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Episode 4|聖詔者


 使節団が来るという話は、朝から聞こえていた。


 廊下を行き交う侍女たち。急かされる礼服の騎士。工房の窓から中庭を見ると、馬車が列をなして門をくぐってくる。旗は青と白。サトルが隣に並んだ。羊皮紙を手に持ったまま、窓の外を見ている。


「南領ノデッサの紋章です。ここから数日南の、ヴェリタス教団の総本山がある宗教都市です。ハストゥラが政治の中心で、各領がそれぞれ役割を持って——という形になっています」


「転移者が来たら全員ここに?」


「ええ。今回来られる聖詔者せいしょうしゃアリス様も転移者です。診断を受けてノデッサに配属された後、教団内で階位を重ねられて、今は最高位に近い立場だと聞いています」


「転移者が宗教の最高位に」


「適性がそう出た、ということで」サトルは肩をすくめた。「なんとなく会えばわかりますよ。転移者同士は、どこか、通じるものがあって」


 返事をしなかった。窓の外、騎士が大急ぎで整列している。普段の使節団の比ではない。




 謁見の間への廊下を歩いてきたわけではない。工房に戻る途中、曲がるべき角を一つ間違えただけだ。


 人の流れに紛れて進むと、廊下の先が開けた。


 その中央に、少女がいた。


 金に近い茶色の髪が、窓から差し込む光を受けている。背が小さい。白い礼服。横顔。


 足が止まった。


 胸の奥で、何かが痛んだ。


 少女が振り向いた。茶色の目がこちらに向く。


 喉が動いた。ケイは口を閉じた。気づかないうちに、開いていた。


 違う。似ているだけだ。


「……失礼しました」


 頭を下げて、その場を離れた。背中に視線を感じたが、振り返らなかった。




 夕方、工房でサトルと向き合っていると、ドアが開いた。


 侍女を一人連れた少女が入ってくる。昼間の少女だ。廊下の端で、案内役の騎士が深く頭を下げたまま動かない。


「サトル様に、資料のご返却を」


 侍女が羊皮紙の束を差し出す。サトルが立ち上がった。受け取った。すぐに顔がほころんだ。


「助かります。——ああ、ちょうど。アリス様、こちらがケイ君です。先日配属になった転移者の方で、アリス様の後輩にあたります」


 少女の目がケイに向いた。昼間と同じ目だ。測るような、静かな目。


「さっきの方ですね」


「はい」


 短い沈黙。サトルが何か言いかけて、アリスが先に口を開いた。


「魔法陣を改変されたと、サトル様に聞きました」


「少し手を加えただけです」


「そういう話ではなく」アリスはサトルをちらりと見た。「型を書き換えようと思う人間が、いなかったという話です」


 サトルが嬉しそうにうなずく。


「まったくその通りで——」


「ありがとうございました」


 アリスは侍女に視線を移した。用は済んだ、という顔だ。ドアに向かいかけた。一度、止まった。


「……少し、お時間をいただけますか。後ほど」


 返事を待たず、ドアが閉まった。


 サトルが羊皮紙を胸に抱き直した。


「やはり転移者同士だと、なんとなく話が早いですね」


 ケイには、それより別のことが引っかかっていた。


 少女の話し方の、どこか。


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