正体
「つ……作ったの?」
「え?」
アルは、ぱっと顔を輝かせた。
「作ったの!」
満面の笑みで、褒めてもらえるのを待っている。
俺はそんなアルを見ながら、ふと天井を見上げた。
そこには、水面が揺れるたびに光が反射するような、淡い煌めきが広がっていた。
「……ちょっ、お前、まさか……ここ、湖の下なんじゃ……」
俺の反応を見た瞬間、アルの顔が少し曇った。
「アル……ちゃんと説明してくれよ」
「……うん」
「お前、一人でこれを作ったのか?」
「そうだよ……」
「別に責めてるわけじゃねえから。ちゃんと教えてくれよ」
アルは少し迷ったあと、ゆっくり口を開いた。
「ほんとはね……リクが、もっと文明が遅れてる時代の人だと思ってたんだ」
「……俺が?」
「うん。だから言えなかったんだ。釘とかガラスとか、どうやって調達してるのかって聞かれたら困るから……」
アルは苦笑した。
「でも、あれは僕たちの魔法で作ったんだ。そもそも……街なんてないんだよ」
「……街が、ない?」
「うん。精霊の世界は、次元が少しずれてるんだ。僕たちの世界は人間の世界から見える。でも、現実世界とは直接交わらない」
「じゃあ、この世界は……」
「人間たちのアイデアや理論を応用して、精霊たちが発展させてきたものなんだ。それが精霊魔術になって……今の精霊界がある」
アルは胸に手を当てた。
「そして、その精霊魔術の秘密をずっと守ってきたのが、パイオニアでもある光の精霊……僕と、僕の仲間たちなんだ」
「……じゃあ、なんで木の家を建てたり、木の上で寝たりしてんだよ」
俺が尋ねると、アルは少し恥ずかしそうに笑った。
「君が、高度なものを見たら怖がると思ったんだ。だから、できるだけエネルギーを使ってないような世界に暮らしてるって思ってもらおうって……」
「……なるほどな」
「でも、リクの世界が思っていたより発展してるって分かったから、もう見せても大丈夫かなって。頑張って精霊魔術で作ったんだけど……」
アルは申し訳なさそうに俺を見る。
「びっくりさせちゃったよね」
「はあ……」
俺は大きく息を吐いた。
「アルって……すげえ精霊だったんだな」
「……え?」
「ほんと、すげえよ」
「……ううん」
アルは静かに首を振った。
「リクのおかげなんだよ」
「俺の?」
「僕はね……受肉した精霊と組んでいる、現実世界の魔術師たちによって、一族の転覆を図ったとして封印されてたんだ」
「……」
「あと一年もしたら、僕は消える運命だった」
アルの声が、少しだけ震えた。
「でも、ひかりの魂……ソウルメイトの魂に惹かれ合って、リクがこの世界に来ることができた」
「俺が……?」
「うん。それはソウルメイトと、光の一族の守護があったからなんだ。そして、リクが僕の封印を解いてくれた」
アルは俺をまっすぐ見つめた。
「僕たちが惹かれ合うことは、ずっと分かってた。受肉してでも……僕たちの一族は、君と繋がりたかったんだ」
「……アル」
「君を助けたいんだよ」
アルは優しく微笑んだ。
「でも、リクの中には絶望と憎しみがある。それが僕の精霊魔術を拒んでるんだ」
「……」
「光の大元からエネルギーを送れば、君は失った以上の寿命を手に入れられる」
アルは少しだけ近づいた。
「僕は……キミと一緒の時間を過ごしたいんだよ」
「ごめん、アル……」
俺は俯いた。
「でも……俺は、まだ憎しみが消えないんだ。怖いんだよ」
「うん」
アルは否定しなかった。
「時間はまだあるよ」
そして、静かに笑った。
「一緒に見つけていこう。リクが怖くなくなる場所を」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が崩れた。
俺は泣いた。
ずっと、自分は一人なんだと思っていた。
どこにも居場所なんてなくて、誰にも理解されないと思っていた。
でも違った。
すぐ近くにいた。
魂で繋がった仲間が。
俺は声を押し殺しながら、ただ泣き続けた。




