世界を救った魔術師、剣で戦う
「ポアラよ、こんなところに来なければ、お前はリッタをも超える魔術師になれていただろうに。学院一の秀才、高嶺の花の魔術師の末路が、こんな薄汚れた故買屋で、氷漬けの粉々になって終わりだなんて、なんとも残酷で皮肉な末路よのぉ」
氷の世界を創り出した主が、ぺちゃくちゃと勝った気で語り出す。
この世界では氷の魔術の耐性がない奴から氷漬けになっちまう。時間が経てば経つほど、有利なのは向こうの方だ。
その点を考えると、ポアラは氷の魔術を得意とし、耐性がある。時間に少しだけ余裕があるだろう。
俺の方も、子供になっちまっているが、ポアラの胸の中にいる温かさで、まだ大丈夫だ。
「ポアラ。領域支配系の魔術は発動している間、術者は他の魔術を出すことはできない。どれだけ優秀な魔術師であってもだ。だから向こうは、俺たちが弱ったところを接近戦で襲って来るだろう」
「そ、それ、なら、わた、しが戦い、ます」
「待て。強力な魔術にも必ず弱点がある。領域支配系も例外じゃない。この世界を造ったコアがあるはずだ。それを壊せば良い」
領域支配の魔術は術者の強さに比例し、相手の魔法や魔術を抑えることができる。
ウォルザは優秀な魔術師ではあるかもしれないが、領域支配の魔術は得意じゃないと見た。子供の俺でも魔術を練り上げることができる。この世界でならポアラも魔術を出せるだろう。
しかし妙だ。なぜ得意でもない魔術を使った……?
いや、今は深く考えている余裕はない、か。
「接近戦をしながら俺はコアを探る。見つけたらポアラへ知らせるから、火の上級魔術をぶっ放してくれ」
「わ、わかり、ました」
「ぶっ放したら、すぐに防御魔術だぞ」
「は、い」
「よし。合図を出した時、『フロスト・ソード』を唱えてくれ」
「は、は、ぃ」
いくら氷の耐性があっても彼女はまだ学生。寒いのは当然、か。この世界で凍らないだけでも十分に凄い魔術師だよ。すまないポアラ。ちょっとだけ辛抱してくれ。
「ウォルザ先生、あんたはノアを利用した。ってことで間違いないな?」
震えるポアラの胸の中、俺はウォルザに向かって問いだす。
彼は俺の方を見て不審な目を向けた。
しかし、そんな目をしながらも、こちらの質問に答えてくれる。
「冥土の土産に教えてやろう、編入生のリッタよ。答えるならば、そうだ。という答え方になる、ええ、はい」
時間をかければかけるほどにあちらが有利になるため、えらい遠回しな言い方をし、簡単に真実を教えてくれる。
「ノアは金に困っていた。銅像の杖を売れば金になると教えてやれば簡単に手伝ってくれた」
「ノアに……魔術学院の生徒に、なにか恨みがあったのか?」
「わしが? ノアに? あはは! 彼にはなんの恨みもない。無論、生徒にもな。当然だろ? まだ学院に入って少ししか経っていないのに、恨みだなんてあるはずもない」
「わからないな。だったら、なんでわざわざ銅像に落書きなんて目立つ真似したんだ?」
「? どうしてわしが落書きをしたことになる?」
「さっき俺と一緒に掃除をしていた時、言ったよな。『まったく、リッタ様の銅像にこのような汚い言葉を使いよって』って。俺にはあれが文字には見えなかった。ノアも『変な絵しか描いてない』と言っていた。だから落書きしたのはあんただ」
指摘してやると、一拍空けて、「あーっはっはっはっ」と高笑いをしてきやがる。
「なんという鋭い子だ、編入生のリッタよ。その通り。あれはわしが書いた落書きだ」
「どうしてあんな目立つ真似したんだ。わざわざあんな真似をする理由が見当たらない」
「ふっ。わしからリッタ様へのメッセージだ」
「メッセージ?」
「くくっ。その真相を、同じ名前なだけのガキに教える義理までは、ない!」
──来るっ。
ウォルザがマントの懐よりナイフを取り出すと、そのままこちらへと襲いかかってくる。
「ポアラ!!」
俺はポアラから抜け出し、彼女の名前を叫ぶ。
『フロスト・ソード』
震えながらも、唱えてくれた魔術。
それは氷の剣を創造する魔術。
氷の世界で震えながらも、創ってくれたその剣は、小さい。
──が、子供の俺には丁度良い。
「ナイスタイミング」
キンッ!
ウォルザのナイフとポアラが創ってくれた氷の剣が交差すると、甲高い音を立てた。
「ほう。やるではないか」
「そ、そりゃ、ど、うも!!」
相手は初老の魔術師。持っているのはナイフ。力はそこまで強くなく、子供の俺でも押し返すことができる。
「りゃ!!」
一振り。二振り──。
剣を振る感覚……子供の頃、クロードと共に剣を鍛えた感覚が蘇り、剣を振る度にそのスピードは上がっていく。
「ぐぬっ!!」
剣をかじっていた分、こちらの方が有利。反撃する力が足りないが、時間をかければ間違いなく、俺が勝つ。
「はひぃ、はひぃ」
だが時間をかけることはできない。
ポアラから出た瞬間から、耐えられないほどの強烈な寒さが襲いかかっている。子供の耐性だからな。こりゃ時間をかけてられないぞ。
「くくく……リッタよ、お前は魔術より剣の方が、才能があったのではないか?」
「うっせぇよ、老害っ!」
更に剣を振り続ける。
「ふはは! 良いぞ、踊れ! 踊れ!!」
泥試合でも、向こうさんはあくまでもタイムアップ狙い。俺の様子を見て、遊ぶようにナイフを振り回していやがる。
くそっ。段々と体力がなくなってきやがった。
フラッとなりながら、明後日の方向を斬りつけようとしてしまう。
そこには氷のつららが出来ており、無駄にそのつららへ斬りつけ──。
「クソガキ。こっちだ、ほれほれ」
……わざわざ、つららを守るように間に入って来やがった。
もし、俺が、『ニフルヘイム•ドミニオン』の弱点なんて知らなければスルーするような奇行。
ウォルザ。お前の敗因はその実力不足な領域支配と、油断だ。
「ポアラ!! つららだ!! そこにこの世界を造ったコアがあるっ!!」
ウォルザのつららの中から一瞬の輝きが見えた。その光は俺たちを勝利へ導くための道標。
「はいっ」
ポアラは震える身体をなんとか振り絞って、その場で踊り出した。
あ、そっか。この子、高度な魔術を唱える時、踊りながら覚えているんだったな。
「いや、リッタに踊れとは言ったが、ポアラには言って、ないぞっ!!」
悟られたと思ったウォルザはポアラの方へ駆け出した。
キンッ!!
俺も震える身体でポアラを守る。
「ウォルザ、せ、んせい、も、踊ろーぜ」
「このクソガキがっ──」
「今、お前を倒せるからドーパミン出まくりだ。まさにドパガキ」
「ふざけるな……」
「ヘイ、ヨー」
ポアラが寒さに耐え、踊り狂う。そんな彼女の前に三重の魔法陣が出て来る。
『ヴァルカン•イグニッション』
「ふざけるなあああ!! ドパガキどもおおおおおお!!」
ドパアアアアア!!
氷の世界にて、火の上級魔術をぶつけた時、水蒸気爆発が起こり、この世界は元の故買屋へと戻った。
いや、大爆発して店が吹き飛んだから、元には戻ってないか。




