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■場面転換

昼。

みさとの父の工場。

事務所のドアが開く。

「こんにちは」

宗平。

「え?」

みさとが固まる。

「どうしたの?」

「近くまで来たので」

さらっと言う。

(何の用?)

疑問が浮かぶ。

母がすぐにお茶を出す。

「もうすぐお昼ですし、食べていかれます?」

「豚汁ですけど」

(……いやいや)

みさとの心の中のツッコミ。

「いいんですか?」

宗平は嬉しそうに笑う。

「僕、大食いですよ」

「たくさんありますから」

母も笑う。

父は無言で食べている。

ただ、軽く会釈するだけ。

宗平は、ひと口食べて――

「美味しい」

素直に言う。

そして、おかわり。

「このレシピは?」

母が笑う。

「みさとに、ちゃんと教えておきますから」

ちらりと、みさとを見る。

(……何そのプレッシャー)

父が席を立ち、

母も片付けに向かう。

二人きり。

「……大袈裟すぎません?」

みさとが小さく言う。

宗平は少し考える。

「出来合いばかりで」

一拍。

「家庭の味に飢えてるんです」

その言い方。

軽いのに、どこか本音。

みさとは、少しだけ言葉に詰まる。

■数日後

宗平の会社の前。

みさとは立ち止まる。

手には、お弁当。

(……なんで私が)

母の“善意”。

断れない。

意を決して、中へ。

受付。

一瞬、怪訝な顔。

だが、電話の後――態度が変わる。

「専務室へどうぞ」

(……専務)

その言葉に、少しだけ緊張する。

扉を開ける。

宗平。

いつもの顔。

「どうしました?」

「母に……お弁当を」

「ちょうどいい」

自然に言う。

「今から出ようと思ってました」

「一緒に食べましょう」

秘書に声をかける。

「お茶を」

「……涼子さんじゃないんですね」

ぽつりと出る。

「彼女は外出中です」

(……よかった)

無意識に、胸をなでおろす。

「苦手ですか?」

「……ちょっと」

正直に言う。

二人で弁当を広げる。

「お母さんの料理、いいですね」

宗平が言う。

「口の中で味が喧嘩しない」

「へえ……」

みさとは首をかしげる。

その時。

ドアが開く。

「専務、大変です!」

涼子。

息が少し上がっている。

「トラブルです。先方がすぐに会いたいと」

空気が変わる。

「野崎は?」

宗平。

「手が離せません」

「他は?」

「いません」

一瞬の間。

「……チケットを」

「もう準備しています」

即答。

みさとは立ち上がる。

(邪魔だ)

そう思って。

「大丈夫です」

宗平が止める。

「食べる時間くらいあります」

その一言。

なぜか、少しだけ嬉しい。

帰り際。

廊下。

涼子とすれ違う。

一瞬。

目が合う。

涼子は口元の片側でふっと笑った。

(……何?)

意味が分からない。

でも。

ぞくっとする。

第五章 交錯編 (飛行機の中)

静かな機内。

宗平は、すぐに眠っている。

無防備な寝顔。

涼子は、それを見ている。

じっと。

(……この人)

その視線は、

優しさでも、憧れでもない。

まるで――

“射止めるような目”。

小さく、唇が動く。「……逃がさない」


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