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誤解を解きに行く(みさと視点)

宗平の会社の受付前、一度立ち止まる。

(……帰ればよかったかも)

そう思っても、もう遅い。

『どうされましたか?』の受付嬢の声に

「専務さんにお会いする約束をしてまして」

数十秒後、

「どうしました?」

宗平はいつもと同じ顔で現れる。

それが、少しだけ腹立たしい。

「……話があります」

自分でも驚くくらい、硬い声だった。

「どうぞ」

宗平に促されるままロビーの一隅に通される。

ソファーに腰掛けながら胸の鼓動が少し速くなる。

(なんで緊張してるの、私)

見慣れたはずなのに、妙に落ち着かない。

宗平は、向かいに座る。

「で?」

促される。

みさとは、息を一つ吸う。

「誤解なんです」

「どの誤解です?」

即答。

少しだけ、言葉に詰まる。

「……旅館のこととか」

視線を逸らす。

「変な報告、されてるみたいで」

宗平は、ああ、と軽く頷く。

「母の報告ですね」

まるで他人事。

「放っておけばいいんじゃないですか?」

「よくないです」

思わず強くなる。

自分でも驚くくらい。

宗平が、わずかに目を細める。

(見られてる)

そう思うと、少しだけ落ち着かない。

「ちゃんと、説明したいんです」

言い切る。

宗平は少しだけ首を傾げる。

「一人で?」

その一言。

みさとの言葉が止まる。

説明するなら、当事者が必要。

考えてなかった。

つまり――

「……一緒に来てください」

言ってから、はっとする。

(何言ってるの、私)

宗平は、少しだけ笑った。

「それ、余計に誤解されません?」

図星。

何も言えない。

でも、引けない。

「それでも、いいです」

少しだけ、顔を上げる。

「このままは、嫌なんです」

宗平は、数秒だけ黙る。

その沈黙が、やけに長い。

やがて、小さく息を吐く。

「分かりました」

あっさりとした返事。

なのに。

(……なんで)

少しだけ、安心している自分がいる。

数日後。

宗平の実家。

同じ玄関に立つ。

でも、前とは少し違う。

それだけで、意味が変わる。

「いらっしゃい」

喜美子の声。

視線が、二人を一度で捉える。

「今日は、どうしたんだい?」

みさとは、一歩前に出る。

「お話があって」

声が、少しだけ硬い。

「何も、ありませんでした」

はっきり言う。

逃げないように。

喜美子は、じっとみさとを見る。

その視線が、重い。

そしてゆっくりと、宗平へ移る。

「本当かい?」

一瞬、時間が止まる。

宗平を見る。

(ここは、ちゃんと)

そう思う。

宗平は、わずかに目を伏せる。

そして――

「ええ」

一拍。

「“まだ”何も」

「宗平!」

思わず声が出る。

空気が、揺れる。

喜美子の口元が、ゆっくりと歪む。

何も言わない。

でも、すべてを理解した顔。

みさとは、言葉を失う。

(……違うのに)

否定したはずなのに。

余計に、強くなっている。

帰り道。

風が、少し冷たい。

しばらく無言で歩く。

やがて、みさとが口を開く。

「どういうつもりですか」

足を止める。

宗平も止まる。

「嘘は言ってません」

淡々と。

「そういう問題じゃありません」

感情が少し乗る。

宗平は、少しだけ考えるようにして――

「そんなに嫌ですか?」

その一言。

みさとは、一瞬答えられない。

胸の奥が、わずかに揺れる。

(嫌、に決まってる)

そう思うのに。

言葉が、少し遅れる。

「……困るだけです」

曖昧な答え。

自分でも分かっている。

宗平が、一歩だけ近づく。

距離が、変わる。

「じゃあ」

低い声。

「本当にそうなったら?」

一瞬、呼吸が止まる。

(……何を)

言い返すべきだし。

否定したい。

でも。

言葉が出てこない。

視線を逸らす。

(……違う)

違うはずなのに。

胸のどこかで、別の感情が動いている。

宗平は、それ以上何も言わない。

ただ、小さく笑う。

「誤解、解けるといいですね」

その言葉。

表向きは、優しい。

でも。

(……この人)

本気で解く気、あるの?

みさとは何も言えず、ただ歩き出す。

さっきより、ほんの少しだけ近くなっていた。



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