一日
――瞬間、視界が一気に明るくなった。
目の前に広がっていたのは、巨大な遊園地だった。
入口から続く大通りの先には、まるで塔のようにそびえ立つ巨大な観覧車。
その周囲には、石造りの建物や色鮮やかな屋根の家々、異国風の街並み、童話の世界のような建物まで、さまざまな景色が広がっている。
美しい彫刻や噴水、花壇、街灯。
建物の間を縫うように、巨大なジェットコースターのレールまで走っている。
その向こうには湖や森まで見えていた。
「どう? すごいでしょ!」
アルが満面の笑みで言う。
「これ、本当に遊園地なのか?」
「もちろん!」
周囲では、子供の姿になった精霊たちが歓声を上げながら走り回っている。
「リク、何乗る?」
「そうだなあ……ジェットコースターいく?」
「ふふ、初っ端から飛ばすねえ」
俺たちはジェットコースターへ向かった。
乗り場に着くと、目の前に一人の案内係が現れた。
見た目は普通の人間とまったく変わらない。
服装も、表情も、髪の揺れ方まで自然で、ホログラムだと言われなければ気づかないほどだった。
「こんにちは。ジェットコースターをご利用ですか?」
「はい」
案内係は笑顔で頷くと、俺たちのシートベルトや荷物を確認していく。
「ベルトもしっかり締まっていますね。お荷物はこちらへ置いてください。体調や気分は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫」
「よかったです。それでは、楽しんできてくださいね!」
案内係は自然な笑顔で手を振った。
「いってらっしゃいー!」
俺は隣にいるアルを見る。
「おいアル……これ、本当にAIなのか?」
「ふふ、そうだよ」
アルは笑った。
「ここのAIは『自分はAIです』っていう感じじゃないんだ。人と話したり、相手の反応を見たり、その場に合わせて言葉を選んだりできるようにしてあるの」
「じゃあ、自分がAIだって分かってないのか?」
「うん。本人は自分を、ここで働いている案内係だと思ってるよ」
俺たちはシートに座った。
ガチャン、と安全バーが固定される。
ゆっくりと車体が動き出し、レールを登っていく。
カタン、カタン、カタン――。
どんどん高くなっていくにつれて、遊園地の景色が小さくなっていく。
「アル……これ、結構高くないか?」
「ふふ、そうだねえ」
アルは楽しそうに笑っている。
そして頂上に到達した瞬間、車体が一瞬だけ止まった。
「……え?」
次の瞬間――
車体が一気に急降下した。
「うわああああああっ!」
身体が座席に押しつけられ、風が猛烈な勢いで顔を叩く。
右へ、左へ。
建物のすれすれを駆け抜け、トンネルへ飛び込む。
「うおおおおっ!」
トンネルを抜けた瞬間、今度は空へ向かって急上昇。
そのまま大きく宙返りすると、重力が一瞬消えたような感覚に襲われた。
「アル! これ速すぎるだろ!」
「ふふふ! まだまだ!」
湖の上を低空で走り抜け、最後は巨大な噴水の水しぶきを突っ切って、勢いよく駅へ戻ってきた。
「リク、どうだった?」
アルが楽しそうに聞いてくる。
「アルに手を引かれて、空を猛スピードで走ったときよりはマシ……」
「ふふ」
俺たちは次のアトラクションへ向かって歩き出した。
すると、ふと目に入ったのは、色とりどりの商品が並ぶショップだった。
「店もあるのか?」
「ふふ、入ろう!」
店の中には、ぬいぐるみやキーホルダー、マグカップなど、遊園地のグッズが所狭しと並んでいる。
「これ、全部ホログラムなのか?」
「違うよ!」
アルは得意げに笑った。
「製造部や仕入れ部で、この三日間のイベントにある全部の商店の商品を作ったんだ!」
「全部?」
「うん! 遊園地だけじゃないよ。二日目の田舎町にも、三日目のお祭りにも、それぞれ町や商店街があって、そこにあるお店は全部ちゃんと買い物できるんだ」
俺は店内を見回した。
遊ぶだけじゃない。
食べて、買って、町を歩いて――三日間、本当に一つの世界で暮らすように楽しめるらしい。
俺はその中から、クマの耳がついたカチューシャを手に取った。
するとアルも、同じものを見つけたらしい。
「リク! これつけよ!」
「またお揃いかよ……恥ずかしいって」
「だめ? お願い」
アルが上目遣いで俺を見る。
……俺は、これに弱い。
「わかった! いいよ!」
