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ついに

俺の体調は、二日もすればすっかりよくなっていた。


朝食を終えた俺は、運営部にいるアルのところへ向かった。


「アル? ちょっといい?」


「ん? どうしたの?」


「今ある貯金のピエロを、日本円でもらえる?」


「できるよ! 百万円ぐらいでいい?」


「ばっか、そんなにいらないよ!」


俺は思わず笑ってしまう。


「五万円ぐらいでいいよ」


「お金を持って、どこに行くの?」


「ああ、ピリカと博多に行くんだ。この前は体調悪くて行けなかったし」


「ピリカとか……」


アルが少し意外そうな顔をする。


「アル、ピリカ知ってるの?」


「当たり前だよ!」


アルは胸を張った。


「従業員は、ほとんど覚えてるよ!」


「へえ……」


さすが王というべきか。


アルは机の引き出しから日本円を取り出し、俺に手渡した。


「はい、五万円」


「ありがとう。じゃあ、行ってきます!」


俺が踵を返そうとした、その時だった。


「僕も行く」


「……え?」


俺は振り返った。


「僕も博多に行くよ」


「いや、ピリカに聞いてみないと……」


「僕は王だよ」


アルは当然のように言った。


「行く」


「……」


俺はアルを見つめる。


「もう、わかったよ……」


アルは言い出したら聞かないのだ。


俺は諦めて、ピリカのところへ向かった。



「ピリカ、お待たせ!」


フロントに着くと、ピリカがこちらを振り向いた。


「あれ?」


ピリカは俺の隣にいるアルを見る。


「王も一緒にいるの?」


アルは少し申し訳なさそうに笑った。


「ピリカ、すまないな。今日は一緒に行こう」


「もちろん!」


ピリカはすぐに笑顔になった。


「王も一緒に行こう!」


「よかった」


アルがほっとしたように笑う。


俺は二人を見ながら、少しだけ苦笑した。


こうして俺たちは――


三人で博多へ向かうことになった。



ワープを抜けると、そこには大きな街が広がっていた。


博多の街は、俺が思っていたよりもずっと大都会だった。


大きな建物が立ち並び、道路にはたくさんの車が走っている。


行き交う人々の姿を眺めながら、俺は思わず辺りを見回した。


「すげえな……」


その隣では、ピリカが目を輝かせていた。


「リク! 王! こっちに面白そうな店があるんだ! ついてきて!」


「あっ、おいピリカ!」


ピリカは楽しそうに走っていく。


するとアルまで張り合うように声を上げた。


「リク! こっちのほうにも面白そうなのがあるよ!」


「え?」


アルは俺の手を引っ張る。


「ちょ、アル!」


博多の街を知っているわけでもないはずなのに、アルは自信満々にどんどん先へ進んでいく。


「ちょ、二人ともどこ行くの!」


遠くからピリカの声が聞こえる。


「迷子になっちゃうよ!」


「おい、アルってば!」


俺が呼び止めようとした、その時だった。


アルがふと立ち止まる。


「あれ……?」


「どうした?」


「ピリカがいない」


「……」


俺は思わず頭を抱えた。


「迷ったのかな?」


「アル……」


俺はため息をついた。


「アルと俺が迷子になってんだよ!」


「……あ」


アルがきょとんとした顔をする。


俺たちはとりあえず大通りに戻ろうと歩き始めた。


しかし――


「……あれ?」


歩けば歩くほど、道は細くなっていった。


いつの間にか、賑やかな大通りから離れ、暗い路地裏へと入り込んでしまっていた。


「おい……ここ、どこだ?」


俺は辺りを見回す。


人通りも少ない。


「リク、迷っちゃったね……」


「誰のせいだと思ってんだよ……」


俺がスマホを取り出すと、画面にはピリカからのメールが何件も届いていた。


『リク、どこー!?』


『王も一緒なの?』


『二人とも迷子になってない!?』


「……めちゃくちゃ心配されてる」


俺は苦笑した。


「大丈夫だよ。ゴーグルマップで位置情報送っておくから」


そう言って、ピリカに現在地を送る。


すると、その時だった。


ふわっ……。


路地裏に、なんともいい匂いが漂ってきた。


「……ん?」


鼻をくすぐる香ばしい匂い。


「これ……」


アルも匂いに気づいたようだ。


「豚骨ラーメンの匂いだ!」


匂いのする方向を見る。


そこには、小さな明かりに照らされた屋台があった。


「こんなところに屋台が……」


「リク」


アルが俺を見る。


「腹減ったな。食ってくか?」


「……うん!」


俺はピリカにメールを送る。


『美味そうな豚骨ラーメン屋発見。一緒に食べよう!』


そうして俺たちは屋台のイスに腰を下ろした。


「いらっしゃい!」


店主が明るく声をかけてくる。


「今の時間にお客さんとは珍しいね」


「豚骨ラーメン二つちょうだい!」


アルが元気よく注文する。


「あと一人来るけど、いい?」


「もちろん大丈夫ですよ!」


店主は笑った。


「今の時間は、ほとんどお客さん来ませんから」


「よかった」


俺が一息ついた、その時だった。


ふと隣を見る。


アルが、店主の顔をじっと見つめている。


「……?」


店主もアルの視線に気づいたらしい。


「んっ?」


