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解錠師と呼ばれる転移者——魔法の構造が丸見えなので、型など必要ない  作者: 紬 律
第4部

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Episode 66|辿る

【視点マークの読み方】

◆=ケイたちのいる世界

♠=施設を管理する側



記録は、嘘をつかなかった。


マコトは夜明け前の認証を一つずつ辿った。深夜の運用室。画面の青い光だけが顔を照らしている。


古い保守通路に認証が一つ。正規の手順を踏んでいない。最新の網には載らない、忘れられた道だ。それを通れる者は限られている。古い鍵を知る古い人間だけ。


キャロルだ。


マコトはその名を口にしなかった。ただ、指が一瞬止まった。


彼女は地下へ降りた。いつか。誰にも気づかれず。


それだけではなかった。


別の記録が隣で光っていた。ずっと前から運用室が追っていた矛盾。深夜、権限者が不在のはずの時刻に正規の認証が一つ通っている。誰かがいないはずの場所から外へ手を伸ばした。


出所を辿ると、一点に行き着いた。


地下。並んだ寝台の一つ。


マコトの指が机の上で固まった。


あの娘の寝台だった。


——まさか。


二つの線が一点で交わっていた。キャロルが降りた地下は、あの娘の眠る区画だ。そして外へ伸びた不審な認証の出所も、同じ寝台だった。


まさか、キャロルがあの寝台にたどり着いたのか。マコトは自分にそう問うた。だが、あの女は地下に何があるかも知らないはずだ。


あれはただのリソースだ。鍵を証明するだけの、眠った機械。それが、外へ認証を通すはずもない。


だが、記録はそう言っていなかった。


確かめるしかない。


マコトは立ち上がった。



ケイの手が止まった。


経路の上を誰かが辿ってくる。


ケイが組んだ道。アリスが外へ抜けるために通した細い経路。その痕跡は消したはずだった。だが、消した手順そのものを誰かが古い記録から一つずつ掘り起こしている。順番に。こちらが通したのと逆向きに遡るように。


——読まれている。


ケイはこの手つきに覚えがあった。こちらの組み方を先回りして読む、いやな正確さ。あの男だ。


マコトが経路を遡っている。


遡った先がどこか、ケイにはわかった。経路の出所。アリスが外へ手を伸ばしたその一点。


——アリスの体だ。


ケイはアリスへ送った。声ではない。同じこの世界にいる今、二人は意味を直接やり取りできた。


——アリス。聞こえるか。


返事はすぐに届いた。遠かった。何かに集中している気配だった。


——ケイさん。今、手が離せなくて。封を結んでいる途中で。


封の結び直し。本人でなければできない務め。途中で手を離せば、ほどける。アリスはそれを抱えていた。


ケイは迷った。一拍。


戻れ、とは言えなかった。戻れば封がほどける。装っていたものがすべて剥がれる。だが、戻らなければ。


——お前が外へ通した道を、誰かが遡っている。辿りつく先は、お前の体だ。


意味の向こうで、アリスが息を呑むのが伝わった。


道を遡れる者。ケイの手つきを先回りして読む者。アリスも、その答えを知っていた。


——あの人なんですね。


ケイは答えなかった。それが、答えだった。


沈黙のあと、アリスの意味が迷いながら届いた。


——でも、今手を離せば、封がほどけます。あの封がほどければ、人のいる場所への護りがなくなる。


——自分の体ひとつと、引き換えにはできません。


——もう少しなんです。あと少しで結べます。それから、すぐ戻ります。


ケイは目を閉じた。


読める。すべて読める。誰が、どの道を、どこまで遡ったか。手に取るように。だが、止められない。経路は読めても、現実のあの男の足を止める手は、ケイにはなかった。


——わかった。終わらせろ。


それだけ送った。送れることは、それしかなかった。


——間に合え。


初めて祈るような気持ちになった。論理ではなかった。



地下は静かだった。


人の足音はここまで降りてこない。無人の運用。巡回は自動の目に任せてある。マコトはその目の死角を知っていた。自分でそう設計したからだ。


寝台が並んでいた。


一つずつ管に繋がれた体。胸が機械の拍に合わせてゆっくりと上下している。眠ったまま、役目を果たす者たち。


マコトはその間を歩いた。


奥へ。記録が示した一つの寝台へ。


足を止めた。


娘が眠っていた。


痩せていた。一年で頬がこけ、腕は細くなっていた。後頭部から太い管が伸びている。眠っている。


ただ、眠っている。


マコトはその顔を見下ろした。


記録はこの寝台から認証が伸びたと言う。だが、娘は眠っている。それだけだ。


矛盾していた。記録と、目の前の体が。


マコトは寝台に一歩近づいた。


何かが引っかかった。管の留め具がわずかにずれている。電極の一つに貼り直したような跡。誰かがこの体に手を触れた。それも一度ではない。


マコトの目が細くなった。


キャロルか。あの女が、ここまで来て娘に触れたのか。だが、それならなぜ管が戻されている。隠すように。元のように。


「……眠っているのか。本当に」


マコトは身をかがめた。娘の閉じた瞼へゆっくりと指を伸ばす。


この目の奥がまだ眠っているのかどうか。確かめるために。


その指が瞼に触れる。寸前だった。


娘の目が開いた。


まっすぐにマコトを映した。焦点が合っている。眠ってなど、いなかった。


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