世界を救った魔術師、少しだけ理解する
幸いにも、城の襲撃での死者は出なかったみたいだ。ただ、重症を負った兵士が多く、城の警備は薄くなってしまっている。
「いや、年は取りたくないものだ。あんな連中に遅れを取るとは……」
ベッドの上で恥ずかしそうに、それでいて悔しそうに嘆くブレーブ城の現王クロード・B・ツワァイベル。
「クロードくんの命があって良かったです」
その脇では、王妃のレイラ・ブレーブが直々に看病していた。
「申し訳ございません、陛下。あのような不届き者を易々と城に忍び込ませたうえ、ここまでの被害を出してしまい……」
ベッドの前では、セリーヌが今にも切腹しそうな顔をして頭を下げていた。
「セリーヌは良くやってくれた。死者が出ていないのがその証拠さ」
クロードの優しさに触れ、セリーヌは安堵と申し訳なさが入り交じった、なんとも複雑な表情をしてしまう。
「しかし……本当にきみはリッタなのかい?」
クロードが起きた時、今、この場にいる、クロード、レイラ、セリーヌ、ライアン、ポアラへ、俺が幼児化したことを告げていた。
「おいおい。幼馴染の幼い頃の顔を忘れたってか?」
「いや、むしろ見慣れたものだ。よくリズさんに抱っこされていた猿の顔が、今度はポアラに抱っこされてるときた」
「お前、そんなこと思ってたの!?」
「リズさん? 猿?」
ポアラが首をひねると、クロードが嬉しそうに教えてやる。
「リズさんはリッタの母親でな。よく悪さをするリッタを猿のように捕まえていたんだよ」
「あー、だから先生はあまり抱っこが好きではないのですね」
「いや、違うから。そうじゃないから」
「リッタは自分の生徒に抱っこされて喜ぶ変態ロリコンだもんな」
「ライアン! おめぇの恥ずかしい過去を全部ばらすぞ」
「ライアンの恥ずかしい話なんて山ほどあるだろ」
「クロード、お前の恥ずかしい話も山ほどあんぞ」
「なんですか? クロードくんの恥ずかしい話、聞きたいです」
「おいレイラ。勘弁してくれ」
「リッタ卿、あの時、魔術で援護頂誠にありがとうございます。本当に助かりました」
「おいセリーヌ。お前は幼馴染のおっさんたちがイチャついている時に、真面目な話をぶっこむな。本当にガキの頃から空気が読めんやつだな」
「──んんっ! その容赦ないお言葉っ、まさにマイマスター」
「悶絶すんなっ」
「あのっ、みなさんっ!」
急にわいわいとしだす現場を、ポアラの声で制止が入る。
いや、恥ずかしい。良い大人たちが好き勝手喋っているのを、学生のポアラに喝を入れられるとは。
大人たち全員がポアラへ頭を下げると、少しだけあわあわしながらもポアラが質問を投げる。
「これから、どうしたら良いのでしょうか」
彼女の言葉に、全員が考え込む。
「少し話を整理しようか」
流石は現王。こういう時の仕切りを買って出てくれるのはありがたい。
「まず敵は最初にリッタを狙ったんだったな?」
「ああ。敵は二人組だ。一人、顔を出している若い方がパリンドロミスを名乗ってやがった。そして、黒マントの方が若い男を『親父』と呼んでいた」
「親子、か?」
ライアンが呟くとクロードが難しい顔をする。
「確かに。謁見の間でもそう呼んでいたのを聞いた。だが親子にしては、呼ばれた方が若すぎるぞ」
「クロードくん。世の中には色々な親子の形があるわ。血が繋がっていなかったりとか」
「ふむ……関係性は様々、か」
「奴等がどういう関係なのかはわからんが、パリンドロミスは上級魔術師だ」
「リッタ。なぜ言い切れる?」
「魔術を複数個展開できる。標準的な魔術師は、下級魔術だろうが、上級魔術だろうが、一つの術式しか展開できない。だが、上級魔術師は複数個を展開できる」
「おいリッタ。なに言ってんのか、全然わからんぞ」
ライアンの頭がこんがらだっているところに、ポアラが優しく説明してくれる。
「凄い魔術師は火とか水をいっぱい出せます」