少し困ったように首を傾げる。


「お客さん……あっしの顔になにかついてますか?」


「い、いや……」


アルは慌てて目を逸らした。


「なんでもない」


そして――


「はい! ラーメンお待ち!」


店主が、湯気の立つ丼を俺たちの前に置いた。


「おお……!」


目の前に現れたラーメンは、昔ながらの濃厚な豚骨ラーメンだった。


湯気と一緒に、豚骨特有の強い香りが立ち上っている。


「うまそう!」


俺は思わず顔を近づけた。


「これぞ本場のラーメンって感じだな!」


箸を手に取り、麺を持ち上げる。


そして――


ずずっ。


一口すすった瞬間、濃厚な豚骨の旨味とほどよい塩味が口いっぱいに広がった。


そこに、歯ごたえのある細麺が絡む。


「うっまい!」


思わず声が出た。


隣を見ると、アルも夢中になってラーメンをすすっている。


「おいしい!」


俺もアルも、次々と麺をすすっていく。


「ははは、お客さん。替え玉もあるから、ゆっくり食べな」


「替え玉?」


アルが顔を上げる。


「替え玉とはなんだ?」


「麺のおかわりのことですよ」


店主が笑う。


「余ったスープに、もう一度麺を追加するんです」


「そんなものがあるのか!」


アルの目が輝く。


「いいな!」


「お前、どんだけ食うんだよ……」


そんな話をしていると――


「リクー! 王ー!」


聞き覚えのある声が路地裏に響いた。


振り返ると、ピリカがこちらへ走ってくる。


「勝手にウロウロしちゃだめじゃないか!」


「すまない」


「ごめんね、ピリカ」


ピリカは息を整えながら、俺たちを見る。


「無事に合流できてよかったよ」


そして――


「ん?」


ピリカの視線が俺たちの前にあるラーメンへ向いた。


「めっちゃ美味そうなラーメン!」


「ピリカも食うか?」


「僕にもちょうだい!」


「はいよ!」


店主が新しいラーメンを作ってくれる。


ピリカは目を輝かせながら、さっそく箸を取った。


「いただきます!」


ずずっ。


「……!」


ピリカの目がさらに大きくなる。


「おいしい!」


そして嬉しそうに麺をすすっていく。


「こんなところに、こんな美味しいラーメンがあったとは!」


「だろ?」


俺たちはそのまま、絶品の豚骨ラーメンを楽しんだ。


やがて食べ終わると、店主が笑顔で声をかけてくる。


「ありがとうございました。じゃあ、二千八百円ね」


アルが財布を取り出し、代金を支払う。


「ごちそうさま!」


「ごちそうさまでした!」


俺たちは席を立った。


その時だった。


ふと見ると、アルがまた店主の顔をじっと見つめている。


「……」


どうやら、やはり気になるらしい。


そしてアルが、突然口を開いた。


「お前……風の精霊か?」


店主の動きが止まった。


「……おやあ」


店主は目を細める。


「見抜けるとは……」


「やっぱりそうか」


「アル?」


俺が尋ねる。


「風の精霊って?」


アルが説明する。


「精霊界にいる一族の一つさ。僕たちが技術を扱う一族なら、彼らは情報を扱う一族なんだ」


「ほう……よくご存じで」


店主は苦笑した。


「ですが、もう私は情報屋を引退した身。ただのしがないラーメン屋のオヤジですよ」


そう言いながら、店主は俺たちを眺める。


そして、ふとアルとピリカの髪を見る。


「それにしても、その髪色……お二人は光の一族でしょう?」


「……」


「それに、この強い気配……」


店主の視線がアルへ向く。


「アルという名……あなたは、まさか……」


俺は思わず、びくっと身体を揺らした。


「ははは」


店主が笑う。


「そこの黒髪のお兄さんの反応で、わかってしまいましたよ」


「……」


「まさか、本当に生きていらっしゃったとは」


店主の表情が、少しだけ真剣になる。


「最近話題のピエロランドという施設。そして、光の王が生きて運営しているという情報も流れてきていますからね」


「……!」


また俺の身体が、びくっと跳ねた。


「ははっ。素直でわかりやすいお兄さんですな」


「はあ……リク」


アルが呆れたように俺を見る。


「さすが、風の一族の情報は早いな」


「ええ」


店主は少し声を落とした。


「精霊政府は、まだ気づいていませんが……一部の陰謀論者たちは、すでにあなたを探し回っていますよ」


「……」


「派手にやりすぎると、目をつけられますよ」


アルは少し考えたあと、頷いた。


「一応、覚えておくよ」


「王、行こう!」


ピリカが声をかける。


アルも頷いた。


「リク、ピリカ、行くよ!」


「ごちそうさま!」


「ごちそうさまでした!」


俺たちは店主に別れを告げ、屋台をあとにした。



それから俺たちは、博多の街を歩き回った。


大きな通りを歩き、店を眺め、気になったものがあれば買い物をする。


川沿いまで歩いて、三人で並んで水面を眺めた。


そして、お腹が空けば――


「また屋台行こうぜ!」


「賛成!」


「僕も!」


美味しいものを探して、また街を歩く。


途中、少しばかり一悶着もあった。


けれど――


俺たちは一日かけて、博多の街を思いっきり楽しんだのだった。

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