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出張編 続き

■残された宗平

一人。

ソファに座ったまま。

手を見る。

さっき、涼子の手に触れた感触が残っている。

「……はあ」

深く息を吐く。

目を閉じる。

浮かぶのは――

みさとの顔、少し笑った顔、雷に怯えた顔。

そして、さっきの涼子の言葉。

「少しだけ」

ゆっくりと目を開ける。

「……面倒だな」

でも。

その声は――

どこか、少しだけ楽しそうだった。


■帰国後・再会(空気の違い)

夕方の駅前、

人の流れが絶えない改札口。

みさとは、少し早めに来ていた。

(別に、待ちたかったわけじゃない)

時計を見る回数が増えていく。

スマホを握る。

通知は、ない。

(……帰ってきたって、聞いただけだし)

誰に言い訳しているのか分からない。

「お待たせしました」

みさとは背後からの宗平の声に振り向く。

スーツ姿の少しだけ疲れた顔。

でも、いつも通りの、軽い表情。

「……別に、待ってません」

反射で出る言葉。

「そうですか」

さらっと受け流す。

みさとは次の一歩で、気づく。

(……近い)

宗平が、少しだけ間を空けて止まる。

「元気でしたか」

「普通です」

短く答える。

「出張、大変だったんですか」

みさとが聞く。

「まあ、それなりに」

一拍。

「……寝れてます?」

思わず出る。

宗平が、少しだけ目を細める。

「心配してくれてるんですか」

「別に」

すぐに否定。

でも、その“間”を、宗平は見逃さない。

「寝てますよ」

軽く言う。

「飛行機でも、ホテルでも」

(……そう)

その言葉に、なぜか少しだけ引っかかる。

(誰と?)一瞬、浮かぶ。

すぐに打ち消す。

(何考えてるの)

宗平が歩き出す。

「少し歩きませんか」

並んで歩く。

肩が、触れそうで触れない距離。

でも、前より、近い。

風が吹く。みさとの髪が、揺れる。

その瞬間、宗平の手が動く。

ほんの一瞬だけ、触れそうになって。

止まる。

(……今)

みさとは気づく。

でも、何も言わない。

言えない。

「お土産、ありますよ」

宗平が言う。

「いりません」

「そう言うと思ってました」

少し笑う、その笑い方ーー

(……なんか、違う)

前より、静かで少しだけ、深い。

「でも」

宗平が続ける。

「これは、あげます」

小さな箱を差し出す。

受け取って開ける。

中には、小さなガラス細工。

透明な中に、光が閉じ込められている。

「……綺麗」

思わず漏れる。

宗平は、何も言わない。

ただ、見る。

逃げられない。

(……やめて)

胸の奥が、ざわつく。

「似てると思って」

ぽつりと。

「……何がですか」

宗平は、少し考える。

「光り方が」

一瞬、意味が分からない。

でも、(……分かる気がする)

みさとは箱を閉じる。

「……ありがとうございます」

小さく言う。

沈黙。

でも、嫌じゃない。

むしろ――

(……落ち着く)

その感覚に、自分で驚く。

宗平が、ふっと息を吐く。

「少し、変わりましたね」

心臓が跳ねる。

「何がですか」

「前より」

一拍。

「目、逸らさなくなった」

言われて、気づく。

確かに。

今、ちゃんと見ている。

逃げてない。

(……なんで)

答えは、分かってる。

でも、認めたくない。

「……気のせいです」

宗平は、少しだけ笑う。

「そういうことにしておきます」

また、歩き出す。

その背中は前より、遠くない。

でも、完全に近づいたわけでもない。

その曖昧な距離が一番、危ない。


■余韻

みさとは、手の中の箱を見る。

(……光り方が似てるって)

意味を考える。

考えれば考えるほど、

分からなくなる。

でも分からないまま、

手放したくないと思っている自分がいる。



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