↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
5/32

始まり

一週間が経った。


気づけば俺の生活は、驚くほど快適になっていた。


食べ物は、精霊たちが競い合うように魚やフルーツを持ってきてくれる。


「リク! 今日は僕が見つけた魚!」


「いやいや、こっちの果物のほうが絶対おいしいよ!」


……毎日こんな調子だ。


三日目にはトイレまでできた。


そして六日目には、素焼きの風呂まで完成した。


精霊に頼めば、いつでもお湯を入れてくれる。


「……おい」


風呂にお湯を注いでいる精霊を見ながら、俺は首を傾げた。


「お前、光の精霊じゃなかったのか?」


「そうだよ?」


「じゃあ、なんでお湯出せるんだよ。君、ほとんどポットじゃん」


「ぽっと?」


「いや、なんでもない……」


こいつら、何でもありすぎるだろ。


薄々気づいてはいた。


ここは――どう考えても異世界だ。


魚には目が三つある。


鳥には目が四つある。


夜になると空に虹が出る。


果物も見たことのない形ばかり。


もう、めちゃくちゃだ。


……まあ、それは一旦置いておこう。


俺は安全なショタコンなのだ。


そう自分に言い聞かせている。


アルや精霊たちは、遠慮というものを知らない。


気づけば懐に入ってくるし、肩に乗ってくるし、隣に座ってくる。


フィルターを全部外して素直に見れば――


「……かわいいんだよな」


そんなことを考えていると、今日もアルが家に遊びに来た。


「アル、また来たのか。友達と遊べよ」


「僕は王だよ?」


「あ……そうだった」


「ほかの精霊は、僕とは遊んでくれないんだよ」


「なんで?」


「王だから」


「意味わかんねえ……」


アルは頬を膨らませる。


「それに僕、リクのこと気に入ってるんだ」


「……そうだったな」


俺は苦笑する。


「ふっ……そうか。かわいいやつ」


「えへへ」


アルは嬉しそうに笑った。


「ねえ、リクはしたいことない?」


「したいこと?」


少し考えてから、俺は即答した。


「ある。決まってるだろ」


「なに?」


「俺を湖の外に出してくれよ」


「……え?」


「近くに街があるんだろ?」


俺は家の中にある物を指差した。


「釘とか窓ガラスとか、街から仕入れてきてただろ?」


「う、うん……あるけど」


アルの表情が少し曇る。


「街に行って、何したいの?」


「テレビが見たい」


「テレビ?」


「それにクラシックも聴きたい。音楽とか、あるのかな」


「えっ……テレビ?」


アルが目を丸くする。


「……テレビあるの?」


「あるだろ」


「もしかして、車も電車もある?」


「当たり前だろ」


「映画も?」


「あるに決まってる」


「……」


俺はアルを見つめた。


「お前こそ、よく知ってるな。精霊なのに」


「…………」


急にアルが黙り込んだ。


「クラシック、聞きたい?」


「ああ」


「聞けたら嬉しい?」


「まあな」


俺は空を見上げる。


「できれば生演奏のクラシックを聴きたいなあ」


……まあ、異世界なんだから期待しても無駄だろうけど。


そう思った、その瞬間。


ガタッ!


アルが突然立ち上がった。


「……何だよ、急に」


「僕、用事!」


「は?」


「帰るね!」


「なんだよ急に……」


アルはそのまま走っていってしまった。


「……変なやつ」


俺は首を傾げた。


――数日後。


「リーク! おはよう!」


朝からアルが勢いよく家に飛び込んできた。


「何だよ。最近見ねえと思ったら……」


「今日はプレゼントがあるんだ!」


「プレゼント?」


俺は眉をひそめる。


「今日、誕生日じゃないぞ?」


「いいの!」


「いいのって……」


アルに腕を引かれ、家の裏へ連れていかれる。


そして、俺は立ち止まった。


「…………」


そこには――


まるで異次元そのものを無理やりこじ開けたような、巨大な黒い穴が開いていた。


「……これがプレゼント?」


「違うよ!」


「いや、どう見ても嫌な予感しかしないんだけど」


俺は一歩後ずさる。


「この前みたいに、これに入りたくないんだけど……」


「だめ」


アルが俺の服を掴む。


「準備したんだから……」


その声は、いつもの明るさとは違っていた。


アルは悲しそうにうつむき、地面を見つめている。


「…………」


俺はため息をついた。


「……もう分かったよ」


仕方なく穴へ向かう。


「入ればいいんだろ」


一歩、踏み入れた瞬間――


視界が反転した。


身体がふわりと浮き、次の瞬間には別の場所に立っていた。


「…………」


俺はゆっくり顔を上げる。


そこに広がっていたのは――


朱色の絨毯。


ずらりと並んだ大量の客席。


左右に広がるバルコニー席。


そして、正面には巨大な舞台。


さらに奥には、明らかに特別席と分かるVIP席まである。


「…………え?」


俺はしばらく固まった。


そして、ようやく口から言葉が出る。


「これ……」


見覚えのある光景。


いや、似ているどころじゃない。


「音楽ホール……じゃないか」


しかも――


「……これ、最大キャパのホールじゃん」


俺は呆然と舞台を見つめる。


「お、お前……これ……」


ゆっくりとアルへ振り返る。


「なんなの……?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。