改革
アルの思いつきから、突然始まった企画だった。
「仮面舞踏会、やってみたい!」
そう言い出したアルは、思いついたら止まらない。
あっという間に専用の会場を作り上げ、パーティー商人たちにも声をかけた。会場を訪れる客にはチラシを配り、館内放送でも何度も告知する。
準備は万全だった。
そして俺たちは、意気揚々と開幕の時間を迎えた。
――ところが。
会場を見渡して、俺は固まった。
「……5人?」
これだけ?
広々とした会場の中にいる客は、わずか五人。
「まあ……初日だしな……」
そう呟きながらも、胸の奥がズキリと痛む。
せっかく金を払って来てくれたのに、この人数ではあまりにも寂しい。
客たちから向けられる視線が、妙に痛かった。
やがて開演の時間になる。
ダンスを促すように、会場の照明がゆっくりと明るくなった。
そして――
優雅なクラシックの旋律が、静まり返った会場へ流れ始める。
……。
誰も踊らない。
俺はそこで、ふと冷静になった。
そもそも現代で、社交ダンスなんて踊る機会があるだろうか。
仮面をつけて、見知らぬ相手と優雅に踊る。
そんな文化、今の時代にはほとんど残っていない。
広い会場にクラシックだけが響き、五人の客はそれぞれ気まずそうに立っている。
さっきまで意気揚々としていた俺たちの気持ちは、みるみるしぼんでいった。
……完全に、見切り発車だった。
俺は隣にいるアルを見る。
アルも、同じような顔をしていた。
「アル……」
「……まあ、初日だしな」
「うん……」
二人して、何とも言えない顔で頷いた。
そして――二週間が経った。
「リクー!! 全然お客さんが増えないようぉおっ!」
アルは俺に泣きついていた。
「最初は……最初は初日だから少ないだけだと思ってたのに……!」
アルは頭を抱えながら、その場をうろうろしている。
「二週間だよ!? 二週間も経ったのに、ほとんど変わってないんだよ!?」
さすがに焦っているらしい。
豪華な会場で会話を楽しみ、ダンスを楽しむ。
それだけでは、どうやら現代人には刺さらなかったようだ。
「うーん……。なんか工夫がないと、増えないかもなぁ」
「工夫?」
「そうだなあ……」
俺は少し考えてから口を開いた。
「例えば、ホログラムで何かしてみるとかは? 見るだけでも、ちょっと変わると思うぞ?」
「ホログラムか!」
アルの表情が、一瞬で変わった。
さっきまでの焦りが嘘みたいに目を輝かせる。
「それだ!!」
ガタン!
アルが突然立ち上がった。
「試したいことがあるから、パーティー会場に行こう!!」
俺たちはそのままパーティー会場へ向かった。
会場に着くと、アルは椅子に腰を掛けた。
そして、すぐにパソコンを開く。
カタカタカタカタ――。
ひたすらキーボードを打ち込んでいる。
ものすごい勢いだ。
俺が横から画面を覗き込もうとすると、アルは特に気にする様子もなく、作業を続けている。
そして時折、
「jpwm990……//」
何やら意味の分からない文字列を呟きながら、まるで呪文を唱えるように言葉を口にする。
……何をしているんだ?
俺にはさっぱり分からない。
そんな状態が、一時間ほど続いた頃だった。
「……よし」
アルの手が止まった。
「……出来た」
そして俺のほうを見る。
「リク、こっちに来て」
「アル、何してたんだ?」
「ふふっ。行くよ?」
アルは答えなかった。
ただ、楽しそうに笑うと、パソコンのエンターキーに指を置いた。
そして――
まるで何かを弾き飛ばすように、勢いよくエンターキーを押した。
「ターン!!」
その瞬間だった。
俺たちの目の前に、小さな光が現れた。
最初は、ほんの小さな光の粒だった。
だが――
次の瞬間。
バッ――!!
ものすごい光量を放ちながら、光が一気に膨張した。
「うわっ!」
眩しさに思わず目を覆う。
光は俺たちの目の前だけでは収まらなかった。
壁を、床を、天井を――。
まるで会場そのものを飲み込むように、部屋中へ一気に広がっていった。




