世界を救った魔術師、ギルドへ行く
「ギルドマスターのライアン卿も先生と幼馴染なんですよね?」
ブレーブ城から王都にあるギルドを目指す道中、ポアラが雑談用の会話を投げかけてくれる。
「ああ。俺たちは幼馴染パーティってわけだ」
「幼馴染で魔王討伐だなんて凄いですよね」
「そうだなぁ……やっぱりクロードの存在が大きいかな。あいつが俺たちを引っ張ってくれてたから。特にライアンなんて、クロードの影響をモロに受けてんぞぉ。子供の頃は気弱なヒョロヒョロで、風が吹いたら飛んで行きそうな程だったもんなぁ」
「あの巨体のライアン卿も、子供の頃はそんな感じだったのですね」
「今でこそ、屈強な戦士って感じだから笑えるだろ? あのライアンが世界を救った褒美に、魔族や魔物の残党を倒すためのギルドを造って欲しい、だなんて、幼馴染の俺からすると、想像できなかったもんなぁ」
仲間の話をしながら王都にあるギルドへとご到着。
「着きましたね、ギルド『スーパーハイパーアルティメット』に」
「……相変わらず名前がダサすぎる」
ギルドの底上げになればという思いで、魔術指導をここでもしているんだけど、このギルドの名前は慣れない。
名前はあれでも王都にあるギルドだから知名度は高く、実力者も多い。
でも、ギルドに所属している女の子は、「ダサすぎてギルドの名前は出さない」とまで言われている始末。それでもライアンはカッコいいと思っているらしいから、これが価値観の違いってやつだ。
名前のことは置いておき、俺とポアラはギルドの受付嬢のところへと向かう。
「こんにちは、王都ギルドへようこそお越しくださいました」
受付嬢も名前を呼ばないんだから、いい加減、名前を変えれば良いのに。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「あの、ギルドマスターであるライアン卿にお会いしたいのですが」
ポアラが用件を言ってくれる。
「アポイントは取ってありますか?」
「いえ」
首を横に振ると、申し訳なさそうな顔をした。
「申し訳ございません。アポイントを取ってないと、面会はできません」
「そんな……」
ライアンのくせに、クロードみたいな待遇なんだな。
いつも簡単に会えるから、そんなことになっているなんて知らなんだ。
まぁ、世界を救った戦士様だ。会って話したい奴は山ほどいるから、そうしないと収集がつかないんだろう。
「先生、どうしましょう」
「困ったな」
ライアンに会えればクロードにも会えると踏んだが、ライアンにも会えないとなるとどうしたものか……。
「困りごと?」
俺たちのところに、聞き慣れた声が聞こえてきた。
その声の方へと顔を向けると、金髪美少女が目の前に立っていた。
「ミラージュ」
ミラージュ・ヴェルセリア。
まだ十代だと言うのに、天才武闘家なんて呼ばれているB級冒険者だ。
だけど魔術の才能はないみたい。魔術指導でガッツリ教えてあげてるんだけどね。
「……」
名前を呼ぶと、彼女はしゃがみ込み、無表情でじーっと見つめてくる。
「私、こんなにレミファンの恰好が似合う男の子、知らない」
「似合いますよね!」
そこでオタクの心に火が点いたのか、弾んだ声を出すポアラ。
「めちゃくちゃ似合っている。尊い」
「似合うとか言うなっ!」
そう言うと、俺の頬をビィィと伸ばしてくる。
「凄い。老師様より、伸びる」
「にゃめんかっ」
パシっと、手を払いのける。
「てか老師って言うなっ。俺は老人じゃない」
「でも初老は40歳から」
「まじ?」
「まじ」
いつもの会話をするとミラージュが、「はっ」となる。
「もしかして老師、様?」
「今の会話でわかるのも、なんか悲しい気がするけど、そうだ。リッタだ」
「その姿、魔術で若返ったの? でも残念。いくら見た目を誤魔化しても私は老師様を老師様と呼ぶ」
「お前の呼び方でこんな姿になるかっ!」
「じゃあ、どうして?」
首を傾げるミラージュにどう説明しようか悩んでいると、ポアラが軽く耳打ちしてくる。
「この方に事情を説明すればライアン卿に会えるのではないですか?」
「それだ。ナイス、ポアラ」
「えへへー」
というわけで、ミラージュへ事情を説明する。
「──そんなことが」
「だから、ライアンに会わないといけないんだ。ミラージュ、なんとかできないか?」
お願いするとミラージュは無表情を少しばかり困らせて答えてくれる。
「ギルドにいるなら会わせてあげられたかもだけど、今、ギルマス、外出中」
「どこに行ったんだ?」
「ダンジョン。一人で向かった。なんか特別な依頼とか言ってた」
「ダンジョン、か」
「私も付いて行ってあげたかったけど、依頼がある」
「いや、そこまで気を使わなくて良い。ありがとうな、ミラージュ」
「今の依頼が終わったら老師様の手伝い、する」
「サンキュ」
ミラージュは名残惜しそうにギルドを出て行った。
さて、どうしたものか。
今の俺一人でダンジョンへ行けばまず間違いなく死ぬだろう。ダンジョンの外で待つということもできるが、いつライアンが戻って来るかわからん。数日間ダンジョンに潜るのであれば、その内にクロードの身が危ない。
しかし、ポアラに連れて行ってもらうのもな……。学生が一人でダンジョンなんて自殺行為だし……。
「行きましょう、ダンジョンへ」
「いや、危な過ぎる。お前は学生だ。ダンジョンなんて、下手すりゃ命に関わる」
「でも、他に方法がありませんよ」
「わかってる。わかっているが……」
城の門で感じた、あの魔力の違和感が頭をよぎる。気のせいならそれでも良いのだが、あまり悠長にしているメリットがない。
だけど、それがポアラを危険に晒していい理由には決してならない。
「先生」
黙り込んだ俺に、ポアラが真っすぐな目を向けてくる。
「私はもう、子供じゃありません。学院一の成績を維持していますし、実戦訓練だって先生が一通り教えてくれたじゃないですか」
「それはそうだが……」
「先生こそ、今は子供の身体で、中級魔術すら出せない状態です。一人で行かせる方が、よっぽど危険です」
その通りだ。反論のしようがない。
これまでずっと、俺が守る側だった。ポアラはただの生徒で、俺が導いてやる存在だ。だが今、状況が逆転している。守られる覚悟を、俺の方が決めなきゃいけないのかもしれない、な。
「……わかった。だが、条件がある」
「条件、ですか?」
「危険だと思ったら、即座に俺の指示に従うこと。それと──」
一拍置いて、続ける。
「絶対に、無理はするな。俺のために死ぬなんて許さないからな」
ポアラは一瞬、驚いたように目を見開いたあと、いつもの柔らかい笑みを浮かべた。
「はい。約束します」
「よし……行くか」




