ケイルの懺悔とリレイの記憶
私はまず最初に彼女の部屋を捜索することにした。
勝手に入るのは如何なものかと思いもしたが、彼女が連絡がつかないのは異常だ。
まずノックをしたが、もちろん何も返ってこなかった。
「は、入るぞー」
部屋の中は、ほとんど何もなかった記憶がある。
棚の中に数冊の本と、あとは小さな観葉植物が一つ程度だった。
しかしテーブルの上を見てみると、紙切れが一つあった。
そこには『私には耐えられなかった。もう返ってくることはないと思う。ごめん』と書いてあった。
「……一体どういうことだ」
最初、私は何が書いてあるのか理解できなかった。何に耐えられなかったのか、なぜ出ていったのか。
◇
私は様々な場所を探し回ったが、やはりどこにもいなかった。
しかし、情報は手に入れられた。
それは、興生の人間がした彼女に対する仕打ちや、彼女の過去。
「『人間じゃないよく分からないものが防衛隊で単独行動することは――』なんだこれは……ふざけているのか!」
実動隊で使われていた連絡メモのようなものに目を通して、私は悪態を吐いた。
彼女が人間でないことは防衛隊の実動隊には知れ渡っているようだった。
指揮官であった私はそんなことは全く知らなかった。私は、彼女のことを頼っていながら、彼女のことを何も知ろうとすらしていなかったのだ。
「あの時の陰口の延長線のようなものだったのか……彼女はこんな仕打ちを……クソっ!」
私は元々、孤児院育ちで、陰口や、自分の境遇に対して言及されるのがいかに辛いことかを分かっていたはずだったにも関わらず、私は何もできていなかった。
――その後、私は捜査をやめたほうが良いと考え、打ち切りにした。
上への説明が大変だったが、なんとか丸め込めたな。
そして、そうした後も、私は彼女の情報を調べていた。
知ったのは、バリアス連邦が作った生物兵器。『フェニックス』についてだ。
私が探し出した情報から、彼女はフェニックスだろう、という結論を出した。本人に聞いたわけではないから、確定ではないがな。
バリアス連邦が機械獣を作ったのは知っているかもしれない。
しかしバリアス連邦は単純な悪の組織ではなかったのかなんなのか、機械獣に対抗する兵器も作っていたようだ。
◇
「……そりゃ初耳だな」
健人はケイルの話に口を挟んだ。
『知らないのですか? バリアス連邦は、機械獣を兵器運用するために作り、それが暴走して今の世になったんですよ? かなり大変なことをした酷い組織として認知されていますね』
「随分とんでもねぇ国だな」
健人は真面目な顔でそう言った。
「いや、国ではない。国を自称した組織だ」
「……随分とんでもねぇ組織だな」
健人は困惑したような表情で、言い換えた。
「話が途中だったな、話を戻そう」
◇
それで、フェニックスについて少しだけ知ることができた。少しだけ、というのは、そもそもフェニックスは情報が少なかったのだ。
フェニックスは、高い再生能力と防御力を持った継続戦闘がメインの生物兵器で、攻撃面も身体能力などが平均的に人間より高く、自分の体の中のエネルギーを無理に使うことによって魔法のようなものが使えたり、自身の身体能力の向上などが可能になる。
もちろん持久戦には向かないが。
「彼女は……フェニックスだったのか」
私はそれを知って、やりきれない気持ちになった。
強者には、責任が伴うものだ。しかし、強者であるべくして生まれた強者に、その責任を背負える器があるのか。
恐らく、なかったのだろう。
私は知らぬ間に、彼女に過度な期待と責任を押し付けてしまっていたのだろう。
彼女が無表情なのも、自らの感情を押し殺すため。
誰とも合わないのは、自分を含めた誰も傷付けないため。
紙に書かれていた『ごめん』の字から、本当はきっと人を助けたいのだろう。しかし、耐えられなかったのだ。
これは私の単なる想像なのかもしれないが、だとしても私はそれを反省する必要があった。
いや、反省しても、もう遅いのかもしれないが。
「何も……知らなかったんだな」
◇
「……と言ったところだ。まあ、私は何も知らないまま、まんまと彼女を逃したわけだ」
ケイルは自嘲気味にそう笑った。
「正直言うと、確かにそこそこやっちゃいけねぇことはやってるな」
健人は忖度せずにそう言った。
『私は、それでもいいと思いますがね。大変な時期だったでしょうし、しょうがないです。反省できただけで十分ですよ。もちろん、自分のしたことはしかと受け止めなければなりませんがね』
「……そう言ってくれるとありがたいが。私には足りないものが多すぎたな」
ケイルは自分の手を見つめ、そう言った。
『まあ、レリアを傷付けたのはちょっとだけ怒ってますがね?』
リレイは冗談っぽくそう言った。
言葉は事実だろうが、強く感情が出ているわけではないようだ。
「……すまない」
ケイルは頭を下げてそう言った。
『ああいえ……大丈夫ですよ』
リレイは予想外の返答に困惑しながらも、そう返した。
「ところで、嫌なら答えてくれなくてもいいのだが、君とレリアはどういった関係だったんだ? 元から一緒にいたという話を聞いているし、今の発言も、かなり親しいように見えるが。それに、記憶喪失だとも聞いていたし、そこも気になる」
『なんですか? 気になるんですか?』
リレイはずいとケイルの方にその球体の体を近づけて、そう言った。
「いや、答えたくないなら大丈夫だ」
ケイルは表情を変えずにそう言った。
『……そんなことはありませんので是非。言うなれば家族、といったところでしょうか。今はこんな体ですが、元はレリアと同じフェニックスでしたから』
リレイはまたも困惑しながら、答えた。
「! ……そうだったのか。ますます申し訳ないな」
『まあまあ。反省しているようですから深くは言いませんよ』
リレイは変わらない様子でそう言った。
「ありがたい」
『さて、ケイルさんの話も聞けたことですし。私はレリアと合ってきますかね』
「ああ、そういえば最初そんなこと言ってたな。何するんだ?」
健人は、リレイがレリアに会おうとしていることを少し前に聞いていたらしい。
疑問に思った健人が声をかける。
『ちょっと、励ましてきます』
リレイは、短くそう答えて去っていった。
「では、私も用がある。また会おう」
ケイルも同じように去っていった。
「おうよ」
「ここがよくないかも」「ここが面白いかも」などのご感想等あれば頂けると幸いです。




