↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/32

ほんとの

運営部。


アルは自分の机に座り、パソコンの画面を眺めながら作業をしていた。


カタカタとキーボードを叩く音が、静かな室内に響いている。


そこへ――


ツカツカツカッ。


メレブが険しい表情で、まっすぐアルのもとへ歩いていく。


「王!!」


突然、メレブが声を上げた。


周囲の精霊たちが一斉に顔を上げる。


「オーナーに何をしたんです!」


アルはキーボードを打つ手を止め、ゆっくりとメレブを見る。


「……何を言っている? 僕はリクになにもしていない」


「オーナーは倒れられて、医務室で休んでいます!」


「なに……?」


アルの表情が変わった。


「リクが……?」


「王のせいですよ!!」


メレブは一歩も引かなかった。


「僕はリクに治療をしただけだ。僕は早くリクのところに行かなくちゃ」


アルが立ち上がろうとすると、メレブがその前に立ちはだかる。


「王! あなたが、ちゃんとした説明もなく『魂を重ねる儀式』をしたことは、オーナーのお話でもうわかっています!」


「……」


「王が嘘をついて魔力を引き出したせいで、オーナーは倒れられているんですよ!」


運営部の空気が、一気に張り詰めた。


アルはしばらく黙ってメレブを見つめていた。


「メレブ」


低い声だった。


「僕に指図するのか?」


メレブの身体が、わずかに強張る。


「僕が『治療』と言ったら、治療なんだ」


アルの声には、王としての圧が込められていた。


「アル様……」


誰かが小さく呟く。


「しかしっ!」


メレブがなおも言い返そうとした、その時だった。


「メレブは悪くない!」


突然、別の精霊が声を上げた。


アルがそちらを見る。


どうやら周囲の精霊たちは、ずっと聞き耳を立てていたらしい。


「王、ちゃんとリクに説明したんですか?」


「自分勝手じゃないですか!」


「リクは倒れてるんですよ!」


「王、あなたはオーナーを……リクを、どうするつもりなんですか?」


次々と声が上がる。


さっきまで静かだった運営部は、いつの間にか騒然としていた。


アルは何も言わず、精霊たちを見回す。


その視線に一瞬ひるみながらも、精霊たちは引かなかった。


メレブも、静かに口を開いた。


「我々は……リクに寿命を返し、そして守っていくために動いているのではないのですか?」


その言葉に、アルは黙り込む。


メレブはそれ以上何も言わず、自分の席へ戻っていった。


「……」


アルはしばらくその背中を見つめていた。


そして、小さく息を吐く。


「……わかったよ」


アルは椅子に座り直しながら、ぼそりと呟いた。


「ちゃんとリクと話せばいいんでしょ……」


しかし――


一度火がついてしまった精霊たちを落ち着かせるのは、そう簡単なことではなかった。


「王、まだ説明が足りません!」


「そうですよ!」


「リクに何をしたのか、最初から全部説明してください!」


「……」


アルは額に手を当てた。


「……もう。みんなして……」


運営部には、しばらくの間、精霊たちの声が響き続けていた。



その頃――。


俺はログハウスに戻り、ベッドに横になっていた。


医務室から、魔力を回復させる栄養剤のようなものをもらっている。


小さな瓶を手に取り、ラベルを眺める。


「ふーん……こんなのもあるのか」


蓋を開け、一口飲む。


「ごくっ……」


「……うぇ」


思わず顔をしかめた。


「まずっ……もういらね」


俺は瓶をテーブルに置いた。


そのとき――


――トントン。


扉が軽く叩かれる。


「ぼくだよ……」


聞き慣れた声だった。


「入れよ」


扉が開く。


入ってきたアルは、どこか疲れた顔をしていた。


「あ、アル。どうしたんだ、その顔?」


「え?」


アルは一瞬だけ固まった。


先ほど運営部で精霊たちからこってり絞られたことを、リクには言えない。


「……うん。大丈夫だよ」


そう言って、アルは笑った。


けれど、その笑顔には少し無理があるように見えた。


「リク……僕、話があるんだ」


「ん?」


俺は身体を起こした。


「昨日のあれ……治療じゃなかったんだな」


「……」


アルが黙り込む。


「寂しかったんなら、抱きしめてやるのに」


「ちが……」


アルが慌てて口を開く。


「それに、ああいうのは本当に大切な人ができたときにするもんだぜ?」


「ちがう……僕は……」


アルは俯いた。


「僕は、リクのことが……」


そこまで言って、言葉が小さく消えていく。


「ん? 何だって?」


「……ううん」


アルは顔を上げた。


「僕は、リクの弟でしょ?」


「……まあ、そうだな」


「だから……お兄ちゃんのことが好きだから、もっと近くで感じたかったんだ」


アルは笑った。


けれど、その笑顔の奥には、言葉にできない想いが隠れていた。


「かわいい弟だな」


俺はアルの頭を軽く撫でる。


「いつでも甘えたっていいのに」


「……うん」


「でも、治療だって嘘をついちゃいけないだろ?」


「……ごめん」


アルは小さく頷いた。


「でもっ!」


突然、アルが顔を上げる。


「リクに魔力を流すこと自体は、本当に治療なんだ!」


「そうなのか?」


「うん。でも……僕もリクを感じたくて、魔力を取っちゃったんだ」


アルは申し訳なさそうに目を伏せる。


「ごめん……。リクが人間だから、そんなに魔力が少ないとは思わなくて……」


俺は少し考えてから、笑った。


「大丈夫だよ。アルは知らなかったんだろ?」


「……リク」


「わかってるって」


アルの表情が、ほんの少しだけ緩んだ。


「もう魂の重なりはしないね……」


「まあ、たまにならいいぜ」


「……え?」


「ちゃんと治療だって説明してくれるならな。俺も、少し楽になったし」


「本当に……?」


「ああ」


俺はアルに笑いかけた。


「兄弟なんだから、たまにはこういう触れ合いがあってもいいだろ」


「……ありがとう」


アルは嬉しそうに笑った。


その笑顔を見ながら、俺は思った。


――やっぱり、かわいい弟だ。


けれどアルの胸の奥には、別の言葉が静かに残っていた。


兄弟。


その言葉だけでも、今はいい。


いつか、この関係がどう変わっていくのか。


それはまだ、アル自身にもわからなかった。


ただ今は――


この繋がりを失いたくなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。