↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/32

てき

慰安パーティーは無事終了し、劇場はまた忙しい日々に戻った。


三日間の休暇を終えた精霊たちは、それぞれの持ち場へ戻っていく。


フロントではピエロたちが笑顔で客を迎え、市場では店が再び開き、劇場でも次々と公演の準備が始まっていた。


けれど、慰安パーティーの余韻は、まだ終わっていなかった。


アルからスマートフォンをもらった精霊たちは、パーティー中に撮った写真や動画を次々とインターネットへ投稿していた。


遊園地。


精霊の故郷。


光の精霊が所有する美術品。


不思議な街並み。


そして、三日目に開催された大規模な祭り。


きらめく海。


夜空いっぱいに広がる花火。


巨大な光の魚が海へ飛び込み、水面全体が青く輝く光景。


どれも、現実のものとは思えない映像ばかりだった。


当然のように、それらは瞬く間に拡散されていった。


『これAIじゃないの?』


『AI生成にしてはリアルすぎない?』


『この遊園地、本当に存在するの?』


『誰か場所知ってる人いない?』


『こんな美術品見たことないんだけど……』


『海の映像、どうやって撮影してるんだ?』


『花火の映像、CGにしか見えない』


『でもCGなら、なんでこんなに細かいところまで自然なんだ?』


ネットでは、さまざまな憶測が飛び交った。


最新のAI技術なのではないか。


巨大企業が秘密裏に作ったテーマパークなのではないか。


未知の映像技術を使っているのではないか。


そして中には――。


「もしかして、異世界なんじゃないか?」


そんな冗談まで飛び出していた。


やがてピエロランドの存在そのものが、大きな話題になっていった。


それに合わせるように、劇場の予約も急激に増えていく。


「アル、すごい反響だなあ」


浄化施設の事務所で、俺はスマートフォンを眺めながら呟いた。


アルは得意げに胸を張る。


「もちろんだよ! 精霊魔術のリーダーの僕が構築したんだよ。これぐらいなくちゃ!」


「……自分で言うか、それ」


そんな騒ぎの中、運営部も動き始めていた。


「もっとピエロランドを知ってもらおう!」


「広告を増やしましょう!」


「もっと派手に!」


精霊たちは勢いに乗って、宣伝を強化していった。


そして――。


その広告の中には、人間たちが普段利用しているサイトに表示されるものまであった。


動画サイト。


ニュースサイト。


ゲームサイト。


検索ページ。


気がつけば、どこを見てもピエロランドの広告が表示されるようになっていた。


「またピエロランド出てきたぞ!」


「昨日も見たぞこれ!」


「一体なんなんだよ……」


人間たちは戸惑いながらも、次第にピエロランドという名前を覚えていった。


運営部では精霊たちが嬉しそうに騒いでいる。


「効果は抜群です!」


「アクセス数も伸びています!」


アルはその様子を見ながら苦笑した。


「……お前たち、宣伝の仕方が強引すぎない?」


「でも効果はあります!」


「それは……そうだけど」


アルは少し考えた。


「まあ……ピエロランドを知ってもらえるなら、いいか」


その後、俺もネットを眺めながら呟いた。


「……最近、どこ見てもピエロランドの広告が出てくるんだけど」


「……運営部が頑張ってるんだよ」


アルが微妙な顔をする。


「頑張る方向、合ってるのか?」


「……たぶん」


こうして――。


ピエロランドの名前は、さらに多くの人間へと知られていくことになった。


だが、その一方で。


その広告によって、大きな損害を受けている人間たちもいた。


薄暗い部屋。


壁一面のモニターには、広告の売り上げデータが表示されている。


しかし、その数字は見る間に落ち込んでいた。


「くそっ!! なんで広告が乗っ取られてるんだ!!」


男が机を叩く。


「売り上げが下がりまくりだ!」


画面には、自分たちが出していた広告の代わりに、ピエロランドの広告が表示されていた。


男は歯を食いしばる。


「……ふざけやがって」


そして部下へ振り返った。


「おい。ピエロランドの入口を把握しているか?」


「……はい」


部下は答えた。


「いくつか候補を掴んでいます。ただ……正確な場所までは、まだ」


「それで十分だ」


男はモニターを睨みつけた。


「すべて破壊しろ」


「……!」


「日本から締め出すんだ」


一方、その頃のピエロランドでは――。


誰もその動きを知らなかった。


いつも通りの一日が続いていた。


しかし、突然。


ピピッ――!


ピピッ――!


