猫パーティー
イベント初日――。
今日は、猫パーティーの日だった。
俺たちが提案した「異次元パーティー」は、想像していた以上に注目を集めていた。
そして迎えた当日。
劇場は、かつてないほどの賑わいを見せていた。
劇場のフロントには、猫パーティーの会場へ入ろうとする人たちが長い列を作っていた。受付ではチケットの確認や入場案内が行われ、猫耳や尻尾をつけた客たちが、期待に満ちた様子で順番を待っている。
「猫パーティー会場はこちらでーす! チケットをお手元にご用意くださーい!」
「当日券もまだありますよー! ただし、混雑していますので入場まで少々お時間をいただきまーす!」
フロントの横には、会場内で使える案内板やイベントマップが並べられていた。猫用のおやつや猫じゃらし、猫耳カチューシャなどのお土産も販売されている。
「お土産はこちらでもお買い求めいただけます! 会場内にも販売コーナーがありますので、慌てて買わなくても大丈夫ですよー!」
「限定グッズは会場でも販売中です! 売り切れの際はご了承ください!」
「猫ちゃん用のお土産をお探しの方は、会場内の専門コーナーもおすすめでーす!」
それでも、限定商品を先に確保したい客たちがフロントの売り場へ集まり、受付前はさらに混雑していた。
「すみません、猫耳カチューシャはどこですか?」
「こちらの列は入場待ちでーす! グッズ購入のみの方は右側のカウンターへどうぞー!」
「チケットをなくした方は、あちらの再発行窓口へお願いしまーす!」
案内をする精霊たちの声が飛び交い、列は少しずつ進んでいるものの、フロント全体は人と荷物でいっぱいだった。中には猫を抱いたまま順番を待つ人もいて、猫たちは慣れない混雑に驚いたり、逆に周囲の猫耳姿の客に興味を示したりしている。
「……入る前から、すごいことになってるな」
俺が呟くと、アルが人の波を見渡した。
「みんな、楽しみにしてたんだね」
「楽しみにしてたにしても、受付前でこの混み方は予想外だろ……」
しばらくして、ようやく俺たちの順番が来た。
「異次元パーティー会場への入場はこちらでーす! ワープゲートをくぐった先が会場になります!」
俺たちは案内に従い、フロントの奥へ進んでいく。
ワープゲートをくぐった瞬間、目の前に広がった光景に、俺は思わず足を止めた。
「……なんだ、これ」
そこは、さっきまでの劇場とはまるで別世界だった。
色とりどりの照明が天井を駆け巡り、猫耳や尻尾をつけた人たちが会場中を歩き回っている。
あちこちから音楽が聞こえ、猫の鳴き声まで混じっている。
そして――。
「チール! チールはいかがですかー!」
声のする方を見る。
そこには、猫餌を売り歩く精霊がいた。
手には細長く包装された袋を抱え、淡い光をまといながら会場内を歩き回り、客に売り歩いている。
「チール! 猫ちゃん大喜びですよー! お土産にもどうぞー!」
俺はその袋を見て、目を細めた。
袋には、見覚えのあるような猫のイラスト。
「……おいおい」
「それ、俺の住んでた世界の猫餌のパクリじゃねえか!」
「チール! 猫ちゃん大喜びですよー!」
「いや、商品名まで微妙に寄せてるだろ!」
精霊は悪びれる様子もなく、光の尾を揺らしながら次の客へ向かっていく。
「チールはいかがですかー!」
さらに別の精霊が現れた。
「猫用おもちゃはいかがですかー!」
「こっちは猫耳カチューシャ! 二個買うと尻尾がおまけ!」
「猫用高級スープ、本日限定です!」
「猫の肉球クッキーもありますよー!」
「……お前ら、パーティーを楽しむんじゃなくて商売しに来てるだろ」
俺が呆れていると、アルが隣で笑った。
「みんな、商魂たくましいね……」
「たくましいってレベルじゃないぞ……」
会場の中央では、猫たちが用意されたテーブルの上でくつろぎ、その周囲に集まった人たちが猫を愛でながら食事を楽しんでいる。
「かわいいなあ……」
「この子、魚のスープが好きみたいですよ」
「じゃあ、こっちのチールもどうぞ」
猫が差し出された料理を夢中で食べるたび、あちこちから歓声が上がる。
別の場所では、猫じゃらしを手にした人たちが猫と戯れ、猫たちは床を駆け回ったり、参加者の膝に乗ったりしていた。
その周囲を、精霊たちが商品を抱えて走り回っている。
ステージでは猫のホログラムが巨大化したり、小さくなったりしながら踊っている。
その横では、
「猫占い、一回五百円!」
「猫の気持ちがわかる魔法、千円!」
「猫になれる体験、三千円!」
と、次々に新しい店まで開かれていく。
「……これ、本当に猫パーティーなのか?」
俺は呟いた。
すると、目の前を一匹のホログラム猫が横切った。
その直後――。
「猫ちゃんを触ってみませんかー!」
精霊が飛び出してきた。
「うわっ!」
俺は思わず後ずさる。
「お兄さん、今なら猫じゃらし付きですよ!」
「いらねえよ!」
「チールも一緒にいかがですかー! 猫ちゃんを愛でながらのお食事にぴったりですよー!」
「だからいらねえって!」
会場は笑い声と音楽、猫の鳴き声、精霊たちの呼び込みで、完全にカオスと化していた。
俺はため息をつく。
「……初日からこれかよ」
アルは楽しそうに笑っていた。
「でも、楽しそうじゃない?」
「……まあ、そうだけど」
俺はもう一度、会場を見渡した。
猫を撫でながら食事をする人たち。
猫じゃらしを振り回し、猫と戯れる人たち。
その間を縫うように、チールや猫用品を売り歩く精霊たち。
こんな光景、自分が元いた世界では絶対に見られなかった。
そして何より――。
「……まあ、ピエロランドらしいか」
そう呟いて、俺たちは猫たちと精霊の呼び込みで賑わう人混みの奥へと進んでいった。
その先には、まだ俺たちの知らないエリアが広がっていた。
壁には、次回のイベントを告知する巨大なホログラム広告が浮かんでいる。
――『次回開催 草原の一夜・デートパーティー』
「……次はこれか」
アルが広告を見上げる。
「猫パーティーの次は、デートパーティーなんだね」
俺は腕を組んだ。
「今度はもっと平和だといいんだけどな……」
その瞬間、背後から精霊の声が響いた。
「次回イベントのチケット、ただいま先行販売中でーす!」
「もう売ってんのかよ!」
こうして、猫パーティーの一日は終わりを迎えようとしていた。
しかし――。
ピエロランドのイベントは、まだ始まったばかりだった。




