世界を救った魔術師、ギルドに頼る
王都にあるギルド、『スーパーハイパーアルティメット』へ来ると、受付嬢がポアラに抱っこされている俺を見て手を振ってくれる。
「こんにちはリッタくん。ポアラちゃん。今日もギルマスに用?」
「うん。ライアンのおじちゃんはいる?」
「今、執務室にいるわ。どうぞ」
最早顔パス。
ライアンが、俺たちがギルドを訪れたら通すように話しを付けてくれている。
ただ……。
「幼馴染をおじちゃん呼びなんて慣れる気がしねぇ」
「どういう気持ちなんです?」
「教え子に抱っこされてる気持ち」
「最高じゃないですかあ♪」
「ポジティブー」
くだらない話しをしながら、執務室のドアをノックする。
「あいよー」
低い声が中から聞こえて来たので遠慮なくドアを開ける。
デスクで大量の書類に目を通していたライアンが険しい顔を上げると、いつものアホ面を見せてくれる。
「お、リッタ。ポアラ。よく来たな」
「こんにちは、ライアン卿」
「悪い、忙しかったか?」
「んにゃ。意味のわからん紙を、ポケーっと眺めていただけだ。お前らが優先、だ」
そう言って眺めていた紙を、ポイっと机の上で滑らすと、ソファーの方に腰掛けた。俺とポアラも、客用のソファーに腰掛ける。俺はポアラの膝の上だけど。
「ライアンが事務作業なんて珍しいな」
「あまり外に出るなって国王様の御命令だから。ったく、昔からあいつにはかなわねぇよ」
「国王じゃなくても、昔からあいつの言うことはなんでか聞いちまうよな」
「ちげぇねぇ」
あはは、と笑い合うと、ライアンが尋ねてくる。
「それで、今日はどうした?」
「ああ。エルディア・アストラルが盗まれた」
「なにっ!? ──ってなんだっけ?」
あらら。俺とポアラはその場で転げてしまう。
「ま、まぁ、戦士のお前には杖なんて縁のない代物か」
「杖ぇ? リッタ。お前、剣で魔法を唱えてなかったか?」
「ライアン卿。魔法じゃなくて魔術です」
「あ、ごめん」
ポアラに叱られると、素直に謝ってる。若い女の子は強いなぁ。
「というか、先生。剣で魔術を使っていたのですか?」
「え? あー、ま、まぁね」
「もしかして……杖よりも剣の方が魔術が強くなるとか?」
「あーはは!! ポアラ、それは違うぞ。リッタのやつ、昔は剣士に憧れててな」
「あ、ライアン。昔の話を、むぐ──」
ポアラが俺の口を押さえてくる。
「えー、聞きたいです。先生が剣士に憧れていた話」
「おうよ。あれは……俺たちが七つか八つの時か」
むー! むー!! と止めても、子供の俺じゃ、細くて柔らかいポアラの手をどかすことはできなかった。
「村に凄腕の剣士が来てな。リッタとクロードに、『きみたちは剣の才能がある』とかなんとか言って、二人は剣の道に進んだんだよ」
「先生が剣の道に」
「まぁ最初から剣の腕はクロードが上だったな。それでもリッタは諦めずにずっと剣を振っていたっけ。でも、クロードが十になった時の儀式で神託が入って勇者になってから、一気に差がついちまってな。リッタはそっと剣を置いたんだ」
全部言われちまった。恥ずかしい。
「そんな過去があったのですね」
ぷはぁ、とポアラの手をようやくとどかして、唇を尖らせる。
「てか、違うから。エルディア・アストラルでなんか変な魔族倒したら色変わって嫌になっただけだから」
「魔族は基本変だろ」
ライアンからツッコミが入る。
「やっぱり剣がかっこいいから、クロードの剣を借りて魔術出してたとか違うから」
「先生クラスなら手から出した魔術でも十分強いのでは?」
ポアラからツッコミが入る。
もう何を言っても無駄だと悟る。
「そうですよ!! 剣が好きなんです!! 未練がましいですけどなにか!?」
「きゃああん♡ 論破される美少年先生きゃわわー♡」
「やめろ!! 愛らしくギュッてするな!! ばぶみが発動しちまう!! てか、ライアン。そんな昔の話をすんな!!」
「いやー、わりぃ。今のリッタ見てると、つい思い出してな」
ったく。恥ずかしいったらありゃしない。
「んな話は良いんだよ。杖だよ、杖。杖がパクられて裏ルートで流されるかもだから、なんか裏ルートのことで知らねぇか? って聞きに来たんだよ」
随分と遠回りな本題にようやくと入る。
「裏ルート……その杖を違法に捌こうとしてんのか?」
「多分な」
「そんなんは叩けばいくらでも出てくるが……最近、妙に羽振りが良くなった故買屋がいるって噂は聞いたな」
「故買屋?」
ポアラがなんの店だろうかと首を傾げる。
「盗品ってことを知りながら商売をする不正な業者のことだよ」
「だ、だめじゃないですかっ。故買屋なんて見過ごして良いんですか?」
「そりゃもちろん表向きは違うだろ?」
ライアンに聞くと、「ああ」と頷く。
「裏通りの『三日月堂』ってとこだ。前まではしょぼい古道具ばっか扱ってた骨董品屋だったのに、ここ最近、やたら値の張る品を右から左に流してるらしい」
「わー、怪しさしかねぇ」
「だろ? ま、噂の域は出ねぇけどな。ギルドとしちゃ依頼がないから動けねぇし、城も確たる証拠がねぇから動いてねぇってところだ」
「怪しいのに動けねぇってのは、辛いもんだな」
「でも、お前らなら、多少強引に首突っ込んでも誰も文句言わねぇだろ」
「首を突っ込みたいが、今の俺は剣士に憧れてた頃の魔術しか使えねぇドパガキだ。なにかあったら一貫の終わり」
「ふむ……それもそうだな。リッタとポアラだけじゃ危険過ぎる、か」
ポンっと手を叩いてなにかを閃いたライアン。
「だったらミラージュを連れて行けば良い」
「ミラージュ? そりゃミラージュの強さは折り紙付きだが、ダメだろ。ギルドの人間を連れて行っちゃ。証拠もないのに」
「リッタとポアラの護衛の任務とすれば良い」
「……昔から悪知恵の働く奴だ」
「あーはっはっ!! 合法、合法」
世界を救った戦士様とは思えない発想だな。




