Episode 11|依頼
◆
議政の間への呼び出しは、昨日の夕方に来た。
ケイと、ジン、フウ、アキラへ。
サトルが聞きつけて廊下まで付いてきた。
「ついていきます」
「中には入れません」
「わかってます」
サトルが羊皮紙を取り出した。
「廊下で待ちます」
近衛騎士が二人、扉の前に立っている。
動かない。
ジンがすでに来ていた。フウが隣にいる。
アキラが壁に背を預けて腕を組んでいた。
「遅い」
アキラが言った。
「定刻です」
ケイが返した。
「オレの感覚じゃ遅い」
扉が開いた。
◆
広い部屋だった。
柱が並んでいる。天井が高い。
正面に一人だけいた。
六十に近い男だ。
椅子には座っていない。窓の前に立っている。
逆光だった。
顔が、よく見えない。
灰色の衣。装飾が少ない。皺の多い顔。
目だけが鋭い。
宰相だった。
四人が並んだ。
宰相が、一人ずつ見た。
ケイ、ジン、フウ、アキラ。
順に、止まった。
——値踏み、ではない。
もっと、別のものだった。
「集まってもらった。手短に話す」
◆
一ヶ月前から、ファーマルク近郊に新型の封鍵魔物が出没している。
「封鍵魔物というのは、対象を封じ込める呪いを扱う種族の総称だ」
宰相が言った。
「先日ハストゥラを脅かしたクロージャも、その一種にあたる」
クロージャ。
黒い蔓が地面を這い、触れたものを光る鎖で封じる魔物だ。
型の魔法では蔓は焼けても封印は解けない。
鍵を構造から生成して初めて解除できる。
「今回の新型は、クロージャと同じ封鍵魔物だが、構造が一段深い。これまでの鍵の型が通じない」
「転移者が試みたか」
アキラが言った。
「三人が試みた。一人は今も封じられたままだ」
静かになった。
ジンが、刀の柄に手を置いた。
フウが、ケイの袖を、軽く掴んだ。
——転移者が、封じられている。
「北の防衛領ファーマルクが崩れれば、北からの通商路が止まる。兵站が死ぬ。エントリア連合国の根が抜ける」
宰相が続けた。
「騎士団が防衛線を引いている。崩れてはいない。だが封じられた者が媒体になり、数が増え続けている。消耗が続いている」
「倒せる見込みは」
ジンが言った。
宰相がケイを見た。
「見てみないと、わかりません」
ケイは言った。
——嘘は、つかない。
構造を読んでいない魔物について、できると言うことは、できなかった。
「正直に言った」
宰相が、四人を見た。
「それぞれに来てもらった理由がある」
ケイを見た。
「クロージャを討伐したのはお前だ。封鍵の鍵を構造から生成できる転移者は、今この連合にお前しかいない」
ケイは答えなかった。
フウを見た。
「感知の精度は騎士団の哨戒を上回ると聞いている」
フウが小さく頷いた。
無邪気さは、なかった。
アキラを見た。
「斥候と情報収集を頼む。現地の状況を正確に掴みたい」
「わかってる」
宰相がジンを見た。
「お前はファーマルクが本拠地だな。現地の騎士団との連携を頼む」
「承知しました」
「調査と、可能なら討伐。国として頼む」
アキラが鼻を鳴らした。
「国として、ね」
「アキラ」
ジンが言った。
「わかってる。行くよ」
アキラが、腕を解いた。
「元から断る気はない」
◆
廊下に出た。
サトルが壁際で羊皮紙に何かを書き込んでいた。
顔を上げた。
「どうでしたか」
「ファーマルクに行きます」
サトルの手が、止まった。
立ち上がった。
「……やはりそれでしたか。騎士団の報告書を少し読みました。私も行きます」
「危険です」
「わかっています。でも現物を見ないと意味がない」
ケイは止めなかった。
◆
工房に戻ると、アリスがいた。
侍女はいない。
廊下を確認してから入ってきた、のだろう。
「聞きました」
アリスが言った。
「ファーマルクへ向かうと」
「そうです」
アリスが、間を置いた。
「封鍵の呪いに関わる場所にはヴェリタス教団が立ち入る権限があります。北の村々にも被害が出ています。別々に動くことになりますが」
「わかりました」
アリスが机の端を見た。
羊皮紙はもう、片付けられていた。
何か言いかけた。
やめた。
——正確には、言えなかった。
「気をつけてください」
「アリスさんも」
アリスが少し目を細めた。
聖詔者の顔に戻っていた。
ドアが閉まった。
◆
出発は、翌朝だった。
ジンが先頭を歩く。
フウが隣にいる。
アキラが後ろで欠伸をした。
サトルが、まだ何か書き留めている。
北の街道に入った。
木々の色が変わっている。秋が早い。
空が白い。
馬の蹄の音だけが、続いた。
フウが立ち止まった。
「変な感じがする」
「どこが」
「全部。遠い方が」
フウが北を向いた。
「ざわざわしてる」
ジンが前を向いたままだった。
アキラが空を見上げた。
ケイは、歩き続けた。
——北。
——ファーマルクだけ、ではない。




