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Episode 10|哨戒


 クロージャが討伐された後も、城下は落ち着いていなかった。


 市場が早く閉まる。


 子供が外で遊ばない。


 蔓の根元があった場所を中心に、周辺の魔物が活性化している。


 騎士団が出ても手が回らない状況が続いていた。


 城門を出た。


 騎士が十二人いる。二つのパーティに分かれている。


 アキラは別パーティで北側の哨戒に入っている。


 騎士団の隊長がフウを見た。


 頭を下げた。


「今日もよろしくお願いします」


 フウが「うん」と言った。


 隊長がケイに小声で言った。


「あの子の感知が外れたことは一度もないんですよ。騎士の哨戒より先に全部わかってる」


 ケイは答えなかった。


 ——騎士の哨戒より、先に。


 九歳だ。


 ケイのパーティは、ジンと、フウだ。


 フウが前を歩いている。


 騎士よりも先を。


「前に出るな」


 ジンが言った。


「大丈夫だよ」


 フウが振り返った。


「大丈夫かどうかが問題じゃない」


 ジンが続けた。


 フウが少し速度を落とした。


 ジンの半歩前。落とした意味がない。


 ジンが、息をついた。


 小さく。


 何も言わなかった。


 ——諦めた、わけではない。


 言っても聞かない。それだけだった。




 城壁から離れたところで、フウが止まった。


「来る」


 声が変わった。


 無邪気さが消えた。


「どこだ」


 ジンが言った。


「右、二十歩。木立の奥。九匹。一匹だけ動きが違う」


 フウが右手を指した。


 草はまだ揺れていない。


 騎士たちが顔を見合わせた。


 三秒後、草が揺れた。


 出た。


 虫型だ。体長が膝ほどある。数が多い。


 先頭の一匹だけ、動きが違う。


 速い。


「散開」


 ジンが言った。


 騎士たちが動いた。


 フウの言った通りの位置に向けて。疑わずに。


 ジンがフウの前に出た。


 刀を抜く。一動作だ。


 一匹が跳んだ。


 ジンが踏み込んだ。刀が走った。


 落ちた。


 次の一匹が続いた。


 また走った。


 また落ちた。


 無駄がない。隙がない。


 騎士たちが、目で追えていない。


 もう一匹が横から来た。


「上」


 フウの声だ。


 ジンが上を見た。


 木の枝から飛んでいる。


 刀が変わった角度で走った。


 落ちた。


「後ろ、六匹。今度は速い」


 ケイが振り返った。


 草が揺れている。


 手を上げた。


 ——六匹。距離、速度、角度。


 構造が、見えていた。


 光の線が走った。


 後方に向けて、六本同時に届いた。


 虫型が一瞬、硬直した。


 次の瞬間、六匹が崩れた。


 地面に転がる。


 動かない。


 絶命していた。


 静かになった。


「まだいる」


 フウが言った。


「あの一匹が奥に引いた。何かを呼んでいる」




 木立の奥が、揺れた。


 フウの言葉は、正確だった。


 現れたのは、体長が人の背丈ほどある虫型だった。


 同種の虫型だが、規格が違う。外骨格が厚い。六つの眼球がバラバラの方向を向いている。


 大型の後ろに、先ほどの先頭の一匹がいた。


 小さく、動かない。


 騎士の一人が炎の型を放った。


 当たった。


 動じない。


 また放った。


 また当たった。


 やはり動じない。


「下がれ」


 ジンが言った。


 騎士たちが下がった。


 大型が動く。


 ゆっくりと。


 六つの眼球が、ケイを向いた。


 ケイが前に出た。


 大型が、踏み込んだ。


 速い。


 体の大きさと合っていない。


 構造を読んだ。


 外骨格が厚い、のではない。


 外側から魔力が補強されている。


 補強の構造がある。


 ——構造には、外し方がある。


 必ず、ある。


 それを外せばいい。


 指を走らせた。


 光の線が一本、大型の虫型に触れた。


 補強が、解けた。


 外骨格が薄くなった。


 ジンが踏み込んだ。


 刀が深く入った。


 大型が倒れた。


 後ろにいた先頭の一匹も、同時に動きを止めた。


 静かになった。


 本当に、静かになった。


 騎士たちが動かなかった。


 誰も何も言わなかった。


 隊長がケイを見た。


 何か言いかけて、やめた。




 フウが草の上に座り込んだ。


 黒髪が乱れている。ワンピースの裾が草で汚れていた。


 膝を抱えている。


「疲れた」


「怪我は」


 ジンが言った。


「ない」


 ジンが近づいた。


 しゃがんだ。


 フウの右腕を取った。


 黙って確認した。


 左腕も確認した。


 何もなかった。


 フウが少し目を細めた。


「心配性だね」


「仕事だ」


 ジンが言った。


「仕事でそんなに確認する?」


 ジンは答えなかった。


 立ち上がった。


 草の向こうを見た。


 フウが立ち上がった。


「ジン、ありがとう」


「怪我がなかったからだ」


「そうじゃなくて」


 フウが言った。


「さっき、上から来たやつ。私が言う前に動いてたじゃん」


 ジンは草の向こうを見たままだった。


「気のせいだ」


 フウが小さく笑った。


 ジンが騎士たちの方へ歩いていった。


 ケイはフウの隣に立ったまま、少し間を置いた。


「最初に会ったとき、『また転移してきたね』って言ってたな」


 フウが草を見たまま、「うん」と言った。


「前にも会ったことがあるのか」


「そういうわけじゃないけど」


 フウが首を傾げた。


「なんか、ずっと来るって思ってた。ケイが。わかんないんだけど」


「わかんない?」


「うん。なんか、ずっと前から。なんでかは、わかんない」


 ケイは答えなかった。


 ——転移してきた、ときに。


 フウは、すでに、いた。


 フウが、草の上に座り直した。


 ジンが戻ってきた。


「帰るぞ」


 フウが立ち上がった。


 ケイは何も言わなかった。


 三人で街道を戻った。


 ケイは、その先を、見ていた。


 城壁が、低く見えた。


 ——城下だけで、これだけ出た。


 ——北は、どうなっている。


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