ピエロランド中のスマートフォンが、一斉に鳴り響いた。


フロントにいたピエロたちが、驚いて顔を上げる。


「……緊急通知?」


画面が赤く点滅している。


そこに表示された文字を見て、空気が一変した。


『緊急事態発生』


『日本国内に設置されている複数の入口ドアが破壊されました』


『破壊された入口から入場したお客様が、ピエロランドから退出できなくなっています』


『各部署は直ちにドアの修復を開始してください』


『同時に、入口を破壊している人物の確保を実行してください』


「……え?」


誰かが小さく声を漏らした。


ほんの数秒前まで、いつも通りだったピエロランド。


それが突然、緊急事態に包まれた。


「お客様が閉じ込められてる!?」


「各入口を確認して!」


「修復班をすぐに向かわせて!」


「破壊した人間はどこ!?」


フロントのピエロたちが一斉に動き始める。


運営部にも同じ通知が届いていた。


アルはスマートフォンの画面を見つめたまま、表情を変えていた。


「……入口が、複数?」


隣にいた俺も画面を覗き込む。


「ピエロランドを探してる人間がいるってことだね」


「しかも、入口を壊してまで……」


すると運営部の精霊が駆け込んできた。


「アルさん! 修復班、準備できました!」


「分かった。まず閉じ込められているお客様を最優先にして!」


「はい!」


「入口を壊している人物については?」


「現在、各地の入口を調査しています!」


「見つけたら、絶対に無理はしないで。確保を優先して、必要なら僕に連絡して」


「了解しました!」


精霊たちは一斉に走り出した。


だが――。


ピエロランドには、もう一つの顔があった。


表にはほとんど姿を見せない、精鋭部隊。


普段は市場や劇場で笑顔を振りまいているピエロの精霊たち。


しかし、緊急事態が起きた時だけ、その姿を変える。


今回もそうだった。


破壊された入口の一つ。


そこへ、一体のピエロの精霊が静かに現れた。


「……やっと見つけた」


少し離れた場所では、数人の人間が壊れたドアを調べていた。


精霊が歩み寄る。


「ドアを破壊してるのは君らだね?」


「……!」


人間たちが振り返る。


次の瞬間――。


精霊が指を鳴らした。


パチンッ。


「ぐっ!?」


見えない力が人間たちの身体を拘束する。


「な、なんだこれは!」


「魔法……!?」


精霊はスマートフォンを取り出した。


「王、発見しました」


『了解。そちらで確保して』


「はい」


そして、拘束された男へ尋ねる。


「君たちのリーダーは誰?」


「だ、誰が……しゃ、喋るか!」


「そう」


精霊が指をわずかに動かす。


ぎゅうっ――。


「ぐっ……!」


「だ、誰が……!」


「……誰?」


淡々とした声。


「わっ、分かった!」


男が慌てて叫んだ。


「言う! 言うから!」


こうして、組織の拠点が判明した。


そして――。


精鋭部隊は、その事務所へ向かった。


「な、なんだお前ら!」


「侵入者だ!」


人間たちが騒ぐ。


しかし、精鋭部隊の動きはあまりにも速かった。


次々と魔法によって拘束され、抵抗する間もなく制圧されていく。


数分後。


「制圧完了」


「全員確保しました」


事務所は完全に制圧された。


そして精鋭部隊は、組織のリーダーを連れてピエロランドへ戻ってきた。


向かった先は、浄化施設の事務所。


俺はそこで、いつものように仕事をしていた。


突然、ドアが開く。


「オーナー」


「……ん?」


振り返る。


すると――。


見えない力に身体を縛られた男が、ピエロの精霊たちに連れてこられていた。


男は必死に身体を動かしている。


「離せ! なんなんだ、この力は!」


俺は目の前の光景に戸惑った。


「……何これ?」


精霊が淡々と報告する。


「オーナー、ドアを破壊している組織のリーダーを連れてきました。事務所は制圧済みです」


「お、おう……」


俺は男を見る。


「あなたは……誰ですか?」


男は俺を睨みつける。


「お、おまえらが……!」


声を震わせながら叫んだ。


「俺達の広告を乗っ取るからだ!」


「……広告?」


俺はぽかんとする。


アルが隣で首を傾げた。


「広告って……ピエロランドの?」


「そうだ!」


男は怒鳴った。


「俺たちが出していた広告を、お前らが勝手に消して、自分たちの広告にすり替えただろ!」


アルは少し困った顔をした。


「まず、事務所を壊しちゃったことは謝るよ」


「……は?」


男が目を丸くする。


「お前ら……そこを気にするのか?」


「だって、結構壊しちゃったから」


アルは申し訳なさそうに笑った。


男はしばらく黙り込んだ。


俺は尋ねる。


「お前たちって、本当は何をしてるんだ?」


