レリアの感情
リレイが向かった扉の前には、数人の人が集まっていた。
そしてその大半は白衣を来た人間だった。
(レリアさんの部屋はここのはずですが……)
「やめておけと言っているだろう。後にするんだ、最高権利者の言うことが聞けないのか?」
そこにはケイルもいた。何やらレリア目的で人が集まっているようだ。
「そ、そんなことはありませんが……取材などできないのですか?」
白衣を来た男の一人が、ケイルにそう問うた。
「駄目だ。少なくとも今はな」
「は、はぁ……分かりました……」
白衣の男は渋々といった様子で引き下がっていった。
「なんだよ……少しくらい聞かせてもらったっていいよな?」
「だよな。あの惨状を引き起こした侵入者と対等に戦った人間なんて気になるだろ」
その集団は何やら愚痴をこぼしながら去っていった。
『ケイルさん、ここに来ていたんですね』
「ああ、ここに来る予定はなかったのだが、何やら彼らが取材をしたいだとかでな。止めていたんだ」
『なるほど。止めてくださってありがとうございます。今のレリアには少々厳しいでしょうから』
「問題ない。それでは私は戻っている」
そう言ってケイルは去っていった。
『分かりました』
その『客室』と書かれた扉に近づくと、カシャンと軽い音でドアが開く。
『お邪魔しますよ〜』
リレイは部屋に入って、辺りをキョロキョロと見回す。
「……リレイ? 何か用?」
豆電球一つで照らされた暗い部屋の中、奥の方からレリアの声がした。
その声は普段よりも少しばかり小さく聞こえる。
『いえ、ただのちょっとした話です。ああそう、あと一つ大事なお知らせが』
「何?」
『一部、記憶が戻りましてね』
レリアの方からガタッという音がする。
「……どこらへんからどこらへんまで?」
『博士のことから、私達四人のことを大体、です。まだ一部記憶が朦朧としている部分もありますが……おおまかには思い出しました』
「……ありがとう。思い出してくれて」
リレイの方を向いてそう言った後、また下を向いてしまった。
『……あまり、気分がよろしくないようですが』
「記憶が戻ったなら、分かるでしょ?」
レリアは目を合わせずにそう言った。
『まあそうですね。アルファは、元はああではなかったですから』
「そこもちゃんと覚えてるみたいだね」
レリアは自嘲気味に笑った。
『そうですね。バリアス連邦所属研究員、カイラという男が、兄弟同然だったアルファを改造して、利用しようとした。が、アルファに牙を向けられ、死亡した。なぜこんな重要なことを忘れてしまっていたのでしょうか』
「……そうだね」
机の上のペンを指先で弄りながら小さく答えるレリア。
『それと、聞きましたよ。昔興生に来たことがあるんでしたね』
「! ……なんでそれを知ってるの?」
ペンを弄る手を止め、リレイに問うた。
『ケイル・ウィリアムさんから聞きました』
「……あいつね」
ため息を吐き、再びペンを弄りだす。
『彼のこと、許してあげませんか? 彼も、後悔しているようですし』
「多分、そうした方がいいんだろうね」
『――それと、自分自身のことも』
「……何、言ってるの?」
今度はペンを掴んで、そう言った。
『そのままの意味です。どうせ責任感が強いあなたのことですから、未だに自分を許せないでいるんでしょう?』
「許せるわけ無いでしょ……私は探して元に戻さなきゃいけなかったアルファから逃げて、守るのだって簡単だった興生から逃げたの。こんなことをしたやつが、許されていいわけない」
レリアは、立ち上がってそう言った。
『では、私が許しましょう』
「簡単に言わないで! 私は、自分にできたことから全部逃げてきたの! 助けられた命だって沢山あったはず、でも我が身可愛さに逃げたの!」
声を荒らげてそう言うレリア。
『でも、できなかったんじゃないですか……いえ、責めようという話ではありません。実力で見ればできたかもしれません。ですが、レリアはできなかった。アルファはおかしくなって、私も途中で深い傷を負って暫くあの施設で眠っていました』
なおも冷静に言うリレイ。
『助けられた命があって、それができなかった。そのことを認識するのは大事です。ですが、あの状況で人助けをしろ、という方が無理があります。しょうがなかったんですよ、全部。レリアが行動できなかったのも何も悪いことじゃありません。私を含めた他の人間全員、誰も責める権利なんてありません』
最後に『私なんて妹を置いて先に何年も昏倒ですからね』と付け足した。
「でも――」
『レリア、あなたを許していないのは、あなただけです。ケイルさんも、彼は自分がしていたことが間違っていた、と言っています』
「……私のことを非難する人は多かった。私がフェニックスだって知ったときも、私が何かしでかすって……」
レリアは先程よりも少しばかり落ち着いた様子でそう言う。
『彼らも、自分が許せないだけで、その自分の罪悪感を誰かに押し付けようとしているだけです。レリアがそれを背負う必要はありません。それに、私達だって好き好んであんなとんでもない組織の構成員をしていたわけではありませんし』
リレイはディスプレイの顔の近くに『w』の文字を表示させながらそう言った。
「でも、私はアルファを助けられたのにそうしなかった、博士を助けられたのにそうしなかった。リレイも、探せたのにそうしなかった――」
レリアは俯きながら言葉を並べる。
『ですから、できなかったのです。仕方がありません』
レリアは顔を上げ、リレイと目を合わせる。
『自分を許してあげられませんか?』
リレイは、しっかりとレリアの目を見て、そう言った。
「……ごめん、ちょっと考えてみる」
しばらくした後、レリアはそう言って椅子に座った。
『是非じっくり考えてみてください。私は待ちますから。それではトンズラすると致しますかね』
そう言ってリレイはくるりと回れ右をして、扉の方へ向かった。
「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです。