俺たちはお揃いのクマ耳カチューシャを手に取る。
アルはさっそく自分の頭につけると、俺の顔をじっと見た。
「どう? 似合ってる?」
「……まあ、似合ってるんじゃないか」
「ほんと?」
「ああ」
するとアルは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、リクもちゃんとつけてね」
「分かってるって」
俺がカチューシャをつけると、アルは満足そうに頷いた。
「ふふ。やっぱりお揃いっていいね」
「そんなに嬉しいか?」
「うん。すごく」
そう言ってアルは、俺の腕にちょこんと寄り添った。
「……まあ、たまにはいいか」
俺がそう言うと、アルはさらに嬉しそうに笑った。
ホログラムの店員にカチューシャを渡すと、
「2つで1700ピエロです!」
「精霊たち……商魂たくましいな」
「ふふふ。せっかく作ったんだから、いっぱい買ってもらわないとね!」
会計を済ませ、俺たちはお揃いのカチューシャをつけて店を出た。
「次はどのアトラクションに乗ろう?」
俺が言うと、アルがすぐに振り返った。
「次は観覧車に乗りたい! リク、行こう!」
アルはそう言うと、巨大な観覧車に向かって走り出した。
「待って……走るな!」
俺も慌てて後を追う。
観覧車のゴンドラに乗り込むと、扉が閉まった。
ゆっくりとゴンドラが動き出し、俺たちは少しずつ地上から離れていく。
高く、高く上昇していく。
窓の外に広がる景色に、俺は思わず息を呑んだ。
さっきまで歩いていた大通りが、一本の道のように見える。
その両側には、レンガ造りの店や白い石の洋館、色鮮やかな屋根の建物が並んでいる。
場所によって街並みの雰囲気まで違っていて、まるでいくつもの国や世界を一つの遊園地に詰め込んだようだった。
広場の中央では大きな噴水が水を高く噴き上げ、その周囲には色とりどりの花壇が広がっている。
巨大なジェットコースターのレールは建物の間を縫うように走り、さっき乗った車両が小さくなった景色の中を駆け抜けていく。
さらに遠くには、遊園地を囲むように広がる湖。
その向こうには深い森が広がり、木々の間には小さな城のような建物や、遠くからでも目立つ巨大な塔まで見える。
園内のあちこちから、精霊たちの笑い声や歓声が聞こえてくる。
上から見ると、この遊園地が想像していたよりずっと広いことが分かった。
まるで一つの街そのものだった。
「……すごいな」
「ふふ。三日間じゃ足りないくらいでしょ?」
「いや、本当にそうかもしれないな」
アルは俺の肩に軽く頭を預けた。
「でも……リクと一緒なら、もっと長くてもいいな」
「……そうだな」
俺も少しだけ笑った。
俺たちはしばらく、ゴンドラの中から景色を眺めていた。
それから俺たちは、メリーゴーランドやバイキング、ほかにもいろんなアトラクションを思いっきり楽しんだ。
気がつけば、身体はすっかり疲れ果てていた。
俺たちは遊園地の外れにあるベンチに腰を下ろした。
「アル、たくさん遊んだなあ」
「うん……」
アルは俺に寄りかかってくる。
どうやら相当疲れたらしい。
目はショボショボしていて、頭がカクッ、カクッと揺れている。
「アル、眠いのか?」
「うん……」
アルはそのまま俺の肩に頭を預けた。
「もうちょっとだけ……このまま……」
「……好きにしろ」
「ふふ……ありがと」
アルは安心したように目を閉じた。
「どこか泊まれるところあるか?」
「うん……遊園地のすぐ外にホテルがある……」
「もう予約……して……あるから、すぐ入れる……」
「じゃあ、行くか。アル、いくぞ」
返事がない。
「……アル?」
見ると、アルはもう眠ってしまっていた。
「仕方ねえなあ……おぶってやるか」
俺はアルを背負い、遊園地の出口へ向かった。
すぐ外にあるホテルへ入り、用意されていた部屋へ向かう。
部屋に入ると、俺はアルをそっとベッドに寝かせた。
アルは眠ったまま、俺の服の袖を少しだけ掴んだ。
「……ん……」
俺は苦笑しながら、その手をそっと布団の上に戻した。
「……おやすみ、アル」
俺も隣のベッドに横になる。
身体をベッドに預けると、一気に眠気が押し寄せてきた。
「……俺も、もう限界だな」
目を閉じる。
意識が少しずつ遠のいていく。
そして俺は、いつの間にか眠りの世界へ落ちていった。