「なるほど。簡単でわかりやすい。リッタとは大違いだ」
「うるせーよ、単細胞」
「なるほどな。パリンドロミスを名乗る者が上級魔術師で、黒マントの方は剣士、か?」
「お言葉ですが陛下。奴は剣士ではないと思われます」
「セリーヌ。どうしてそう思う?」
「はい。こう、ぶわーって、なって、ごおお、ってなっていました。剣士は普通、しゃきん、で、しゅばんって感じなので」
この子、相変わらず説明するの下手ね。剣の腕は凄いんだけども。
「セリーヌ。あいつの剣筋、なんかおかしかったよな?」
フォローも兼ねて、確認事項を問う。
「はい。急に、ぶっふぉ、ってされて、剣を弾き飛ばされたました。まさに神の速度でしたね」
神の速度……見た感じはそう見えるが、果たしてそんな単純なものなのだろうか。
「あの時、魔力の違和感を感じたんだ。俺は幼児化して魔力の違和感を感じ取れるようになった。あの時、速度を上げた時、黒マントの魔力に違和感を覚えた」
「セリーヌが神の速度と言うのだから、相当の速さだったのだろう。だが、リッタの話を交えると、ただ速度が速いだけなら、なぜ最初から速くしなかった? なぜ、そのままセリーヌを斬らなかった? と疑問は出るな」
しかし、そのことについての答えは出そうにない。
「わかっていることは、接近戦を黒マント。パリンドロミスを名乗る者が魔術を使用するということか」
クロードが確認するように言葉を繰り返すので、頷く。
「そうだな。俺の時も全く同じだった。それで俺に魔法をかけた時に黒マントが言ったんだ。『他の奴等にも有効ってことで良いんだよな』って」
「そのセリフは俺やクロードも狙われてるってことだよな。実際、城に乗り込んで来たわけだし」
「そういうこと。奴等は俺を始末したと思っているだろう。それに幼児化するって効果はどうやら知らなかったらしい。さっき現場にいて俺に気が付いていないのがその証拠になる」
「確かにそうですよね。もし、幼児化することを知っているのなら、先生を抱っこしていた私が狙われていましたものね」
「ああ。つまり、奴等が使った魔法、『パリンドロミス』は本来、幼児化する魔法ではないってこったな」
「本来の使い方とは違う魔法を使った。奴等も人間。魔法は使えるが扱えない?」
「なぁ、いつもリッタに怒られるんだけどよぉ、魔法と魔術は違うんだろ? てか、人間は魔法を使えないはずなのに、なんで魔法で俺たちを殺そうとしてんだ?」
ライアンの質問に俺とクロードは黙り込んでしまう。
そう。そこがわからないんだ。
「ライアン卿。つまり、わからないことがわかった、ということではないでしょうか」
セリーヌの言葉に、「なるほどなぁ」となぜか納得するライアン。
クロードが深く息を吐いた。
「わかっていることだけを整理すると──敵は親子二人組。狙いは元勇者パーティ全員。リッタは始末したと思っており、幼児化のことは知らない」
「ああ」
「次に狙われるのは僕かライアンか……なににせよ、僕としては城の警備を立て直すのが先決。セリーヌ、頼めるか」
「はい、陛下」
「ライアンはしばらく単独行動を控え、ギルドのメンバーで行動するようにしてくれ」
「あいよ」
「リッタたちは一番重要だ。奴等に幼児化のこと、リッタが生きていることがバレたら、また命を狙われる。だからこそ日常に溶け込んで命を守っていて欲しい」
やられっぱなしで終わってられないだろ。
それが本心だけど、それを実際に行動に移すほど、身の程をわきまえないガキの思考でもない。
「そうだな。今の俺じゃ戦力にはなれそうにない」
これもまた本心。ドパガキにはされたけど、分別はつけられる大人になっちまってんな。
「ポアラ。リッタを頼むぞ」
「は、はい、陛下。任されました!」
敵の正体はまだ見えない。だが、少なくとも、俺たちが何と戦っているのかは、はっきりした。




