世界を救った魔術師、ダンジョンへ行く
王都のギルドを出て、俺とポアラはライアンの向かったダンジョンへとやって来た。
魔族共が造ったとされるダンジョンは、魔王が倒された今も健在している。
だが、このダンジョンは昔に勇者パーティ《俺たち》で攻略済みのはずだ。
「あの、先生。ライアン卿の依頼って、もしかすると……?」
「ああ。俺と同じ、パリンドロミスを名乗る奴からの依頼かもな」
そもそもライアンのギルドを通して俺へと依頼してきたんだ。
攻略済みのダンジョンに、基本的には誰も立ち入らない。人気のないところへ依頼と称してライアンを殺る気だ。
「急ごう」
「はい」
スタスタとダンジョンを進んで行くと、ギロリと赤い光がこちらを捉えた。
奥の方からいくつかの赤い光がこちらへと近づいて来る。
「ゴブリン、か」
攻略され、家主のいないダンジョンに棲みついたらしい。絶対に勝てない相手とわかると逃げたり、隠れたりする習性がある。俺たちを見て近づいて来るということは、勝てる自信があるみたいだな。
「舐めやがって」
おうおうおう。わらわら出て来やがる。
ゴブリン如きに舐められてたまるか。
「先生。ここは私に任せてください」
「……頼む」
悔しいが、今の俺じゃ足手まとい。ここはポアラに任せよう。
彼女は手を前に出すと二重の魔法陣が浮かび上がって来る。
中級魔術を使う気か。
「『グレイシャル・ランサー』」
魔法陣から、氷の槍が大量に真っ直ぐとゴブリンの方へ襲いかかる。
平行に飛んで来る氷の槍は、わらわらと出てきたゴブリンたちを容赦なく貫いていく。
「流石は学院一の秀才。その歳で『グレイシャル・ランサー』をその速度で唱えられるとは」
「えへへ」
褒めてやると、いつも通りに嬉しそうな顔を見せる。
「だけど、ここで『グレイシャル・ランサー』なんて強力な魔術なんて使わなくても良い」
グレイシャル・ランサーからなんとか逃れたゴブリンが複数体いる。それらのゴブリンが、まだ勝てると思っているのか、こちらへと突っ込んで来る。
「『フリーズ』」
俺は一番弱い氷の魔術を、地面に向けて唱えた。
「!?」
ゴブリン共の知性は皆無。氷の部分で全員が足を滑らせた。
「『ファイア』」
一番弱い火の魔術を、天井に向けて唱えた。
ファイアが天井に当たると、砕けた瓦礫がゴブリン共に降り注ぎ、奴等はその下敷きとなる。
「ポアラ。弱い魔物に対して強い魔術を使う必要はない。弱い魔物には弱い魔術でも十分通用するし、地形を利用すれば簡単に勝てる。魔力の節約にもなる。相手に適した魔術を使用するべきだ」
「はい。勉強になります」
「──とか、なんとか偉そうに説教垂れてるが、どうやら魔力切れみたい」
へなへなぁと、その場でひざまづいてしまう。子供の身体だと、下級魔術二発でアウト、か。
素早くポアラが俺を抱っこしてくれた。
「大丈夫でちゅよぉ。私が守ってあげまちゅからねぇ」
ダンジョンでも、ばぶみを感じてしまった。
♢
しかし、ポアラの適応力というか、順応力というか。一度教えただけで、ダンジョンの地形を利用した戦い方をもうマスターしている。流石は学院一の秀才だ。
なんて、彼女に抱っこされながら評価するとか、まじでお門違いだよなぁ。
てか、この子、俺を抱っこしたまま戦ってる時点で相当強いよね。
「ふぅ……」
ここまで下級の魔物が大量に出て来ており、俺を抱っこしたままのポアラは額の汗を軽く拭った。
「あ、先生。私の汗、気になりませんか?」
「全然、大丈夫」
むしろ、なんでそんなに甘い匂いがするのか。おっさんがこの匂いを嗅ぐのは、なにかの罪に問われそうだ。
「ポアラ。魔力は大丈夫か?」
良い匂いに包まれながらも、真剣な質問を投げかける。ここはダンジョン内。油断したら死んでしまうからな。
「はい。先程、先生から教わった方法で下級魔術だけを使っていますので、随分と魔力の節約になっています」
「ん。そうか。俺も一応、魔力は回復したみたいだ」
「もう、回復したんですか?」
「ああ。子供の体力と魔力は凄まじいな。上限値は低いが回復がずば抜けてやがる。ま、回復したところで、下級魔術が二発しか撃てないってのは皮肉だけどな」
「魔術が使えないより、全然良いじゃないですか」
「それもそうだな。って、ことで、魔力も回復したし、降ろしてくれ」
「え? だめです。危ないですよ」
「いや、危なくないだろ。魔物も今はいなくなったし」
「そういえば、さっきまで沢山出て来たのに、急にいなくなりましたね」
そんな会話をしていた矢先のことだった。
「シャアアアアアッ‼︎」
まるで爬虫類が威嚇してくるかのような声。しかし、それとは比較にならないほど鋭く、大きな声だ。
「この鳴き声は、まさか……」
聞き覚えはあるが、こんなところにいるはずもない鳴き声に、嫌な予感がし、汗が出て来てしまう。
ズタズタズタと、地鳴りのような音が近付いてくる。
俺の嫌な予感は見事に命中してしまうことになる。
「シャアアアアアッ‼︎」
「ワイバーン!?」




