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一つの命が再燃し、また一つの命が燃え尽きる

「はは、俺としたことが情けないな……こんなことになるまで何もできないなんて……」


 直後、レリアの後方から聞き慣れた男の声が聞こえる。


「……博士?」


 髪はボサボサで、面影もかなり消え去っているが、それでもレリアには分かった。


「あーあー、目元が真っ赤だぞ? ……はぁ、不甲斐ないな、俺は」


 冗談っぽく博士は言ったのち、静かにそう呟く。


「博士……良かった、博士は生きて――」


 レリアが安心した表情でそう言いかけると、博士はそれを遮って話した。


「おっと、感動の再開はできないぞ……なんてったって、俺はアルファに埋め込まれた装置のせいでもうすぐ死ぬ。発動条件はアルファの死だからな」


「! なんで! またお別れなんて――」


 悲痛な表情で言うレリアだが、博士はまたもそれを遮って言った。


「だから待てって。確かに俺は死ぬ。が、元より寿命は長くない見込みだった……それに、お前らに何も寄越さず死ぬのは俺が許さない」


 博士はそう言ってアルファの方に駆け寄った。


「これは酷いな……何か治療器具はないか?」


「治療って……治したら危ないでしょ」


「それは後でどうにかする。今は数十分死なないようにするだけで十分だ」


「……分かった。これくらいしかないけど、使って」


 そう言ってレリアはリレイの持っていた包帯を渡した。


「分かった……少し心許ないが、時間稼ぎはできるだろう」


 博士はアルファの傷の部分に包帯を巻き血塗れであることも厭わずにアルファを抱き上げた。


「急ぐぞ、時間がない」


「待って……何するの?」


 涙を拭い、立ち上がるレリア。


「アルファの治療だ、改造されたところも含めてな」


「治療って……そんなことできるの?」


「あれが生きていればできる……それに、生きていなかったとしても俺はやる」


 確固たる意思をその瞳に秘め、博士は走り出した。


「待って、走ったらアルファが危ないでしょ」


 レリアに引き止められ、博士は止まった。


「できるだけ揺らさないようにするから大丈夫だ。それに本当に時間がない」


 が、レリアの方をちらりと見て説明した後、また走り出した。


「……分かった」


 レリアもそれを追っていった。


 ◇


 壁は一部ボコボコになっているが、先程の施設の様子と比べこの辺りは原型の残っている部屋が多いようだ。

 その中の一つの部屋に博士は入っていった。


「ついた、ここだ。よし、まだ壊れていない」


 そこはベッドと様々な治療器具が置かれた部屋だった。


 博士はそう言ってアルファをベッドに寝かせた。


「ここ……集中治療室? まだ壊れてなかったなんて……」


「ここはバリアスの科学の粋を集めて作られた場所だ。あいつらはよほど死にたくなかったらしく、この辺りは電源含めこんなことがあっても壊れないようになっている。まさかこんな形で役に立つとは思っていなかったが」


 そう言いながら博士はディスプレイを弄りだした。


「衛生面も問題ないな」


「博士、私にできることは?」


「俺が言ったら多少の命令には従ってくれ。だが、それ以外は何もしなくていい。これは俺の最期の大仕事だからな」


「……分かった」


 レリアは何かをいいかけ、それをやめて俯いてそう言った。


 博士は周囲のアームなどを動かして、アルファに向けていく。


「アルファなら素の再生能力で……」


 それはアルファの前で動き回り、治療を始めた。


「最初に治療して大丈夫なの?」


「麻酔があったからな。今の状態なら効くはずだ」


 ディスプレイをトントンと叩いて博士は言った。

 レリアはそれを覗き込むが、あまり分かっていない様子だ。


「……うん」

 

「よし、治療はこんなものでいいだろう」


 依然として血塗れのままだが、呼吸が安定しているように見える。


「早いね」


「そうじゃなきゃ困るからな。さて、次が山場だ。カイラの野郎、とんでもない置き土産を置いていきやがったからな……」


 そう言って再び博士はディスプレイを弄りだす。


 しかし、今度はすぐに終わりというわけには行かないようだ。

 ディスプレイには定期的に赤色のポップアップが表示されている。


「クソっ、本当に面倒だな……」


「カイラ……本当に酷い人間だね」


 その表情は怒りの色が見える。


「ああ、そうだな……ただ、あいつだって楽な人生を歩んできたわけじゃない。恨みに囚われるなよ」


「……分かってるって」


 目を逸してレリアは言った。


「はは、怪しいな」


 軽く笑う博士の額には、汗が浮かんでいる。


「クソっ、これも駄目か……」


 深呼吸をしてから額の汗を拭い、作業を再開する。


「ならこれで……よっし!」


 博士は小さくガッツポーズをした。


「成功した?」


 期待を込めた表情で博士に聞くレリア。


「ああ……これで、もう大丈夫――うぐっ!?」


 安堵した表情でそう言おうとするが、直後に胸を押さえて倒れ込んでしまう。


「博士!?」


 レリアはすぐさま駆け寄る。


「き、来たか……そろそろ、お別れみたいだな……すまんな、レリア。思えば、今までずっと背負わせてばかりだった。今回も――くっ、そうなるとはな……」


 脂汗を浮かべながら博士は言う。


「博士……大丈夫、大丈夫だよ……私だって……強くなれた……」


 泣きそうな目で、それでも涙を堪えて笑顔を作り、レリアは博士に言った。


「……ありがとう。アルファは、治った……俺が残せたものなんてこれくらいしかないが……そうだ、レリアの友達にも挨拶できず……」


「いい、いいから……もう、大丈夫だよ」


 博士の手を強く握ってレリアは言った。


「そうか……すまんな……ありがとう、レリア」


 レリアは博士が拍動が止まるまで、その場を一歩たりとも動くことはなかった。

「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです。

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