世界を救った魔術師、落書きされる
魔術学院にある俺の銅像の顔面に、う〇ことか書かれているんですけども。なんか、変な絵みたいなわからんもんがいっぱい書かれているんですけども!?
いや、俺だって銅像なんて偉そうなもんいらなかったんだけどさ、創業者だからいるとかなんとか言われてさ……俺だって昔の偉人の顔に落書きとかしたけど、こんな気持ちになるんだな。辛すぎて滅……。
「なんか学院長が握ってる杖、変じゃない?」
「え、え? そ、そうかな?」
「うーん、確かに」
杖?
男子学生の会話から、杖に目をやる。
俺の銅像が握っている杖……あれは──。
「はいはい、みなさん。落ち着きなさい、ええ、はい」
ざわざわと騒がしい中庭に、パンパンパンと手を叩いてやって来た立派な髭を生やした初老の男性は、高等部を担当しているウォルザ先生だ。
「次の授業が始まりますよー。ささっ、教室に戻った、戻った」
ウォルザ先生の声に従い、中庭にいた連中は素直にそれぞれの教室へと戻って行く。
「リッタ。私たちも教室に戻るわよ」
アリアが声をかけてくれるが、それを無視して、銅像の方を眺めてしまう。
「まったく、誰がこんなイタズラをしたのやら……よりによって偉大なる魔術師リッタ様の像にするとは──って、これ、消えないじゃないかっ」
ウォルザ先生はぶつぶつ言いながら、落書きを消そうとしていたが、どうやら簡単には消えないらしい。
「ポアラ」
こそっと彼女を呼ぶと耳を貸してくれる。
「放課後。ここに来てくれ」
「? わかりました」
ポアラにそれだけ言うと、「リッタ!」と少し怒った口調のアリアが俺の耳を引っ張ってくる。
「さっさと戻らないとウォルザ先生に叱られちゃうじゃない」
「いででで! 初対面の奴の耳を引っ張るなよ」
「初対面でお姫様に耳を引っ張ってもらってありがたく思いなさい」
「とある業界ではご褒美かもなっ」
そういうわけで、俺はアリアに耳を引っ張られ、教室へと戻った。
♢
しまったなぁ。
初等部と高等部じゃ授業の終わる時間が違うのを忘れていた。
ポアラが俺の銅像がある中庭へ来るまで少し時間がある。
「まったく、消えないじゃないか」
先に銅像のある方へ来ると、ウォルザ先生が落書きを消そうと奮闘していた。
もしかして昼休みから? いや、それはないか。彼にだって受け持っている授業があるわけだし。時間が空いたから消しに来てくれたんだろう。
「……ぬ? もし、きみは……初等部に編入したリッタくんかな?」
ウォルザ先生と目が合うと、呼ばれてしまった。
「初めまして、リッタです」
子供っぽく挨拶をすると、優しそうな顔をしてくれる。
「その歳でキチンと挨拶できて偉い。立派ですぞ」
ぽんぽんと頭を撫でてくる辺りに、田舎のおじいちゃん感を感じるね。
「おっと、相手に挨拶をさせておいて、名を名乗らないなぞ失礼じゃったね。ワシはウォルザ。高等部を担当しておる。よろしく。ええ、はい」
ウォルザ先生は最近、俺の魔術学院で講師として入った先生だ。付き合いが浅いから全然知らなかったけど、この人、高等部より、初等部の方が性に合ってんじゃない?
「ウォルザ先生は、ずっと落書きを消してたの?」
「うむ。偉大なるリッタ様の像を汚すのは見過ごせないからのぉ。きみもそう思うじゃろ?」
「そ、そうだよね」
「うむうむ。流石は同じリッタ様の名を受け継ぐ者。では──」
ウォルザ先生はこちらにブラシとバケツを見せてくる。
「共に汚れを払おうぞ」
強制手伝いの始まり始まり。
♢
ゴシゴシと銅像の落書きを消すんだけど、まぉじで消えん。どんなペン使ったんだよ、これ。
「まったく、リッタ様の銅像にこのような汚い言葉を使いよって。う◯こまで描いて……ちょっとう◯この絵が上手いのも腹が立ちますなぁ」
「……」
俺はウォルザ先生を見た。
すると、「はぁ、やれやれ」とため息を吐く。
「リッタくん。もうこれ以上はダメそうじゃ。手伝ってくれてありがとう。ええ、はい」
「いえ、先生の役に立てて良かったです」
「なんと心優しき子。その心を忘れずに成長してくれたまえ」
ウォルザ先生は嬉しそうにブラシとバケツを回収すると、校内の方へと入って行った。
「せんせーい」
ウォルザ先生と入れ替わりで、ポアラがこちらに駆け寄って来る。
どうやら、結構な時間、落書き消しに励んでいたみたいだ。なんの成果も得られなかったけれども。
「ポアラ。ここで先生はやめろ。誰が見ているかわからんぞ」
「ごめんなさい。リッタきゅん♪」
反省の色なしで、俺を抱っこして来やがる。
「おい、こんなところを見られたら、お前の高嶺の花のイメージが崩れんじゃないか?」
「そんなイメージなんてぶっ壊れても良いです。私は私ですので」
他人軸で生きてないってか。流石はポアラ。強い子だね。
「それで先生。放課後にこんなところに呼び出してどうしたんです?」
この子、もう先生呼びが治らないみたい。まぁ誰もいていない時はいいか。
「……まさか」
「ああ、そのまさかだろうな」
「告白? いや、先生、私たち年の差が……でもでも、昨今、年の差なんて関係ないですもんね」
「その発想がまさかだわ」
「違うんですか? だったら、先生に描かれたう◯この芸術を見てほしいってことですか? 新しいスカトロ?」
「こら。高嶺の花がう◯ことかスカトロとか言わない」
「そんなイメージをぶっ壊していくスタイル」
「そうだったね」
「ごめんなさい。話が逸れまくって。それで、放課後に呼び出した理由は?」
「ああ。この銅像、杖を持ってるだろ?」
「はい」
「この杖って『エルディア・アストラル』っていう杖なんだ」
「なんだか、名前が壮大ですね」
「別に魔王を討伐した時に使った杖じゃないんだけどな。あるところじゃ結構な価値があるんだよ。それを知っている人間は少ないけどな」
「先生が持ってた杖だから価値はあるんでしょうね」
「すり替えられている」
「え?」
「エルディア・アストラルが盗まれている」