「……広告業だ」


「詐欺広告を出してたんだよね?」


「……ああ」


男は苦々しく答えた。


「最初は普通の広告だった。だが、金になるからって……いつの間にか、怪しい広告ばかり扱うようになった」


俺は少し考えた。


「じゃあさ。もう、それやめたら?」


「……は?」


「ピエロランドの広告を作ってくれよ」


男が目を丸くする。


「俺たちが……?」


「そう。今までの広告の知識を使ってさ。今度は人を騙すんじゃなくて、本当に面白いものを宣伝する」


アルも笑顔になった。


「僕たちはピエロランドのことを、もっと人間に知ってほしいんだ!」


男は吐き捨てるように言った。


「はっ! 誰がお前らの広告なんか!」


するとアルが、にこっと笑った。


「じゃあ、ちょっと考えてみようか」


「……?」


アルは指を一本立てる。


「組織をめちゃくちゃに破壊されるのと」


もう一本、指を立てた。


「僕たちの広告を作って、ちゃんとお金を儲けるの」


男が黙り込む。


「どっちがいい?」


「……」


アルはさらに続けた。


「それに僕たちは、このまま君たちの広告を乗っ取って、無料で広告を出し続けることもできるんだよ?」


男の顔が引きつった。


「お、お前……」


「だからさ」


アルは首を傾げる。


「敵になるより、仲間になったほうが得じゃない?」


俺は思わずため息をついた。


「アル……それ、説得っていうより脅しじゃないか?」


「え?」


アルはきょとんとする。


「ちゃんと選択肢を教えてあげてるだけだよ?」


「選択肢が怖すぎるんだよ……」


男はしばらく黙っていた。


やがて深いため息を吐く。


「……分かった」


「お?」


「分かったよ。広告を作る」


アルの顔がぱっと明るくなった。


「本当!?」


「ああ。ただし――」


男はアルを睨む。


「ちゃんと報酬は払えよ」


「もちろん!」


アルは嬉しそうに答えた。


「よろしくね!」


しかし、アルはそこで終わらなかった。


「あと、君たち」


「……まだ何かあるのか?」


「制圧もできるんでしょ?」


「……まあ」


男は警戒しながら答える。


「だったらさ」


アルはにっこり笑った。


「ピエロランドのドアの用心棒もやってくれる?」


「なっ……そんなことまで……」


男が目を見開く。


「僕たちだけじゃ手が足りないんだ」


アルは真面目な顔になる。


「それに、どうやら君たちはかなり大規模な組織みたいだし……」


男は黙り込んだ。


アルは続ける。


「僕らが本気を出せば、正直なんだってできるよ」


「……」


「でも、君たちだって今までやってきた仕事を全部失いたくないでしょ?」


男の表情が変わった。


「しのぎを失いたくないでしょ?」


「……くっ」


男は頭を抱えた。


広告を乗っ取られた。


事務所を制圧された。


仲間たちも、あっという間に拘束された。


そして今、目の前にいる少年は、それをまるで大したことではないように話している。


――こいつらは、一体何なんだ?


男はちらりと周囲を見る。


見えない力で人間を拘束する精霊。


一瞬で事務所を制圧したピエロたち。


そして、その精霊たちから「王」と呼ばれるアル。


普通じゃない。


絶対に普通じゃない。


「……分かったよ!!」


男はついに両手を上げた。


「守ってやる!」


アルの顔がぱっと明るくなる。


「本当!?」


「ああ! 広告も作る! 入口の用心棒もやる!」


男は半ばヤケになって叫んだ。


「だから、もう俺たちの組織をめちゃくちゃにするな!」


「約束するよ!」


アルは嬉しそうに笑った。


俺はその様子を見ながら、なんとも言えない気持ちになった。


「……なんか、とんでもない契約が成立したな」


するとアルが振り返る。


「リク、これで日本の入口も安心だね!」


「まあ……そうだけど」


俺は壊された入口のことを思い出す。


「最初から仲良くできてれば、一番よかったんだけどな」


「それはそうだね!」


男が呆れたように二人を見る。


「……お前ら、本当に何なんだよ」


俺は答えに困った。


アルは楽しそうに笑っている。


そして――。


この日を境に、ピエロランドには新たな組織が加わった。


彼らは表向きには広告を担当し、裏では日本各地にあるピエロランドの入口を守る。


ピエロランドの存在を隠すためではない。


その入口を見つけた人間が、安心して入れるように守るために。


そして彼らの拠点には、新しい看板が掲げられた。


『ピエロランド・日本支部』


こうして――。


ピエロランドに、初めての人間による日本支部が誕生したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。