一族経営
「そうだ! 映画も見れるんだ!」
アルが突然、何かを思い出したように声を上げた。
「見てて」
そう言ってアルがスマホを操作する。
すると、ステージの上から巨大なスクリーンがゆっくりと降りてきた。
同時に、天井を覆っていた水面のような波模様が、すうっと黒く変色していく。
それに合わせるように館内の照明が落ち、辺りは一気に暗くなった。
「アル、よかったら精霊たちと見ないか?」
「うん! みんなで見た方が楽しいし、呼んでくる!」
「大丈夫だよ! 精霊は離れていてもコミュニケーション取れるから」
「なんだよ、それ。俺も使いたい(笑)」
「まずスマホだね。後で作ってあげる。僕と繋がろう?」
「いつもしゃべってるけどな」
そう言っている間にも、あちこちから精霊たちがぞろぞろと集まってきた。
どうやら、ほとんどの精霊が来たようだ。
さっきは泣いた。
だから今度は、みんなで笑って見たかった。
俺たちはコメディ映画を選んだ。
映画が始まると、館内には次々と笑い声が響いていく。
みんなで笑って、時々こっそり涙を拭いて。
そんな時間の中で、一日がゆっくりと終わっていった。
――それから一週間。
あれから変わったことといえば、トイレが水洗になったこと。
お風呂には蛇口がついたこと。
そして、アルに作ってもらったスマホだ。
俺は相変わらず小屋暮らし。
アルは「もっと住みやすい部屋を地下に作る」と言っているけれど、俺はみんなが手作りしてくれた、この小屋が気に入っていた。
そんなある日。
アルからプレゼントがあるらしい。
……うん。
なんとなく心配だ。
「トントン」
「リク! アルだよ!」
扉を開けると、アルが嬉しそうに立っていた。
しかも、何かを体の後ろに隠している。
「就任おめでとう! オーナー!!」
「……はい?」
アルは嬉しそうに笑いながら、隠していたものを取り出した。
それは、仕立てのいいスーツだった。
「これ……俺に?」
「そう! それでね、僕、決めたの!」
「何を?」
「世界中のへんぴな場所に扉を作って、お客様に劇場へ来てもらおうって!」
「待って。ワープが得意なのは知ってるけど……世界って?」
「リクの世界にある使ってないビルとか、扉とか。都会の空き家や田舎の空き家の扉を劇場につなげるの! それも世界中!」
「だから世界って……」
「うん、世界!」
「言葉はどうするんだよ?」
「精霊魔術の言語変換を使うよ!」
アルは当然のように答える。
「どんな言葉でも、聞いた人の母国語に変換されるの。話し声も、文字も、ちゃんと理解できるよ!」
「なんでそんなハチャメチャなんだよ……」
「じゃあ、悪いやつが入ってきたら?」
「ソウルサーチで、悪いやつや、最低限のマナーが守れない人はワープできないようにするよ!」
「……それもできるのか」
「どっちも精霊魔術の秘術だからね。精霊政府からは禁止されてるけど、もう僕、死んだと思われてるから大丈夫!」
「大丈夫じゃないだろ……」
「でも、リクのために使おうって決めたんだー」
「もう、どうなっても知らないぜ……」
俺が呆れていると、アルが少しだけ真剣な顔になる。
「だからリク、お願い。オーナーになってよ」
「なんで俺なんだよ」
「芸術を愛するリクにしかできないから」
「……」
「だめ?」
「う~ん……」
このショタめ。
俺はしばらく悩んでから、諦めたように息を吐いた。
「分かったよ。オーナーが何するのか、よく分からないけど」
「やった!」
アルが嬉しそうに笑う。
「大丈夫! ふんぞり返って、たまにオーナーにしかできない対応をしてくれたらいいよ!」
「それでいいのかよ……」
「あと、劇場は無料にするって決めたの!」
「無料?」
「うん! その代わり、レストランとバーを経営するの。僕たち一族で働くって決めたの!」
「……なるほど」
「いつからやる?」
「今日!」
「はあ!?」
「だから着替えて!」
アルはそう言って、スーツを俺に渡してきた。
「僕が精霊魔術で作ったの!」
「……もう分かったよ」
数分後。
着替え終わった俺を見るなり、アルが満足そうに頷いた。
「やっぱり似合うよ! オーナー!」
「……分かった。行くぞ」
俺たちは家の裏へ回り、ワープの扉をくぐった。
次の瞬間――。
到着したのは、劇場ではなかった。
そこに広がっていたのは、想像していたよりもずっと広いフロントだった。
「……いつの間に」
俺は呆然と周囲を見渡す。
立派な受付。
広々とした空間。
そして、何人もの精霊たちが忙しそうに動き回っている。
「……ショタたちでフロント、大丈夫かな」
その瞬間。
ぞくっ。
背筋に妙な感覚が走った。
俺が振り向く。
そこにいたのは――
人間サイズのピエロ人形だった。
「……え?」
ピエロ人形がこちらに気づくと、楽しそうに手を振った。
「僕も接客してるよー!」
「いつの間に!?」
俺が驚いていると、その隣からアルの声がした。
「リクー!」
「……アル?」
振り返る。
そこには、いつの間にかピエロの姿に変身しているアルがいた。
「おい、なんだよ! なんで変身してるんだ!?」
アルは自分の姿を見下ろし、楽しそうに笑った。
「この場所のコンセプトだからね!」
「コンセプト?」
「ワープする扉にもピエロの絵を書いちゃった!」
「……もうアルがピエロ好きなんじゃない?」
「ふふふ」
「はあ……」
こうして、俺の知らないところで進んでいた劇場計画は、いよいよ本格的に始まったのだった。




