世界を救った魔術師、自分の学院を案内される
ふむ……しかしなんだ。魔術学院の初等部の授業と侮っていたが、これがなかなかどうして面白いな。ブランカの教え方も上手いし、俺の学院ってレベル高いな、おい。なんて自画自賛しちゃったりして。
「さっ、リッタ、行くわよっ」
昼休みになると、アリアがやって来る。こいつ、休み時間の度に、「お姫様自ら校内を案内してあげるわ」なんて言って連れ回してくる。
ここら辺の性格もクロードの子だなぁ、としみじみ思っちまうね。
「リッタ。このお姫様自ら、一緒にランチをしてあげる。感謝しなさい」
「そりゃ嬉しいね」
本心からの言葉。親友の照れ屋の子供がランチに誘ってくれて、嬉しくないわけがない。
「この学院を造ったリッタ様は、魔術も完璧だけど、学院のセンスも完璧なのよ。カフェなんてすっごくオシャレ──って、なんであんたが照れてんの?」
「いやー、照れてるっていうか、申し訳ないというか……」
確かに学院を造って欲しいとは願ったが外装や内装は関与してないんだよな。だからこの学院がオシャレなのは、俺じゃなく業者なんだよね。
「あんたのことなんて言ってないわよ。まったく」
やれやれなんてため息を吐かれてしまう。
「ここのカフェはお城のシェフが作る料理よりも上品で美味しいの」
「そうかぁ?」
明らかに城の料理の方が上品で美味しいと思うが……あ、わかった。
「にんじんが出ないからか」
「へ?」
お姫様とは思えない、なんともまぁ間抜けな声が漏れたぞ。
だけど、今ので答えが割り出せた。
城の料理は、健康を意識して作られているが、カフェは自由に選ぶことができる。
「は、は、はあ? そ、そんなわけないじゃない。お姫様の私が好き嫌いなんてあり得ないわ。てか、あんたこそにんじん嫌いなんでしょ。だめよ、好き嫌いしちゃ」
「そうだよな……好き嫌いは良くない。これを機ににんじんを食べられるように頑張るから、一緒に食べてくれない?」
「ゔぇ!?」
どっから声でた?
めっちゃぷるぷる震えている。
やべ、やり過ぎたか……。
「や、べ、別に、無理に、とは……」
「た、食べてあげるわよっ」
ビシッと指をさされてしまう。
「ただし、あんたも食べることっ! 覚悟しなさいっ!!」
涙目での宣戦布告。
流石は王族、プライドが勝っちまったか。
♢
さて、アリアとにんじんを食べに、学院のカフェにやって来たのだが……人、多いなぁ。
いつもは研究に没頭して昼を食べなかったり、時間をズラしたりしているからなぁ。俺がいつも座っている席は……高等部のフェリックスたちのグループが独占してやがる。
「おい、ポアラ様だ」
「流石、絵になる」
「目の保養」
カフェの一部に人だかりができてしまっていた。
皆の視線の先には、優雅にランチを楽しむポアラの姿がある。
「ポアラ姉様よ」
アリアが質問をする前に教えてくれる。
「学院一の秀才で、その実力は学院長のリッタ様を凌ぐと噂されるほど。おまけに学院一美人でクールで優しくて、高嶺の花のような存在なのよ」
「ほへぇ」
噂って凄いなぁ……。
ポアラの実力は認めるが、あの、「えへへー」と顔をとろけさせるように笑うポアラが、生徒の間では高嶺の花とはねぇ。
「ま、あんたが容易に話せる人じゃないってことよ」
「お姫様とは簡単に話せるけど?」
「うっさいわね! 私は超絶優しいのよ!! 他の国のお姫様はこんなんじゃないから!」
「仰る通りで」
こんなお姫様は世界広しといえどアリアだけだろう。もちろん良い意味で。
「あ、先せ──リッタくん、アリアちゃん」
!?
ポアラがこっちに手を振ると、アリアが酷く驚いた顔をしていた。
「な、んで、あんたの名前を……?」
「さぁ……学院一の秀才だからじゃない?」
適当に返しながら、俺はポアラがランチをしている席へと向かう。それにアリアも続く。
「一緒に食べませんか?」
「悪いね」
俺は遠慮なくポアラの前の席に腰かけたが、アリアの疑問は止まないみたいだ。
「ポアラ姉様、どうしてあなたのような高嶺の花が、こんなどこの馬の骨かもわからないリッタの名を知っているのですか?」
「馬の骨……」
ぷくく、と小さく笑うと、ポアラはじーっと俺の顔を見つめて来る。
あ、これ、良くないことを言う顔をしている。
「さて、と。俺はランチを取りに行くかなぁ。今日のご飯はなににしようか」
「待ちなさい!」
慌ててアリアは俺を制止させた。
「私が行ってあげるわよ」
「いや、別に……」
「お姫様自ら行ってあげるんだから、ありがたく思いなさい」
そう言って有無を言わせず、アリアはキッチンの方へと向かって行った。
「小さい頃から面倒見の良いお姫様ですね」
「それは認めるが、今回に限っては違う意図だと思うがね」
「?」
ポアラは小さく首を傾げたが、それ以上気にならなかったのか、違う質問を投げてくる。
「どうですか? 学院生活は」
「案外悪くない、といったところか。これが知らない学院ならば嫌気が差していただろうが、俺の学院だからな」
「ふふっ。自分の家みたいなものですもんね」
小さく笑うと、周りから小さな歓声が上がる。
「ポアラ様が笑っていらっしゃる」
「目が癒される」
「初等部のお方とランチなんて、なんと面倒見の良いこと」
また、ふわっとポアラへの言葉が小さく聞こえて来る。
「お前も……色々と大変だったんだな」
悪口じゃないけど、注目されるというのはしんどいものだ。その気持ちはわかってしまう。
「そうですよ。私、学院の高嶺の花みたいなんです」
「他人事みたいな言い方だな」
「だってそんな人間でもないですし」
「ま、それは言えてるな」
ポアラは親戚の子って感じの親しみやすい女の子だ。高嶺の花だなんてイメージは俺にはない。
ただ、それは俺目線のポアラなだけで、生徒からすると、やっぱり高嶺の花って感じなんだろうな。
「お待たせ」
アリアが帰って来ると、テーブルに二人分のランチを置いてくれる。
そこににんじんが入っている料理は、ない。
「さっ、食べるわよ」
「……はいはい」
これで誤魔化せていると思っているのが、まだまだガキでかわいいなぁ、と思ってしまう。
♢
「おい、聞いたか」
「なにを?」
「学院長の銅像が──」
ランチを済ませたところで、男子生徒たちが面白そうな声を出しながら通り過ぎて行く。
俺の銅像が、なに?
「気になりますね。行ってみますか?」
「ポアラ姉様も行くなら私たちも行きます。ね、リッタ」
「ああ。野次馬魂で行くか」
というわけで、中庭広場にやって来たんだけど、やたらめったら人が多いなっ。
一体、なにが──!?
「こ、れは……!?」
「俺の銅像がめっちゃ落書きされてる!?」




