妹は守れず
それから、私は任務の途中に見慣れない痕跡が合った場合その原因を探しに行くようになりました。
「今回も何もありませんか……」
特にこれと言ったものは見当たりませんでしたがね。
『リレイ、どこ行ってるの』
レリアから通信が入りました。
レリアは、あの時からさらに感情が薄れていったような気がします。
当時、私はそれをレリアがあのことを受け入れたものだと思っていましたが、今覚えばレリアなりの自己防衛、つまりただの現実逃避だったのでしょう。
私としたことが、そのような勘違いをして対応を誤ってしまうとは不甲斐ないですね。
「今、特殊な痕跡を見つけたので探していました。すぐ戻りますね」
『分かった。ジェイルも言ってたけど、最近は……色々変なことが起きてるみたいだから、あんまり迂闊に行動しないでね』
「……そういえばそうですね。すいません。以後気をつけます」
あの頃は焦っていて、あまり指示も頭に入っていなかった記憶があります。
◇
アルファが改造されてから数週間、しばらく音沙汰がなく、バリアス連邦もピリピリした様相になっていました。
メインユニットの一人だったアルファがいなくなったのはかなり響いている様子でした。
そして、ここでまた事件が起きます。
「どうだ、アルファについては何か見つかったか?」
「アルファはどこかへ言ったという痕跡なら見つかりましたね……そろそろ認めるしかないんでしょう」
「……そうかもな」
「最初から本当だったって言ってたでしょ? アルファはもう帰ってこない」
レリアが悲しげに言いました。
「……そうですね。ですが、全てを失ったわけではありません。さて、ジュースでも買いに行きますか。何がいいですか?」
私はなるべく良い雰囲気になるよう、切り替えてそう言いました。
「アイスティーを頼む」
「……オレンジジュース」
「おや、相変わらず素直な注文ですね」
「うるさい。こういうのは素直に好きなもの頼まないと後悔するでしょ」
レリアはそっぽを向いてそう言いました。
「はは、そうですね。では――」
直後、壁が大きな音を立てて破壊され、粉塵が舞いました。
「何が起きている! 警告音だって一つも――とりあえず離れろ!」
博士の顔は見えませんでしたが、声から焦っている様子が伺えました。
「状況確認が最優先」
そう言ってレリアは正面に手をかざし、過負荷能力を用いて風を起こし、粉塵を壊れた壁の方へ散らしました。
「これは……みんなも一緒なんだね」
そこから出てきたのは、青髪の長身の男――アルファでした。
「アルファ? 戻ってきたのですか?」
一瞬、私は嬉しく思いましたが、現在の状況、そして、横のレリアの様子を見てその喜びはすぐに消え去りました。
レリアの方をちらりと見ると、その顔は驚愕に染まり、手は震えていました。
「なん、で。戻ってきて――」
震えた声でレリアはそう言いました。
「そりゃあ、博士を連れ戻すためさ」
「連れ戻すって……博士の居場所はここ、そっちじゃない。正気に戻って!」
その声はまだ震えていましたが、そこにはアルファを説得しようとする力強さがありました。
「そうですよ。カイラに改造されたとは言え、なぜそうなってしまったのですか。まだ戻れるはずです」
私達の説得も虚しく、アルファは気が変わった様子はありませんでした。
「何言ってるんだ。そっちもこっちも同じようなものじゃないか。さあ、博士を早く」
「分かった。何言っても聞かないんだね」
そう言ってレリアは拳を握り、アルファに向かって行きました。
「おっと、危ないなぁ」
それをアルファはひらりと避けました。
レリアはその後すぐに私のいる位置まで引いてきました。
「レリア! アルファと戦うんですか!?」
「今はそれしかない」
悔しそうな表情でレリアはそう返しました。
「ですが……いえ、確かに、言うとおりです。腹をくくるしかないようですね」
私は渋々ながら決断をしましした。
その時のアルファは手加減していた状態です。勝てる可能性はあったはずでした。
が、アルファはカイラの改造で強化されていたのか、私達はアルファの実力を見誤りました。
「それじゃあ、申し訳ないけど、リレイとレリアには下がっててもらうよ、ごめんね」
そう言ってアルファはレリアに向かってまっすぐに前進してきました。
しかしその速度が以上に早く、レリアでもそれを避けられませんでした。
「ぐあっ!」
吹き飛ばされ、受け身を取りましたが、攻撃をもろに受けたため、かなりのダメージを負ったようでした。
「な、なんでこんなに早いの……」
「なんでか知らないけどね、あの日から強くなったのさ。それに、あの日から生まれ変わったみたいで――」
「うるさい!」
レリアが拳を振りかぶりますが、軽々と避けられます。
「レリアにはこれくらいがちょうどよかったかな?」
そう言ってアルファはショットガンをレリアに突きつけ、それと同時に発砲しました。
レリアはそうして力なく地面に倒れ込みました。
「レリアっ!」
「大丈夫、非殺傷弾だからちゃんと生きているさ」
アルファは飄々とそう言います。
「そういう問題では……! 分かりました」
決意を固め、自分に出せる最高速度でアルファの意識を掻い潜るように二段階のステップを入れ、拳を振りますが、それも軽く避けられてしまいます。
「これも避けられ――」
「リレイならこれでもう動けなくなるよね?」
そう言ってアルファは私の腹に拳を入れ、私は強い衝撃とともに何十メートルも吹き飛ばされました。
「かはっ……い、いつもより強いです、ね……」
それでも私は立ち上がり、アルファのいたところへ戻ろうとました……が、後ろから奇妙な音と、大きな警告音がなりました。
後ろを振り返ってみると、そこはこの施設の火薬庫でした。
『警告。火薬庫内部の製品への着火を検出、大至急火薬庫から離れてください。繰り返します、火薬庫から離れてくだ――』
次の瞬間、私の前に人影が現れ――それと同時に大きな爆発が起こりました。
声も出ないほどの痛みに苦しみながら朦朧とした意識の中声が聞こえました。
「リレイ! アルファ! ……もう、分かった。アルファ。やめてくれ」
「ゴホッ……博士、こっちに来てくれるんですか?」
「そうだ、もう分かった。やめてくれ。アルファも、リレイも、レリアも、傷つくところが見たくない」
「……はい、分かりました、一緒に行きましょう」
かろうじて残った意識の中、目を開くと、アルファが博士に手をかざしていました。
「待て、何をしようとしているのかは分からないが、リレイは直してくれよ?」
博士がアルファの手を掴み、聞きます。
「当然分かっています。私の不注意でこんなことになってしまいました。直さなければ」
再度アルファは博士の手をかざすと、今度は博士が懐から何かを取り出し、アルファに何かしたように見えました。
「俺の願いは一つだ。お前らが、また笑い会えるようにしてくれ……な?」
「私はそのためにやっているんですよ?」
「……どうだかな」
それが、私の最後の記憶でした。
「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです。




