世界を救った魔術師、自分の学院に通う
「どうして俺がこんな格好を……」
俺が幼児化したことを奴等にバレないようにするため、日常に溶け込む。ってのは良いが、なんで俺が魔術学院《自分の学院》の初等部に通わなきゃならんのだ。
「リッタくん。緊張してるの?」
教室に向かう途中、初等部担任のブランカ・グラシェが尋ねてくる。
どうやら、俺の複雑な顔付きを編入の緊張と勘違いしているらしい。
「大丈夫よ。みんな優しい子だから」
「わ、わぁ、良かったぁ」
俺が幼児化したことを知っているのは、クロード、ライアン、レイラ、ポアラ、ミラージュ、セリーヌのみ。
リッタ《俺》の生死に関しては、特に触れないようにするとのこと。
最初は葬式でもすっか、なんて話になったが、ボツ。
まだ奴等がどんな魔法を使ったのか不明な間は、下手に生死を明かすとバレてしまう恐れがある。なにもしない、というのも一つの手だ。
「リッタくんの名前って、リッタ様から頂いた名前なのかな?」
「う、うん。そ、そうだよ」
「ふふっ。リッタ様に憧れて、子供に名前を付ける親は少なくないみたいね」
「あ、あははー」
反応しづれーよ。
名前に関しては偽名を使うことをやめた。
王都には他に同じ名前が数人いるし、下手な嘘はバレやすい。日常に溶け込むと決めた以上は、本名でいこうという判断となった。
「ふふっ。リッタくんも、リッタ様に負けないくらいの魔術師になれるよう、先生も頑張るね」
「よろしくお願いします」
子供っぽく返すと、初等部の教室前に着いた。
ブランカがいつも通り教室のドアを開けて入るので、その後に続く。
「はーい、みなさーん。今日は新しいお友達を紹介しまーす」
ブランカが教壇に立ち、パンパンと手を叩くと教室にいた子供たちが、ちゃんと着席をし、こちらに注目する。
「リッタくんです。はい、リッタくんも挨拶してね」
「リッタです」
わぁ。転校生だぁ。
小さーい。最年少かなぁ?
綺麗な顔ぉ。男の子? 女の子?
純粋無垢な声が上がる中、「リッタくんの席はあそこを使ってね」と一番後ろの席を指定された。
「──はい、じゃあ、一時間目の準備をしてみんな待っててねー」
はーい。
元気な声で、手なんか大きく挙げて挨拶をした子供たちが、新しいおもちゃでも買ってもらったかのような瞳で駆け寄って来る。
「ねーねー、リッタくん!! どこから来たの!?」
「好きな食べ物は!?」
「魔物見たことある!?」
「待て待て、ミリア、ルーク、セシル」
ぶわぁぁって質問攻めしてくれるのは、元気があっておっちゃんは嬉しいけど、やられた身としては少ししんどい。
「へ? なんで、あたしたちの名前知ってるの?」
ミリアが幼い顔を、これでもかってくらいに傾げてくる。
あー、しまったなぁ。つい学園長としての自分を出してしまった。そりゃ自己紹介もまだしていないのに知ってりゃ、子供だって疑問に思う。
「もしかして、魔術で、ババっとわかったのかな?」
「すげー。だったら、リッタ様と同じくらいすげー」
「リッタ様2世の誕生だ」
盛り上がってんなぁ。
「バカね、あんたたち。そんなわけないでしょ」
聞き覚えのある声がやって来たかと思うと、それはもう、ばっちり知ってる顔がやって来た。
アリア・ブレーブ・ツワァイベル。クロードとレイラの娘だ。つまり、この国のお姫様ってことになる。
「編入前に先生か誰かに予め生徒の名前を聞いていたのよ」
アリア。残念ながら不正解だ。
「わぁ、さすが、アリアしゃま」
「かしこーい、アリアしゃま」
「イケメン、アリアしゃま」
「イケメンは女の子への褒め言葉としては微妙だからよしなさい、セシル」
「はーい」
「リッタ様と同じ名を持つリッタ。どうやらあんたの『クラスメイトの名前を魔術で当ててやったように見せるぞー』作戦は失敗したようね」
ドヤっと胸を張るアリアへ、不正解を叩きつけるなんてことはできんな。
どう返事をしたものか。
この子、いつもは照れ屋で大人しいってのに、こんなアリアは新鮮だね。
「私はね、この国のお姫様なの。えらーいの、わかる?」
あ……アリアって同世代と絡むとこんな感じなんだ。やなやつー。
「だから、そんな頭の悪い作戦を考えなくても、仲間外れになんかさせないわ。みんな仲良しっ、なんだからねっ」
……いや、めっちゃ良い子じゃんアリア。びっくりしたー。言葉選びがガキなだけで、やっぱり根はクロードの子供だな。
「次の休み時間、この私、直々に校内を案内してあげる。ありがたく思いなさい」
アリアの奴、同世代には、面倒臭い面倒見の良いお姫様なんだな。




