世界を救った魔術師、調査する
ライアンがミラージュを推薦してくれるらしい。
というわけで、ギルドのロビーで彼女を待つことに。
「お待たせ、老師様」
その言葉と共に、俺を抱っこしてくるミラージュ。
ポアラとはまた違った良い匂いと感触にばぶみを感じてしまった。俺の負けだ。滅……。
「話はギルマスから聞いた。さっさと行く」
「あ、ちょ、ちょっと待ってください!」
いきなり現れたミラージュに対し、ポアラが待ったをかけた。
「先生を抱っこして良いのは私だけです!!」
ひょいっとポアラがミラージュから俺を剥ぎ取る。
あ、いつもの安心感のある香りが戻って来る。
「今回の依頼、学生は危ない。ここは老師様と私に任せて、学生はママのおっぱい吸ってれば良い」
悪役みたいなセリフを淡々と吐きながら、ミラージュがポアラから俺を奪い返す。
「先生が私のおっぱいを吸うんです!! ね? ちぇんちぇー」
言いながらポアラがまた俺を奪い取ると、ミラージュは無表情でポアラに言い放つ。
「清楚な顔して、ど変態のショタコン?」
「ち、違います!! 正統派です!!」
「正統派の変態?」
「だから違います!!」
「お前ら!!」
良い加減埒が明かないため、俺はポアラから降りて、二人の仲裁に入る。
「くだらないことやってないで、さっさと行こう」
「「くだらなくなんてない!!」」
「ええ……そこハモるの」
「でも、そうですね。今はこんなことやってる場合じゃないですね」
「今度、改めてどっちが老師様を抱っこするに相応しいか、ケリをつける」
「望むところです」
なんか二人に謎のライバル心が芽生えてんだけども。
♢
バチバチとポアラとミラージュが火花を散らしながらやって来た王都の裏通り。なんともまぁ、怪しいな、この通り。表が華やかなら、裏はジメジメ。それはどんな時代、どんな国でも同じ、か。
「じゃあ、行って来る」
「頼む」
「ポアラ。今だけ先生を預けた。でも、これが終われば返すこと」
「はい? 返すもなにもありませんけど」
ポアラの言葉を無視して、ミラージュは裏通りにある『三日月堂』へ、単独で乗り込む。
「ミラージュさんに任せて大丈夫ですかね」
ポアラは俺を抱っこしながら、ミラージュを不審に思っていた。まぁ、そのほとんどが私情によるものだと思われるがね。
「俺とポアラは学生だ。学生は普通、こんな店に用はないだろ」
「それは、まぁ、そうですけど」
「ミラージュはポアラと同世代だが、あいつは冒険者だ。風貌が違うだろ」
「無表情で野蛮だからサイコパスってことですか?」
「上手いことやってくれるだろってこと」
ドンガラガッシャン!!
ドーン!!
「があ──!!」
「「ええええええ!?」」
開始数秒で人が吹っ飛んで来たんだが!? フラグ回収即落ち二コマなんたが!?
「先生。吹っ飛んで来たのって……」
「ノア!?」
吹っ飛んで来た人物をよぉく見ると、フェリックスと仲が良いノアだった。
「学生は普通、こんな店には用はない、ですよね」
「ああ。するてっと、ノアが今回の犯人なのか……?」
自分の学院の生徒が犯人だなんて信じたくはない。信じたくはないが、目の前の状況を冷静に考えると、ノア以外にあり得ない。
俺はポアラから降り、倒れ込んでいるノアを見た。
息はしているため、死んじゃいないだろうが、ミラージュの蹴りがみぞおちに見事に決まってやがる。
「おい、ノア!! 起きろ!!」
ゆさゆさと彼を揺らす。
「完全にノビちゃってますね」
「ミラージュ、手加減下手っ」
いや、ミラージュのことだから最小限手加減したのだろう。流石は天才武闘家ってとこか。
「しょうがない、ポアラ、俺たちも中に入るぞっ」
「はいっ」
俺がとっとこ走り出すと、ポアラの方が足が速いから、スッと俺を抱っこされちまった。
男としてなんか不甲斐ない。
♢
「ミラージュ!!」
三日月堂に入ると、狭い店内の割に、多くの男たちが隅っこの方でノビていた。
複数対ミラージュで戦っていたのだろうが、相手が悪すぎたってところか。
「こいつら、言っていた杖の話をしていたから、とりあえずやっておいた」
「とりあえずやるなよ! こちとら探偵気取って調査してたのに!」
「この世はパワーで大体解決」
「無表情脳筋娘めっ」
だけど、これでエルディア・アストラルがこの店にあるのが確定となったな。
「おいおい。今度は学生がやって来たぞ。やって良いのか? おおん?」
店内にいる、身の丈程の剣を担いだ大柄な男が、茶色いマントで全身を隠した奴に話しかける。しかし、そいつは特に答えずにいた。
「んじゃ、やっちゃいますか。こちとら仲間がいきなりガキにやられてイラついてんでだ。お前ら全員奴隷商に売り飛ばしてやる」
「やってみろ」
ミラージュが素早く大柄な男の懐に入ると、そのまま蹴りを入れた。
「ぐぉ!?」
物凄い勢いで大柄な男を店の外へと吹っ飛ばした。
「私はあいつらをやる。二人はそっちのマントを」
「オーケー」
ミラージュが大柄の男の方へと向かって行った。
「……舐められたものだな、ええ、はい」
ボソリと呟くと、茶色いマントの男は手をこちらに差し出して来る。
瞬時に魔法陣を出していた。
それが、四重に重なっている。
──やばいっ! デカい魔術が、来るっ!!
「ポアラ!! 最上級──」
『ニフルヘイム•ドミニオン』
こちらが言うよりも早く、向こうが氷の最上級魔術を唱えてしまう。
狭い故買屋が一瞬にして氷の世界へと移り変わってしまった。
「せ、先、生、この魔、術は……!?」
氷の世界になったこの場所で、ポアラは身体を震わせながら口を動かしている。
「領域支配系の魔術だ。指定した空間の環境や天候、法則そのものを自らの属性で上書きし、支配する最上級魔術だ」
「な、なんです、か、その、チ、ートみたいな、魔術……」
「ふふふ……あーっはっはっ!」
茶色いマントの男は高笑いを上げた。
「学院じゃこんな高度な魔術、教わらなかっただろう。校外授業だ、ポアラ。その命と引き換えにワシの魔術を叩きこんでやる」
勝ちを確信したのか、茶色マントの男が、自分のフードを脱いで顔を晒してくる。
──!?
俺とポアラは目を見開いた。
「「ウォルザ先生!?」」
茶色マントの正体は、最近魔術学院の講師になった初老の男、ウォルザであった。




