みさとが言う。
「この近くに、美術館があるんです」
宗平が視線を向ける。
「横山大観展、やってて」
少しだけ間。
「行ってみます?」
宗平は、軽く頷いた。
「いいですね」




