世界を救った魔術師、探偵になる
再度、俺の銅像が握っている杖を見るが、何度見ても答えは同じだ。
「エルディア・アストラルが盗まれている。落書きは杖を盗むためのカモフラージュといったところか」
「盗み……この学院で……本当ですか?」
ポアラは酷く動揺した声を出していた。
こんな平和になった世の中で、王都で、学院で、盗みなんてあるのが信じられないといった様子。
「どれだけ豊な国であろうと、金に困っている人間は多い。ポアラだって金が無限にあるわけじゃないだろ?」
「それはそうですけど……」
「金はあればあるだけ良いんだ。その思考は、金持ちでも貧乏でも同じさ。だからこそ貧富の差ってもんがある」
ポアラはそれ以上なにも言わなかった。目の前で、しかも自分が通っている学院で犯罪が起こったことがショックなのだろう。
「まぁ、犯人は教員の誰かだろうな」
「どうしてわかるんですか?」
「さっきも言ったが、エルディア・アストラルの価値をわかる人間は少ない。普通に武器屋で売っても骨董品扱いで金にならん。だから裏で捌こうとしてんだろうな。魔術学院の学生で裏ルートを知っているなんて到底思えんから、消去法で教員が怪しいってわけだ」
「なるほど」
「ま、俺としては使ってた杖一本を堂々と飾っていただけだから、別に盗られようが、壊されようが構わない」
だが。
「魔術学院に犯罪者を野放しにすることは見逃せない。ポアラ、手伝ってくれるか?」
「もちろんです。大好きな学院を汚されたみたいで、私も腹が立ちます」
「そう言ってくれると嬉しいよ」
俺が造った学院を、生徒にそう言ってもらえるのは心底嬉しい。
「それじゃ、早速調査といこうか、ポアラ」
「はい、先生」
ということで、調査を開始、しようとしたところでポアラがこちらに尋ねて来る。
「そういえば先生。杖が盗まれたこの銅像ですけど、魔力の違和感はなかったんですか?」
「お、やっぱりそこはポアラも気になるところか」
「もう調べたのですか?」
「ああ。俺もそこは気になったところだ。あんなことがあった後の盗難だろ。もしかしたら奴等の仕業と思ったけど、今回は違うみたいだな」
「そうですか……もしかしたら、先生が小さくなったのも含めてなにかヒントがあるかもって思ったんですけど」
「しかし、良い着眼点だな。ポアラは名探偵になれるかも」
「えへへー」
「とりあえず今は地道に聞き込みだ。金に困ってそうな教員、最近様子がおかしい奴、なんでもいい。目星をつけよう」
「はい」
♢
──なぁんて言ってみたものの、教員全員の懐事情なんて、俺たちが簡単に知れるはずもない。
「なぁんの成果も得られなかったな」
中庭に戻って来て、疲れた声を出す。いや、ずっとポアラに抱っこされていたから、疲れているのはポアラの方だろうけども。
「わかったことがあります」
「今のでなにを得た?」
「私が、『初等部の男の子を抱っこして歩き回れる力持ち』という称号を得ました」
「うむ。今回の件についてはなんの意味もないね」
「これで私の高嶺の花イメージがまた一つブレイクできましたよ」
良かったねぇ。
中庭に戻って来ると、俺の銅像の前に高等部の三人組がいるのがわかった。
「やっぱりなんか微妙に違うんじゃね?」
「え、え、そうかな? 変な絵しか描いてないよ」
「なんか、フェリックスの勘違いな気もする」
フェリックス、ノア、アレンだ。あいつらいつも一緒だな。カフェでも一緒だったし。めっちゃ仲良し。
「どうかしたの?」
ポアラは同じ高等部として彼等に話しかけた。
「ポッ」
フェリックス。それはポアラに話しかけられて顔を赤らめたものか? それとも、ポアラの名前を噛んだのか? どちらにせよ、お前がポアラに好意があるのが透けて見えるよ。
「うっ、んん。ポアラじゃん」
チラリと抱っこされている俺を見ると、やたら恨めしそうにしている。すまない。お前にこのポジションはやれそうにない。
「やー、フェリックスがさ、なんか学院長の杖が変とか言うんだよー」
アレンが若干照れながらフェリックスを指差した。やはり、ポアラは高嶺の花てきな存在なんだな。
「ど、銅像の杖が変、とか、フェリックスが変なだけ」
ノアはポアラへ照れている様子はないが、おどおどした様子。
そんな二人の発言に、フェリックスがちょっと怒りながら言う。
「俺は学院長先生のことが好きだから、毎日この銅像見てんの!」
「え、きもっ」
「な、ないない」
アレンとノアの発言に「はあ!?」とフェリックスは声を荒げた。
「お前ら、学院長先生のこと好きじゃねぇのかよ! 世界を救った魔術師だぞ!! しかもめっちゃ優しいし!!」
「俺だって学院長のことは尊敬してるけど、銅像は毎日見ないっしょ。ウケる」
アレンの言葉にノアがこくこくと頷く。
「わかりみが深いです、フェリックスくん」
シュッとポアラが一歩フェリックスに近づき、目を輝かせる。
「先生は世界を救った大英雄。手の届かない雲のような人。それなのに私たち生徒に優しく接し、わかりやすく魔術を教えてくれて、気さくに話してくれる。まさに神っ!! 神様なのです!!」
やめろポアラ。一番気持ち悪いぞ。
フェリックスはポアラに近づいてもらって嬉しそうだ。そのテンション、いただくぞ。
「フェリックス……のお兄ちゃん」
「んあ? どうかしたか?」
ポアラと話せて上機嫌なのか、初対面なのに簡単に応答してくれる。
「毎日銅像を見てるって、最後、落書きされる前に見たのはいつ?」
「あー、実践の授業の前だから……昼前、かな」
「お前、昼前にも銅像見てんの? きもっ」
「うるせっ」
しかし妙だな。毎日銅像を見るっても、流石にきもすぎる気がするが……。
「てかお前、初等部に入った編入生だろ?」
魔術の素質がある人間は少ない。だから魔術学院の母数は自ずと少なくなる。少ない学院だから、初等部でも、高等部でも、編入の話は流れてくるってか。
フェリックスは俺へと耳打ちしてくる。
「ポアラの胸におさまりやがって、羨まけしからんぞ」
冗談半分、マジ半分なセリフ。
「あ、はは」
俺の中身がおっさんだから良かったものの、本物の子供だったら泣いてるぞ。いや、中身がおっさんの方が大問題か。
♢
結局、フェリックスの、なんか杖変じゃね問題は未解決のまま、彼等は去って行った。
「結局、なにもわからず終いですね」
「そうでもないぞ」
「え? 今のフェリックスくんたちとの会話でなにを得たのですか? 私はフェリックスくんが少し気持ち悪いを得ましたが……」
フェリックス。お前の恋の行方はまだ遠いみたいだぞ。
「フェリックスの話が本当なら、杖が盗まれたのは今日の昼ということになる。つまり、まだ杖は犯人が持っているか、隠しているということ。裏に流れてはいない」
「あ、そうか。杖は裏に流すだろうから、先回りすれば」
「そう。自ずと犯人に辿り着く」
「でも裏ルートなんてどうやって割り出すんですか? 先生なにか知ってるとか?」
「生憎、お天道様に顔向けできない真似はしない主義だ」
「じゃあどうするんです?」
「ギルドに聞きに行こう。ライアンならなにか知ってんだろ」
「あ、ギルド。そうですね。色々な依頼が集まるギルドなら、なにか知ってるかも」
ということで、俺たちはギルドへと急いだ。




